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第十二話

 片や中央広場では、建物の壁際にオークの群れから追い込まれた沢山の民達がいた。


「――絶対に中へ入れさせるな!!」


 護衛兵達が大きな盾を持ち構えて防衛線を作り、寄り添うように震える民をオークの攻撃から必死に守っている。


「かあちゃん……こわいよ」

「大丈夫よ、すぐにあの人が助けに来てくれるわ――」


 余りの恐怖に涙する小さな息子を、母親が目を瞑りながら強く抱きしめている。


 しかし、オークの攻撃は数が集まるにつれてどんどんと大きくなり、護衛兵達の体力にも限界が近づいていた――。


「――はぁ、はぁ、ダメだ……奴ら、全然俺に見向きもしねぇ」


 広場に向けて息を切らしながらも走っていたゴンゾウだったが、やはり『誘き寄せ』の効果がオークに効いていないと確信していた。血眼になって人間を捕獲しようとしているせいなのか。


 そして、おやっさんの装備屋前を通過した瞬間――足を止めた。


「――へぇ、けっこういい装備揃えてんじゃん」


「これヨシヒサ着れる? デカいかな?」

「イェーイ!」

「ちょっと、怪我したらどうすんのよ!」


 何とおやっさんが避難して不在なのをいいことに、あの“馬鹿集団”が店内で好き勝手に装備品を物色してるではないか。娘達に至っては剣と盾でチャンバラごっこをしている始末。


「おい、こんな時に何やってんだお前ら!! 街にオークの大群が押し寄せて来てんだぞ!!」


 おやっさんが丹精込めて磨いた装備を無碍にされ、ゴンゾウの腑は煮え繰り返っていた。

 怒鳴り散らす仮面騎士の姿に、ビックリした様子の一同が視線を集めると。


「うわ、何あれ!? え、カッコいいんだけど!」


 ヨシヒサは手に持っていたロングソードを雑に“ゴトッ”と棚へ戻すと、口元を緩めながら店の外まで出てきた。


「誰あんた? その格好何?」


「そんなのはどうでもいい。とにかく今はこの街が窮地なんだ。お前も剣士なら魔物討伐に手を貸してくれねぇか?」


 そうゴンゾウが要求すると、ヨシヒサが肩をすくめながら“やれやれ”と言わんばかりの溜息を吐く。


「いくら俺が“チート持ち”だからって、あんま頼られてばっかりだと、いい加減疲れちゃうんだよなぁ」


 首を傾げたゴンゾウが「ちーと?」と聞き返す。


「ふん、チートも知らないの? 俺は転生する時に女神から『飛翔』を授かっただけじゃなく、生まれつき『剣聖』も持ってた“選ばれし者”なんだ。他の連中とは“反則的”に格が違うってことさ」


 サッパリ意味が分からん、さっきから何言ってんだこいつ。


 『飛翔』とは魔力を消費して身体を浮遊させ、自由に空中を飛ぶことが可能な能力。一方の『剣聖』は種類を問わず、あらゆる剣を達人級に操ることが可能な能力のことを指す。


 本来、女神から転生者に与えられる能力は一つなのだが、ヨシヒサのように別の能力を有するのは珍しいこと。


「よくわかんねぇけど、結局一緒に闘ってくれんのか? どっちなんだよ?」


「あー悪いけど無理。俺らこれから魔王倒し行かなきゃいけないし、オークなんて討伐したとこで大した経験値も貰えないしさ」


 期待など鼻からしていなかったが、やはりそう来たかといった模様。


「なら、もう目障りだからすぐにこの街から失せろ。それとおやっさんの大事な装備、勝手に持ち出すなよ?」


 と、嫌気が刺したゴンゾウが立ち去ろうとした、その時――娘の一人がヨシヒサの肩を叩いた。


「ヨシヒサ分かったよ! こいつ魔王軍の“幹部”なんじゃない!? やたらイカつい格好からしてそんな感じだし、この街にオーク連れてきたのも絶対こいつだよ!」


 娘の無茶な推理にゴンゾウの「おいおい、ちょっと待て」と制止するのも虚しく、ヨシヒサが納得顔で続いた。


「あ、そういうこと? 言われてみれば確かに。この街に来たら予想してなかった俺に遭遇しちゃって、ビビって『失せろ』って言ったワケか!」


 すると唐突に、ヨシヒサは「ステータスオープン」と唱えたかと思いきや、矢継ぎ早に今度は「アナライズ」と言いながらゴンゾウを指差した。


「えーと……レベル76か、まぁまぁ強いね。俺の方が余裕で強いけど。あとは〜、特に変わった“スキル”はないか……」


 聞き慣れない用語を連発されたゴンゾウが戸惑っている。


 さっきから何やってんだこいつ、早く広場に行かなきゃなんねぇのに……!


 ゴンゾウは、ヨシヒサによって能力を解析されていることに気付いていなかった。『ステータスオープン』によって表示される分析画面は、詠唱した本人しか視認出来ないからだ。


 『レベル』とは、相手の強さを簡易的に数値化したものであるが、ゴンゾウが76と解析されたのに対して、転生者ヨシヒサは94。これだけ見れば、ヨシヒサの方が圧倒的に強いと判断できる。


「――さぁて……じゃあ、幹部さん瞬殺して魔王城へ行こうかな!」


 ついにヨシヒサが自信満々な顔で腰から剣を抜刀してきた。


「きゃー、ヨシヒサカッコいい!」

「前哨戦といったところですかな」

「いや〜本番前の軽い前座っしょ〜」


 それに合わせてゴンゾウも即座に構える。


「やるしかねぇのか……」


 と、呟いた瞬間――ヨシヒサが地面を蹴って真上から切り掛かってきた――。

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