4. 『ライダー物語』!?まさかのドラマオファー!
「えっ、わたしにドラマのオファーですか?」
「そうだ! 連ドラのオファーだ」
「ちょっと待ってください! わたし演技なんてしたことないですよ!?」
「うーん、まぁ、そうかもしれないけどな? まぁ、まず話だけでも聞きなさい」
笹竹さんは、わたしの前にドラマの企画書を差し出した。
そこには『ライダー物語』と書かれていた。
「『ライダー物語』……?」
「連ドラに出れば、当然、世の中の君の認知度も上がるだろう」
「わたしに、女優をやれって言うんですか?」
「そのドラマに出れば、主題歌を担当できる」
「主題歌!?」
「どうだ、悪い話じゃないだろ?」
「そ、そうですけど……。え、役柄は?」
「主演だ」
「主演!?」
それは、まさかのオファーだった。
この、演技未経験のわたしに、『ライダー物語』という未知のドラマの主演をやってほしいだと……!?
どうかしている!!
「主演として女優という新しい姿を見せ、そのうえタイアップとして主題歌も歌う。こんなおいしい話はない!すべては、大ヒットしたデビュー曲から始まっている。実にセンチュリーの名にふさわしい」
笹竹さんはご機嫌だった。
ドラマのタイアップとは、憧れでしかない!
でも、そのためには、わたしがドラマに出なければならない……。
なんということだ。
「このドラマに出れば、また新しい佐藤美空を見せられると思う。可能性も広がりそうだよ?」
しかし『ライダー物語』って……。
戦隊モノか、なんかなのか?
わたしは、企画書をめくった。
わたしが演じることになっていたのは、主人公の『橋本そら』という役柄だった。
高校生17歳の彼女は、クラスの標的となり、毎日いじめられている……。
「えっ? いじめられる役!?」
「ああ、そうだ。新しい世界が見えそうだろ?」
それは、想像していた主演ではなかった。
酷いいじめに遭い、傷つきながら辛い思いをする役。
『だたた、春よ』から哀愁のイメージを強く持たれたのか、わたしへのオファーは、明るいものではなかった。
「清純派でピュアなイメージを求めているそうだ」
「はぁ……」
泣きながら、日々を生きるわたしのもとに、ある日、一人の青年が現れる。
彼の名は、水無瀬勇。
彼は、わたしに戦隊モノのヒーローの変身ポーズを見せて来る!?
「ん……!?」
『ライダー物語』とは、戦隊モノのお話ではなかった。
戦隊モノのヒーローに憧れ過ぎた、変身ポーズを何度も見せて来る青年とのラブストーリーであった。
幼馴染みの『橋本そら』と『水無瀬勇』。
幼稚園、小学校と、隣にいるのが当たり前だった。
しかし、小学生の橋本そらは、ある日、田舎へ引っ越すことになる。
二人は離れ離れになってしまう。そこで、自分の気持ちに気付くそら。
「無理だと分かっていた。でも、追いかけて来てほしかった……」
物語は、高校生になった二人の再会から始まる。
「ちなみに、相手の水無瀬勇役は、今大注目のイケメン若手俳優、神谷正志に決定したそうだ!」
「あの、神谷正志さんですか!? わたしと、とてもつり合いませんよ!」
「そこは、君の演技の見せ所だよ」
「だから、わたし未経験って……」
「誰でも最初は未経験だ。『だたた、春よ』のような歌詞が書ける君が、演じられないわけはないと僕はにらんでる」
笹竹さんはニヤリと笑った。
笑い事ではないというのに。
笹竹さんったら、何を言っているのか……。
でも、わたしはこのドラマに、どこか既視感を覚えていた。
それもそうだ。
だって、戦隊モノのヒーローに憧れ過ぎた少年に、嘗てわたしは恋をしていたからだ。
わたしの小学生の時の話だ。体育で、マット運動の授業があった。
前転や後転などマット運動を取り入れながら、『おおきなかぶ』の物語をやるという課題が班ごとに出された。
同じ班の男の子が、戦隊モノのヒーローの変身を入れたいと、わたしに向かって変身ポーズを見せてきた。
それは当時、わたしが少し気になっている子だった。
とあるライダーに憧れ過ぎている彼の提案は、ヒーローに変身したら、おおきなかぶが抜けるという、そんな展開だった。
実はその当時、わたしはひっそりと戦隊モノのライダーを好きだった。
そのライダーと同じポーズを、彼はわたしに向けて得意気に何度も見せて来る。
本番、ヒーローが変身したかどうか、何故だか、その記憶はぼんやりしていて思い出せない。
でも、それをきっかけに、わたしは彼のことを好きになってしまった。
わたしの初恋だった。
それは、今でもよく覚えている……。
そして、今この目の前にある『ライダー物語』は、わたしの初恋を映し出しているかのようだった。
ヒーローはピンチに助けに来る。それはいつだってお決まりだ。
かぶが抜けないのもピンチであり、いじめられて苦しいのも、当然ピンチに違いなかった。
「笹竹さん、わたしやります。このドラマ、挑戦したいと思います!」
「ホントか! それはよかった!」
運命を感じたわたしは、このオファーを受けることにした。
わたしよ、変身する時が来た! トゥーー!!
俳優、神谷正志とご対面!
『ライダー物語』の撮影が始まる。
来週に続く