第三話
翌朝。
ひとまずゴンゾウは、街の形状や建物配置を把握するため、しっかりと散策することにした。いつ魔物が襲来してきても、迷わないようにしなければならない。
するとそこへ、子供達が三人ほど路地から走り出てきたと思いきや、戸惑うゴンゾウを取り囲んできた。
「――ねぇ! おにいちゃんって、たびしてる人ー!?」
「ん~まぁそうだな、色んな世界を歩いて来てるんだよ」
しゃがみながらそう返したゴンゾウに「カッコいい!」と興味津々な子供達が「いっしょに遊ぼうよ!」と甘えてくる。
「よしわかった、じゃあ“追いかけっこ“しようぜ! 俺が鬼役になるからよ!」
「やったー! ――」
予定は少し狂ったが、ゴンゾウは子供達を追いかけながら街中の道を頭に叩き込んだ――。
昼時になり、腹ごしらえをしようと安そうな飯屋を探していたら、何やら繁盛してそうな店があった。店先に立てかけられた看板メニューの金額も申し分ない安さだ。
ゴンゾウが「空いてますか?」と店内へ入った途端、「いらっしゃい!」と可憐な女性が元気良く迎え入れてくれた。
「あら、見ない顔ね! 旅人さん?」
「あ、へい……あっしはしがない風来坊でやんして――」
女性の扱いが苦手やゴンゾウは、特に器量がいい娘を前にすると緊張と照れ隠しで、咄嗟に変な口調が出るクセがある。
どうやら娘は名を『エレナ』といって、この街一番の美人らしい。
サラサラしたセミロングの茶髪に同色の大きな瞳。前髪を纏めている花柄ヘアピンがよく似合う彼女は、気さくな性格も相まって色んな男を虜にしているようだ――店が繁盛するわけである。
カウンター席についたゴンゾウがオークカツ定食を注文して待っている間、エレナとは旅の思い出話で盛り上がった。
「――へぇー! 私もそんなとこ行ってみたいなぁ~、まだ街なんか出たこともないし!」
「でも外は危険がいっぱいでやんすよ。護衛がついてないと簡単には歩けないでやんす」
「じゃあ、ゴンゾウさんに守ってもらおっかなぁ……なんちゃって!」
屈託のない笑顔で冗談を言うエレナに、ゴンゾウは顔を真っ赤にして俯いた――が、そんな二人の様子を離れたテーブル席から不穏な雰囲気で眺める輩達がいたことに、彼は気付いていなかった――。
美味なオークカツで腹を満たしたゴンゾウが、今度は装備屋目指して歩き始める。そして、人の影が薄い路地に差し掛かった時。
「おい、そこの男……ちょっと待てコラ」
ゴンゾウが「ん?」と振り向いたら、チンピラ三人衆が「よそモンのくせに調子乗んなよ」と剣をチラつかせているではないか。
「あ、いや、そんなつもりは……」
しかし、三人が問答無用と言わんばかりに襲いかかってきたので仕方なく相手をしたのだが、ゴンゾウは丸腰でも呆気なく打ち勝ってしまった。
『街ではあまり目立たない方がいい。剣士ということも出来る限り悟られるな』
正体を隠す理由は伏せられたものの、レイからそう助言を受けていたゴンゾウは何の変哲もない“平民”を装っていた。
「――ち、ちょっと弱すぎないかお前ら」
「参りました……」
いきなり厄介事に巻き込まれてしまったが、目の前で平伏する三人は街の中でもよく悪事を働く連中だったらしく、「なぜか奴らが大人しくなった」という噂は、あっという間に人伝で広まっていった――。