第二十八話
内部をレイに案内されたゴンゾウは、『主機操縦戦闘司令室』と呼ばれる開けた空間に到着した。
二階層となっている空間の壁面には幾つものモニターが埋め込まれており、総勢三十二名のオペレーター達が席について、何やら忙しそうに眼前の装置を操作している。
呆気に取られたゴンゾウが「この船は一体何なんだ?」と投げ掛けたが、レイの返答を聞いた途端に顔を顰めた。
「――げ、げんしりょくくちくかん?」
「そうだ……私は魔王討伐の決戦兵器として、異世界からこの『原子力駆逐艦ウラヌス』を宇宙にある七基の『通信衛星』と共にここへ召喚する段取りをしていたんだ――」
原子力駆逐艦『ウラヌス』。
ユニスタル合衆国が開発したウラヌスは全長が210mあり、原子炉と蒸気タービンによる複合推進システムを取っている。多角形の構造物を何層かに積み上げたような形状で、外装は艶のない黒で統一される異世界最大の原子力駆逐艦である。
戦闘においては通信を使用した情報交換が必須となるため、レイは通信衛星ごとウラヌスを呼び寄せた。
そして、このウラヌスの艦長を務めるのはユニスタル合衆国海兵軍第八連隊大佐のマキアである。
グレーのオールバックで鋭い眼光を持つ威厳あるその風体は、あらゆる困難を切り抜けてきた貫禄を醸し出していた。
「マキア艦長、彼が私の大切な“同志”であるゴンゾウだ。宜しく頼む」
「同志ってお前……あ、ゴ、ゴンゾウです」
「マキアだ。貴方が“勇敢な戦士”だという話はランパードさんから聞いてるよ――」
マキア艦長は大規模爆破テロ事件で母を失っており、今回の作戦でレイに恩義を返すため、先陣を切って艦長へと就任した。
「しかし、レイ……よくこんな厳つい船なんか異世界から借りれたな……」
「ウラヌスはまだ実戦投入されていない駆逐艦だ。海軍からしても魔王討伐は試運転として最適な案件らしい」
「ま、魔王討伐が試運転か……」
まだ試作段階だったウラヌスの実戦データは海軍からしても喉から手が出るほど欲しかったこともあり、今回の魔王討伐作戦に使用するのはレイとユニスタル合衆国間でも利害が一致する。
「今この船は魔王城に向かってるのか?」
「全速力でな。如何せん時間との勝負だ……タイムリミットを迎える前に魔王を葬らなければならない」
「……タイムリミット?」
ゴンゾウが怪訝そうに聞き返すと、リネットとカズオが割って入ってきた。
「転移してきた兵器達にはこの世界に滞在できる制限時間があるんです。通信衛星は今から二十二時間、ウラヌスに至っては十二時間しか残されていません」
「魔王とは“超ウルトラ短期決戦”って感じになるんすよね。モタモタしてたらこの船は消えてしまって、俺らが海に沈むことになるんすよ――」
ウラヌスの最大速度は42ノットあるが、魔王城付近の海域までは約四十時間以上掛かってしまう計算である。
しかし、これでは制限時間に間に合わないため、リネット達が考案したある方法で魔王城へ急接近する予定だという。
「――ある方法?」
「転移先の目標になる魔法陣を描いた“小型無人偵察機”をすでに魔王城へ向かわせております。偵察機の速度なら魔王城付近の海域まで約三時間程度で到着致しますので、それが確認出来次第ウラヌスを転移させるのです――」
カズオの物質転移能力は、基本的に“転移対象を視界内のどこかに移す”というもの。だが、リネットが編み出した特殊な魔法陣により、例えカズオの視界外であっても魔法陣間であれば転移が出来るようになった。
カズオが脳内で認識出来る魔法陣の数は“最大三ヶ所まで”という条件こそあるが、一つでも魔王城付近へ接近させれば作戦成功率は大きく飛躍する。
ウラヌスを召喚する前日。
リネット達は二機の小型無人偵察機を魔王城へ最短で行ける安全地帯に予め配置していた。そして、ウラヌスを召喚すると同時に小型無人偵察機を魔王城に向かわせていた――。
「――な、何でそのナントカって奴を前日から飛ばしておかなかったんだ? 先に到着させとけばウラヌスをすぐに転移出来ただろ?」
「魔王城付近は周囲を警戒する魔物と遭遇するリスクがメッチャ高くなりますからね。下手に小型無人偵察機を先行させ過ぎて、もし敵に発見でもされたら撃沈される恐れがあったんすよ」
「ほ、ほう……なるほどね」
カズオの説明を聞き終えたゴンゾウが、そろそろ質問するのが面倒になってきたのか頭の後ろで腕を組むと、室内でオペレーターの一人が声を上げた。
「小型無人偵察機から通信衛星を通して、映像を受信することに成功致しました。七番モニターへ偵察機の現在地と現地映像を表示致します」
突然モニターに映された映像には、白く広大な雲海が広がっていた。目まぐるしく通り過ぎていく雲の様子から、小型無人偵察機が恐るべき速度で飛行しているのが伝わってくる。
「な、なんだあれ……? とんでもねぇスピードでぶっ飛んでたんだな……」
ゴンゾウが目をパチクリさせている隣では、カズオが少し安心したような顔付きになっていた――。




