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8.爆エン!恋のキューピット!

 わたしは、『みんなの爆笑エンターテインメント!』通称“爆エン!”に出演することとなった。

 

「はじめまして、佐藤美空です! よろしくお願い致します!」

 

 共に爆エン! メンバーとなった方々は、わたしを売れっ子の女優という目で見ていて、ちやほやしてくれたり、にこにこ話しかけてくれたり、わたしに優しかった。

 そう、有明モンタージュの三栗屋翔太みくりやしょうたさんを除いては……。

 

 三栗屋さんの第一印象は、クールであまり笑わない人といったところだろうか。

 有明モンタージュのボケ・ネタ作りを担当している三栗屋さんは、お笑いには厳しく、結構尖っていた。

 

 

「三栗屋、愛想なくてごめんね」

 

 わたしの様子を見かねてか、相方の飛鷹圭ひだかけいさんがフォローしに来た。

 

「ああ、いえ……。わたしが場違いなところにいるだけですから」

 

「場違いだなんて。ここは今をときめくメンバーが集結した場所なんだから! ま、でも、若手と言いつつ、俺らの方がみんな10コくらい年上か」

 

 飛鷹さんは笑って見せた。

 

 そう。わたしはこの中で圧倒的な年下。

 若手芸人の皆さんは20代から30代前半、わたしは高校生なのだ。

 そりゃ、簡単に仲間になれるはずがなかった。

 

「あんまり、こういうこと、言うべきじゃないのかもしれないですけど……、わたし、この番組のオファーを受けたの、有明モンタージュさんがいたからなんですよね」

 

「えっ!? ホントに!?」

 

「わたし、お二人のコントが、とても好きなんです……」

 

「それ、三栗屋にも直接言ってやってよ! あいつ喜ぶと思うよ」

 

 飛鷹さんには、思わず心の内を話してしまった。

 でも、三栗屋さんには、言えるわけがなかった。

 

 佐藤美空は、お笑い素人だから、芸人じゃないから、だから仕方ない……。

 そんな感情が、三栗屋さんからは伝わってくる。

 同じ空間にいながら、わたしはどこか置いてきぼり。

 そこには、見えない透明な壁があった。

 

 わたしは、コントのできない人間だと思われている。

 でもそれは、三栗屋さんに限ったことではない。

 その証拠がこれだ。

 

 わたしは当初、コントに参加するとされていたはずなのに、わたしの出演というのは、主に番組内コーナーのアシスタントMCだったのだ。

 過度なボケを要求されることもなく、軽い小ボケの綺麗な立ち位置であり、むしろツッコミ役であったり。

 わたしは、番組のお飾りだった。

 

 番組制作側からすれば、それでよかったのだ。

 泣きの演技で注目されている若手女優が、ちょっと滑稽なことを番組内でしている。それだけで十分だった。

 そもそも、女優が大ボケなど任されるはずがないのだ。

 でもそこに、何故だかわたしは引っかかってしまう。

 どうしてなんだろう……。

 

 笹竹さんも満足しているようで、わたしの仕事はこれでよかったらしい。

 まぁ、どうあがこうが、これはワンクールだけの関係だもんね……。

 

 

 

 しかし、爆エン! は、想定と違う方向へと進んだ。

 

「聞いてくれ! 爆エン! 春からゴールデンタイムだそうだ!」

 

「え!? 笹竹さん、ワンクール限定だったんじゃ……」

 

「うまくいけば、初めから時間帯をあげるつもりだったそうだよ?」

 

 笹竹さんは、にんまりと笑った。

 

「あの、それって、わたしは……」

 

「安心しろ。もちろん、時間帯が変わってもメンバーは皆継続!」

 

 安心しろって、わたし継続を求めて聞いたってことじゃないんだけど……。

 

「まだアイドルコントしてないだろ? コント中でアイドルユニットやるから。君が楽曲提供! シンガーソングライターの出番だよ!」

 

 笹竹さんは、ご機嫌だった。

 

 そりゃそうだ。番組が深夜帯からゴールデンに上がり、レギュラーメンバーになっているのだから。

 わたしはこの先も、好きな芸人さんとコントをすることができる。

 なら……

 わたしも彼らのように全力でボケたい!でコントしたい!!

 何が清純派でピュアなお飾りだ!!

 

 

 春のゴールデンに向け、5人組コントアイドルグループ『爆エン! 恋のキューピット』が始動した。

 人々の恋を応援する、お笑いアイドルグループである。

 コントでありながら、アイドルとして歌も歌い、踊るのだ。

 

 まずは、カップルのプロポーズを応援するコントの披露。

 そして、これは後に、爆エン! の企画として、ゴールデン進出と共に一般のカップルの方のプロポーズを応援するプロジェクトとなる。

 

 わたしは、『爆エン! 恋のキューピット』のグループ楽曲、『ですよね宣言!』の作詞作曲を行った。

 そして、このコントに、わたしはメインで参加する。

 

 グループ5人のカラーは、ピンク、青、黄色、緑、オレンジの5色。

 メンバーは、わたし以外は女装している男性芸人である。

 みんなぶりっ子、あざとキャラのアイドルをコンセプトに笑いをお届けしている。

 わたしの担当カラーは、青。

 

『あなたの悲しみは、わたしが引き受けます! 青担当、そら!』

 

 いつの間に“そら”が馴染んでしまったのか。わたしは、“青い涙が光るそら”になっていた。

 そして、わたしの隣で歌うのは、ピンク担当の“ももこ”こと三栗屋さんである。

 三栗屋さんは、女装すると、女性が憑依でもしているのかというくらい可愛くてたまらなかった。

 女性にしか見えない……。隣で、自分がかすむのが分かった。

 

 

「あの、三栗屋さん! わたしも全力でコントやりたいです! わたしに、お笑いを教えてもらえませんか?」

 

 突然のわたしの言葉に、三栗屋さんは驚いた様子だった。

 

「わたし、お飾りのままは嫌なんです!」

 

 道を切り開くのは、自分自身だ!!

 

「なら、恥じらいを捨てろ! 恥ずかしがって、照れてやったら、笑えない」

 

「は、はい!」

 

 

 三栗屋さんは、わたしにお笑いの大切なことを教えてくれた。

 ボケ方の基本、間の取り方、笑い待ち、大喜利の考え方まで。

 日々、コントレッスンだった。

 

 コント収録前、わたしはいつも三栗屋さんの楽屋を訪れる。

 そして、コントの指導を受けるようになっていた。

 そうこうしているうちに、わたしは、いつの間にか、脳内のどこかのねじが外れた感覚になった。

 ボケることへの恥ずかしさも感じなくなっていたのだ。

 わたしは、三栗屋さんを“先生”と呼び、透明な壁は少しずつ薄くなっていってる気がしていた。

 

 

 

 そして、ゴールデン用の新しいコントの台本を貰った。

 出演者の欄には、番組追加メンバー“なにわメモリー”の名が記されていた。

 この春上京してくる、関西の人気若手コンビである。

 そして、わたしは驚いた。

 わたしのコントの出番が明らかに増えていたのだ。

 わたしがメインのものもある。

 そこには、お飾りではない、芸人扱いされたわたしがいた。

 

「やったぁー!」

 

 思わず声が出てしまった。

 

「よかったじゃん」

 

 背後で声がして、わたしは慌てて振り返る。

 

「み、三栗屋さん!!」

 

 いつもクールな三栗屋さんが、わたしを見て微笑んだ。

 

「!!」

 

 三栗屋さんは、グッドのジェスチャーをし、立ち去った。

 

 カッコ良すぎる!!

 そして、かわいい!!

 たまらん!!

 わたしはひとり、悶えた。

 

 

 

 報告しなくては!

 わたしは、久々に実家に電話をかけた。

 でも、電話はいつまで経っても、呼び出し音のままだった。

 

「あれ? どうしたんだろ……?」

 

 少し気にはなったが、忙しいのだろうと思い、この出来事は置き去りとなった。

 今思えば、この時にちゃんとしておくべきだったのかもしれない……。

お笑いアイドル『ですよね宣言!』CDデビュー!

追加メンバー“なにわメモリー”登場!

なにわの風に、心を見抜かれる!?


来週に続く

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[良い点] このひかれる展開、まさに朝の連ドラ!
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