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第八話

 ある大きな孤島で、山が円を描くように連なる地帯がある。中心には悠然と魔王城が聳え立ち、その内部では何やら不穏な動きがあった。


 玉座の間。


 歪な獣の像が両脇に並ぶ、異質な空間の奥にある玉座には――足を組んで座す悪魔がいた。

 

 魔王『ジェノム』。


 大きな黒い翼を広げて頭から生える捻れたニ本の角。黄色く光る切長の鋭い眼。筋繊維が剥き出しの筋骨隆々な真紅の肉体。

 体の大きさは人間とさして変わらないが、肝を底冷えさせる異様な威圧感のせいか、恐ろしく巨体に見える。


「――この世は強者が全てだ。勿論、この世界で一番の強者は結局俺だろ?」


 これまで、数多くの人類の希望がジェノムによって葬られてきた。それほどまでに、魔王の力は果てしない強さを持っていたのだ。


「紛れもなく、世界最強はジェノム様で御座いますねぇ」


 そう両手を擦りながら相槌を打ったのは『ヒルデシュタイン』という魔王の側近。

 薄紫の長い髪を後ろで結い、三日月型の細目に丸い眼鏡を掛けた面長でシャープな顎。“捻くれ者”を絵に描いたような顔付きをした魔人の科学者である。

 近年魔物達が力を付けてきたのも、ヒルデシュタインの存在が大きく関わっている。


「だろ? でもよ、これ以上人間共を無駄に殺すのはやめようかと思ってんだわ」


「ケヒ? 何を仰りたいので?」


 怪訝な顔をするヒルデシュタインが、“人間に同情でもしてるのか”と言わんばかりに顎を指でなぞると、ジェノムは前屈みになって鋭い眼を光らせた。


「人間共を生きたまま捕獲して、完全に俺らの支配下に置いちまうんだよ。食ってもよし、弄んでもよし、なぶり殺してもよし。名付けて『人類家畜化計画』だ」


「ほぉ〜、それはまた愉快なことを思い付きましたなぁ。確かにただ魔物だけで世界を埋め尽くすよりかは、幾分楽しそうで御座いますねぇ、ケヒヒヒヒ」


 弱肉強食――それがこの世界の(ことわり)


 豚や牛が人間の家畜となっているように、人間も魔物の家畜になるべきだとジェノムは主張する。さらに、人間の女を孕ませて強力な『魔人』を産み出すと意気揚々に立案した。


 人間と魔物の遺伝子が混ざることで『魔人』と呼ばれる生物が産まれ、それは理性が失われて凶暴に育つ。しかし、魔物に比べて高い知性を持つため、人類にとってはかなりの脅威となる。


「俺の遺伝子を受け継いだ魔人を使えば、人間共を支配するなんざ楽勝だろ」


 その言葉に頷いたヒルデシュタインは「では、人間は捕獲して船でこの島に輸送するように、と部下共へ命じておきましょ」と頭を下げながら返答した。


 魔王城の真上では、不吉を予感させる雷雲が渦巻いている――。

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