7. 君とコント!あの人気若手芸人と!?
わたしは、『ライダー物語』をきっかけに、泣きの演技が光る女優として注目を浴びることとなった。
ちょこちょこと、バラエティ番組にも呼ばれだし、世間から女優として認知され始めていた。
共演した神谷さんも、俳優として更に注目度が高まり、次のドラマも決まったらしい。
そして、もう一つ想像してなかった出来事が起きた。
わたしはこれまでの人生、平凡な名字で呼ばれていた。
それは、自分でもそんなに嬉しいことではなかった。
しかし、『ライダー物語』を経て、わたしはいつの間にか“そらちゃん”と呼ばれるようになっていたのだ。
神谷さんが番宣番組でもそう呼んだことが、もしかしたら火付け役になっていたのかもしれない。
わたしの名前が佐藤美空で“空”の文字が入っていたうえに、『ライダー物語』で“橋本そら”を演じたことで、“そら”という愛称はすんなりと定着したようで、街中でも“そらちゃん”と声をかけられることが多くなった。
ドラマの印象は、とても強かったようだ。
事務所には、新たにレコーディングできるスタジオが建てられ、アルバムを出す準備にも取りかかった。
わたしは、デビューから相変わらず忙しない日々を過ごしていた。
いつの間にか実家に連絡をすることもなくなり、また明日、また明日と、それは引き伸ばされていった。
そんな、ある日のことだった。
わたしに、新たなオファーが舞い込んだ。
「お笑い、やってみる?」
「えぇ!?」
笹竹さん、今度は何を企んでるのよ!
「これ、深夜帯なんだけどね」
笹竹さんは、わたしの前に企画書を出す。
そこには、『みんなの爆笑エンターテインメント!』とある。
「これ、この冬始まるワンクール限定の若手芸人を集めたコント番組なんだけど、参加してほしいってことで」
「コ、コント!? わたし、芸人じゃないですよ!?」
「世の中は今、君を女優として認知している。役の幅を見せるという意味でも、コントに参加してみるのもいいんじゃないかなぁ?」
「そもそも、女優でもないんですけど……」
コントも確かにお芝居かもしれない。でも、泣きの演技から今度はお笑いって……。
「この子、お笑いもできるんだ! っていうのを見せるチャンスでもあるよ」
「いや、お笑いができるって……」
「なんか、コントの中でアイドルユニットをやったりってのも考えてるらしくってね、そしたらほら、またタイアップじゃないけど、歌も歌えるじゃない?」
なんだか、また、そそのかされてるのではないか?
でも、確かに『ライダー物語』の時は、自分の新しい可能性というか、知らなかった世界を見ることができたのは事実だ。
まぁ、ワンクール限定だし……。
いや、何ちょっとやる気出しちゃってるのよ!
わたしは、企画書をめくった。
それは、今注目の若手芸人を何組か集めたコント番組。
わたし以外の10人は、皆お笑い芸人。
何故、ここにわたしを……。
順に出演者欄を目で追っていくわたしは、その名前に釘付けになった。
そこに、“有明モンタージュ”の名があったからだ!!
有明モンタージュ!!
彼らは、アイドル的な人気を誇る今をときめく若手芸人コンビ。
そして、わたしが密かに好きでたまらない芸人さんだったのだ!!
まるで、わたしがただのミーハーな人間のように思われてしまうが、それは心外だ。
わたしが有明モンタージュを知ったのは偶然だった。
それは、『ライダー物語』の放送枠の後の時間が、お笑いネタ番組で、リアルタイムで自分のドラマを見ていたわたしは、テレビをつけっぱなしにしていて、やがて次の番組が始まり、彼らのネタを目にすることになったのだ。
初めてネタを見たその日に、わたしは彼らを好きになった。
それはまるで、一目惚れにも近い“ネタ見惚れ”だった。
彼らのコントは、まさに哀愁であった。
物語の中に、感動と物悲しさがある。なのに、とても面白いのだ。
とあるレストランで起きた、客と店員の物語。
コントを見て、わたしは笑っていたのに、何故だか涙を流してしまった。
面白いのに、何故こんなにも胸が締め付けられるのだろう……。
彼らのコントは、シュールと呼ばれるタイプのものなのかもしれない。
とても、センスが光るコンビだった。
わたしは、昔からかわいいピエロが好きだった。
ピエロには、どこか哀愁がある。
そして、みんなを笑わせようと、いつもおどけて見せる。
彼らのコントは、きっとわたしの“好き”にヒットしたのだろう。
目まぐるしく、忙しく生きるわたしにとって、彼らのコントを見て笑う時間は、最大の癒しだった。
そんな有明モンタージュの二人と、わたしがコント……!?
動揺しないわけがなかった。
わたしは、有明モンタージュが好きだと、まだどこにも、誰にも明かしていない。
この笹竹さんが知るはずもないのだ。
好きを公表していたら、もっと違う形で彼らに逢えたかもしれない。
ちやほやされ、間近でコントも拝めたかもしれない。
それがいきなり、君とコントなんて……。
そもそも歌を歌っている身としては、お笑いは無縁なものだと思っていた。
コントについて、口にする機会もなかった。
それに……
有明モンタージュは、二人とも容姿もよかったため、きっと顔ファンも多い。
どこかで、そんな奴らと一緒にされたくない! わたしはネタのファンなんです! という謎の尖りも発動していた。
だからこそ、口にしようともしていなかったのだろう。
でも、人生すべては、めぐり合わせ……。
「やります……」
「お、ホントに!?」
「コント、やってみようと思います!」
それは、わたしにとって、とても不純な動機だった。
ドキドキ! 有明モンタージュが目の前に!
コントに初挑戦!
来週に続く