第十三話
「おりゃー!!」
と、気合い十分に振り下ろされたヨシヒサの剣撃をゴンゾウはあっさり右手の剣で防御すると――ヨシヒサの顔面に左手で渾身のストレートを叩き込んだ。これはレイの戦法を真似た反撃である。
「ッぶへぁ!?」
そのまま地面に突っ伏して“ピクピク”と痙攣するヨシヒサの鼻は完全に骨折しており、さらに鼻血も垂れ流し始める。
拳を一発喰らっただけで伸びてしまったヨシヒサを見た娘達があっけらかんと黙り込む中、ゴンゾウは怪訝な顔で囁いた。
「……ちょ、弱すぎないかお前」
剣を杖代わりに、ゆっくりとヨシヒサが立ち上がる。
「な、殴るなんて汚いぞ……! 卑怯者が……」
「生き死にの勝負に汚ねぇもクソもあるか。お前そんなんでホントに魔王なんか倒せんのか?」
「う、うるさい! ……ってかもういいや、別に今更経験値なんて稼いだって仕方ないし、この街にも用はない」
悔しそうな顔をするヨシヒサが唐突に振り返って背を見せると、動揺する娘達と手を繋いで空中に浮遊し始めた。
「おい、どこ行くんだよ!?」
「命拾いしたね〜幹部君! でも魔王を倒してしまえば君なんか弱体化しちゃうもんね。それまで束の間の余生を謳歌したまえ! あはははは――」
と高笑いしながら、ヨシヒサ達は空を飛んでどこかへ去って行った――。
その頃。
広場では、盾を持つ護衛兵達の満身創痍色が濃くなってきていた。体力が無尽蔵なのか、オーク達は何度も執拗に石斧で攻撃を繰り出してくる。
「――も……もう腕の力が……」
一箇所に固まる民達が不安げに護衛兵達を見守っていると、一体のオークが肩車をして突進してくるのが見えた。
「お、おい……! あいつ、なんかやるつもりだぞ!」
そして下にいるオークが護衛兵に突撃すると同時に、上にいるオークが護衛兵達の防衛線を飛び越えてきたのだ。
「は、いかん! 一体突破してきたぞ!!」
そのまま石斧を振り上げ――抱き合いながら震えていた母子に振り下ろそうとした。
「……きゃぁぁぁ!」
“ガキンッ”
息子を庇うように身を縮こめた母親がゆっくり目を開くと――その攻撃を防いでいたのは、盾と剣を持つ装備屋のおやっさんだった。
「おやっさん……!?」
「ぐぬぬぬ……! は、早よ逃げんかい……」
いつまでも仮面騎士には頼ってられない。自分も昔は剣士の端くれだったんだ。
強靭なオークの腕力に何とか持ち堪えるおやっさんだったが――石斧で横に薙ぎ払われ、盾が弾き飛ばされてしまう。
「ぬあ!?」
そして、オークがおやっさんの首元へ石斧を振り下ろされると――それが直撃したおやっさんが倒れてしまった。
「おおりゃぁあ!!」
民の男達が数人ががりでオークに突撃しておやっさんから離れるように押し返す。すかさず女達が彼を抱きかかえた。
「おやっさん……?」
「誰か手当してよ!!」
「しっかりして、おやっさん!!」
しかし、肩から流血しているおやっさんからは、無情にも応答がない。
「そんな……」
女達が涙を流し始めたその時――魔物の群れる後方で、いきなり数体のオークが血飛沫を上げながら宙を舞った――。