第五話
「ぐわぁぁあ！」
「きゃあー！」
と、街中のあちこちで悲鳴が聞こえてくる。仮面騎士の登場が遅い事に、民達は今更になって焦り始めていたのだ。
醜くも狡猾な知恵を持つゴブリンは、人間の女を繁殖の苗床にして子供を食料にする魔物。単体の戦闘能力は雑魚にしろ、群れで来られると意外に厄介――だが。
「おい、あれを見ろ！」
一人の男が指差した先に民達が視線を集めると――屋根の棟に乗ってマントを靡かせる仮面騎士の姿があった。
「待ってましたー！！」
「早く降りてきてー！」
さっきまで焦燥としていた空気が嘘のように、民達が仮面騎士の登場に喜んで騒ぎまくる。
いや〜まいった、これはたまらん！
ゴンゾウは皆から注目を浴びる嬉しさの余り、つい手を振ってしまった――が、「……ん？」とその所作に違和感を感じ取った民達が一瞬静まり返る。
おっと、俺何かやったなこれ。
とは察したものの、すぐに屋根から飛び降りて着地したゴンゾウに対して再び民達から歓声が上がった。
ところが、仮面騎士に注目していたのは民達だけではなかった。今まで散り散りに民を襲っていたゴブリン達が、全員ゴンゾウの方へ向けて走ってくるのだ。
「うわ、本当にきた！」
レイの話では、装備には『誘き寄せ』の魔法がかけられているらしく、魔物が仮面騎士に集中するような仕組みになっていたのだ。
パッと見たゴブリンの数は約十五体。その先頭を走る個体が勢いよく飛びかかってきた。
「ぅおりゃッ！」
剣を振り下ろした渾身の一太刀は――豪快にゴブリンの体を切り裂いた。
「おおー！」
「さすがー！！」
「もっとやれー！！」
初めて街に来た時の雰囲気がまた訪れてくると。
よし……このまま俺が仮面騎士を演じ切って見せる！
手応えを感じたゴンゾウが間合いを取りながら、近くのゴブリンからを見事な剣捌きで切り刻んでいく。
バタバタと倒れいく魔物の姿に大きな盛り上がりを見せる民衆の中、少数の民が若干の疑問を抱いた。
「あれ……戦い方変えたのかな？ いつもと剣も違うし」
そう。
ゴンゾウが剣のみを振るう生粋の剣士スタイルなのに対し、レイは体全体を使って拳や蹴りによる打撃も使用する。また、レイから予備の蒼い剣も授かってはいるが、ゴンゾウは使い慣れた相棒の愛剣を振りたかった。
その違いに気付いた“濃いめの仮面騎士ファン”が、少数ではあるがそこにいたのだ。
とはいえ、仮面騎士が登場したこと自体が民にとっては喜ばしいこと。そんな違いなど些細である――。
ふぅ……何とかいけたな。
こうして、無事にゴブリンの群れを一人で討伐し終えたゴンゾウは、民達の興奮冷めやらぬ中でも例の如く、すぐさまその場を立ち去るのだった――。
