9. 告白したらええやん?なにわの風!
18になる、春が来た。
デビューからこの一年は忙しなかった。
そして、爆エン! は、めでたくゴールデン進出。
わたしは、追加メンバーとなる “なにわメモリー”と対面した。
なにわメモリーは、ボケの風上朔真さんと、ツッコミの十河浩二さんからなる、関西の人気コンビだ。
この春より上京し、我々と共にコントをする仲間となる。
十河さんは、関西でもっともモテると噂されていた。
一方の風上さんは、既に売れた時には結婚していて、妻子持ち。
芸歴的には、有明モンタージュの先輩にあたるのだった。
十河さんは、本人は意識してないようだが、どんな時もイケメンで、疲れた顔すらイケメンで、そりゃ人気なわけだとわたしは感じていた。
風上さんは、フレンドリーで、愛嬌たっぷり。
こんな会ってすぐのわたしにも、気さくに話しかけてくれた。
そこには、初めから壁が感じられなかった。
これが関西の良さなのだろうか。
× × ×
『あなたのハートを鷲掴み! キュンキュン! ピンク担当、ももこ!』
『あなたの悲しみは、わたしが引き受けます! 青担当、そら!』
『あなたにトキメキ、元気なパワーを注入! 黄色担当、ひかり!』
『あなたに癒しをお届け! 緑担当、ふたば!』
『あなたの心をあたためます! オレンジ担当、かえで!』
「ですよね~宣言! ですよね~宣言! ですよね~宣言! 君に夢中! 僕は夢中!」
めでたく『爆エン! 恋のキューピット』は、『ですよね宣言!』を引っ提げ、番組からCDデビューした。
『爆エン! 恋のキューピット』CD発売イベント空き時間、わたしは電話を鳴らす。
「出ない……」
「誰に電話してるの?」
「あ、三栗屋さん! 実家です。この前電話した時も、繋がらなかったんですよね……」
わたしは、家族の写真を三栗屋さんに見せた。
「これ、わたしの家族なんです。わたしの夢を応援してくれて、わたしを送り出してくれたんです」
「へぇー、素敵なご家族だね」
「はいっ」
気付けば、三栗屋さんとも自然と話せるようになっていた。
遠くに感じていた三栗屋さんが話しかけてくれるなんて。
こうやって、家族の話までできるなんて。
わたしは大変な毎日だけど、どこか浮かれていた。
× × ×
わたしは、更に売れっ子になり、バラエティ番組にも、沢山呼ばれるようになっていた。
そして、一つ大きく変わったことがあった。
わたしは、番組内で、無茶ぶりをされたり、一発ギャグやモノボケを披露させられたり、変顔をさらしたり……。
これらは、明らかに、以前のわたしには要求されなかった内容である。
それはすべて、爆エン! の影響で、いつの間にか番組を超えて、わたしはNGのない何でもやっちゃうタレントのような扱いになっていた。
今日の収録も、とんでもなかった。
まさかの、わたしが他の女優の罰ゲームを代わりに引き受けることになろうとは……。
「どこ目指してんだか……」
笹竹さんは、収録中、パイまみれになるわたしに、笑顔で頷いていた。
これは、笹竹さんの狙い通りだったのか、それ以上だったのか、本当のところは分からないが、笹竹さんはわたしに“マルチタレント”を目指すように促していた。
そんなある日、わたしは、とある恋愛トークバラエティにお呼ばれした。
NGなしなので、自分の恋愛観についても当然聞かれた。
そういえば、この手の類の質問は、これまで受けたことがなかった気がする。
「どんな人がタイプなの?」
「そうですねぇ、昔から、面白い人が好きで」
「今、恋はしてないの? ほら、コント番組もやってるし、面白い人周りにいっぱいいるでしょ!」
「いやぁ、恋は……してないですね。今はそうですね、仕事を頑張りたいです」
「でも、モテるでしょ! 絶対モテる!」
「いや、そんなこともないですけど……」
「うそだぁ~」
「気になる人は?」
「気になる人? えーー」
「いるな、その感じは」
「いや、いないです! いないです!」
「今絶対誰か思い浮かべたでしょ? この辺に、この辺に!」
「男からしたら、そらちゃんに告られて振る奴はいないと思うよ」
「そう、みんなが付き合いたい!」
やれやれ、今日も収録が終わり帰路につく。
今日はみんな、わたしを無駄に褒めたたえてくれたけど、実際のところ、どうなのだろう。
わたしの世間からの認知度は上がったが、どんな印象を与えているのだろうか。
変なことも平気でやれちゃう人になっちゃったし……。
はぁ。三栗屋さんは、モテるもんね……。
絶対彼女いるだろうし。
な、何考えてるのよ、わたし!
別に、三栗屋さんのことなんて……。
わたしは、有明モンタージュのネタが好きなだけであって……。
それに、三栗屋さんとは一回りもの年の差があって、三栗屋さんが、わたしを女として見ているはずがない。
きっと子供だと思われている。
そもそも、ただの共演者だ。そして、わたしの先生だ……。
わたしはまだ、今年18になる高校生。
もっと、早く生まれていたらな……。
タクシーの窓から外を眺める。月が綺麗だった。
わたしに告られて振る奴はいない……か。
いや、きっと彼は振るだろう。
× × ×
コントの収録終わり。
「今日のコント、よかったよ」
「ありがとうございます!」
三栗屋さんが、わたしを見て微笑んだ!!
わたしはこれだけで、とてつもなく嬉しかった!!
「三栗屋が言ったんやってな」
「え?」
風上さんが、声をかけて来た。
「そらちゃんのコントの出番、増やしたってくれって」
「!?」
「知らんかったん? 上の人に、あの子もっとボケのポテンシャルありますよって。泣きの演技の女優が、大ボケした方がおもろいやろって」
「え、あの三栗屋さんが……!?」
それは初耳で、尚且つ衝撃的なことだった。
「三栗屋のこと、好きなん?」
「へっ……?」
一瞬で、火照った体が凍りついた。
「そ、そんなわけ……」
「分かりやすいな?」
「なっ、何言ってんですか! 冗談やめてくださいよ!」
「告白したらええやん?」
「はっ!? バカなこと言わないでくださいよ! 風上さん、ありえないですよ! そんなの!」
「そうか? いつも楽屋に行ってるやん?」
「あれは、コントの指導をして頂いてるんです! それだけです! やましいことなんてありません。三栗屋さんはコントの先生なんで……」
「ふーん。生徒と先生の禁断の恋か」
「違いますって! それに、わたしは、ただの子供だと思われてますよ……」
「そうか? そんなこともないと思うけどな?」
「……」
あぁ、もう!!
まだ会ったばかりの風上さんに、心読まれてる!!
読まれてる……?
えっ……
わたし、やっぱり、三栗屋さんのことが好きなの!?
『ドラマ ファーストキス』! まさかの相手役!!
気になるキスシーンの演出は!?
来週に続く