第九話
しばらく月日が経った頃のクルタでは。
「――まてー!」
「おい、そこ隠れんのは反則だぞ!」
「ごんぞーなんかやっちまえー!!」
ゴンゾウは面倒見もよく、多くの子供達からも懐かれていた。親身になって子供の遊び相手をしてくれるため、仕事で忙しい親御達からも信頼されている。
「いつもすまんな……ほら、これ持って来な」
「いやいや、こんなたくさん食べきれないっすよ!」
持ち前の優しさがあちこちで評判を呼び、街へ来てから三ヶ月ほど経つ頃には、多くの民達と仲良くなっていたのであった。
「ようゴンゾウ、調子はどうだい?」
「すこぶるいいぞー!」
「ゴンゾウさーん、後でウチ寄って行ってよ!」
「あいよー!」
レイと交わした“目立つな“という話はどこへやらだが、いかんせん“ジッとしてられない性分”だからどうしようもない。
手土産を貰ったゴンゾウが歩いていると、何やら役人らしき格好をした二人の男が、色んな人に聞き込みをしているようだ。
「――仮面騎士ってのはどこにいるんだ?」
「いえ、わかりません……」
「仮面騎士はどこから来るんだ?」
「……さぁ」
「何で誰も知らないんだ!?」
「……まぁまぁ、落ち着いて下さいな」
どうやら二人の男は国連軍から派遣されてきた調査員らしく、仮面騎士を軍に招き入れようと情報収集していたのだ。
ところが、聞けども聞けども誰一人として仮面騎士の素性を知らぬ者ばかり。調査員も“ホントに仮面騎士なんているのか”と、存在自体を疑う他なかった。
最終的に調査員は渋々と溜息を吐きながら諦めて街を後にすると、その様子を陰から見ていたゴンゾウは思った。
もしかして、レイが正体を隠していたのはこれを狙っていたからなのか。クルタから……離れないようにするために。
レイの思惑を悟ったゴンゾウは、彼の思慮深さに感心するのであった――。
今にも雨が降ってきそうな、暗い雲が空を覆っていた日のこと。
いつものようにエレナの店でゴンゾウが昼食を取っていたら、突如見慣れない若者達が入店してきた。途端――ゴンゾウの目が胡麻粒のような点になる。
「……ん!?」
緑のローブを着た好青年の後ろには、露出の激しい服を着た娘達が五人もズラリと並んでいた。
「六人って座れます?」
剣士のような格好こそしているが、どこか気の抜けた様相の青年がエレナに尋ねる。
「あ、はい! えーと……今そこの席を片付けるので、少々お待ちくださいね!」
慌てたエレナがテーブル席の皿を片していると。
「腹減ってるから早くして」
などと、青年が太々しく偉そうな態度を取る。そんな青年に対してエレナも「すいません……」と、少し唇を噛んでテーブルを一生懸命に布で拭いていた。
「ねぇヨシヒサ〜、やっぱこんなボロい店やめようよ〜」
「もっとお洒落な店がいい」
「うわ……なんか変な匂いする」
ヨシヒサと呼ばれる青年の背後で、ブツクサと文句を垂れる娘達。そんな集団をゴンゾウは目を細めて睨んでいた。
悪態ばっかつきやがって、何だこいつら。旅人には間違いなさそうだが。
「――お待たせして申し訳ございません、こちらへどうぞ!」
エレナが着席を促すと集団はドカドカと椅子に座り、ヨシヒサがメニュー表をやおら手に取った――が、すぐにそれを閉じてテーブルに“パサッ“と投げ置いた。
「もういいや、とりま値段が一番高い定食を人数分って感じで」
「あ、はい……六名様分でございますね……」
困惑気味にエレナが注文のメモを取っていると、ヨシヒサが椅子の背もたれに寄り掛かった。
「君けっこう可愛いね。彼氏とかいんの? ちな何カップ?」
突飛で失礼極まりない問いに動揺したエレナが「……え?」とたじろいだら、他の娘達が騒めき出した。
「え〜、ちょっと好みのクセがエグいって〜!」
「またそうやって無駄に仲間増やそうとするの辞めなさーい!」
「チャラいのはオコですよ! あたしオコですよ!」
「いやいや! こんな廃れた街にいるより、俺の側で一緒に旅してる方が絶対安全でしょ!?」
昼時で人の混んでいる店内で、他の客達が集団に対して変なものを見る目で料理を口に運んでいる。渋い表情をしたエレナも彼等を相手にしたくないのか、そそくさと厨房へ入ってしまった。
エレナのその対応に、ヨシヒサが眉を“ピクリ“と持ち上げる。
「うわ〜あいつシカトして行きやがった。全然店員の教育なってないじゃん。俺が店長だったらソッコーであんなのクビなんだけど」
ブチッ。
頭の血管が破裂するような感触を覚えたゴンゾウが、拳を握りしめて立ち上がる――しかしそこへ、いつぞやの三人衆が血相を変えてヨシヒサの前に立ちはだかった――。