3.上京奮闘ガール!『だたた、春よ』でデビュー!
「ありがとうございます!!」
人々が行き交う駅前で、わたしは深々と頭を下げた。
本当にこんなことがあるんだ!
わたしは夢の中にいるようで、この夢が覚めないことを、ただただ願った。
笹竹さんは、ライブハウスに行っていた知り合いから、わたしの話を聞いたらしい。
ライブ映像を見て、これだ!!と感じたそうだ。
そして、駅前で歌っている情報を知り、駆けつけてくれたようだった。
この日、わたしの人生は揺れ動いた。
事務所の名は『センチュリー』、“100年に一度の人材を”という願いが込められているらしい。
笹竹さんは、もともとは大きな事務所にいたらしいが、独立し、仲の良いメンバーと今の事務所を立ち上げた。
そこはまだまだ新しい小さい事務所で、看板となる原石を探していたらしい。
デビューもすぐできると言われた。
わたしは、東京へと本格的に上京し、事務所の一室を借りて住むこととなった。
高校も転入し、わたしは晴れて都会の高校生となった。
これはきっと、両親が望んでいたものと違ったであろう。
そう思うとどこか親不孝で、少し複雑でもあった。
でも、すべては自分の夢のため。
笹竹さんは、事務所の管理とわたしのマネージャーを兼任することとなった。
わたしは、笹竹さんと共に二人三脚でデビューに向けて動き出した。
× × ×
17歳になる春、ついにわたしのデビューが決まった!
デビュー曲は『だたた、春よ』に決定した。
そして、わたしのデビューは、驚きの展開を巻き起こすこととなった。
『だたた、春よ』は爆発的なヒットを遂げ、わたしは連日、音楽番組に引っ張りだこ。
それは、突然の忙しさだった。
こんなこと、一体誰が予想できただろう。
笹竹さんがスケジュール帳を手に、バタバタしている。
「今大注目のシンガーソングライター! 佐藤美空さんです!」
「よろしくお願いします」
「佐藤さんは、駅前の路上で毎日ライブをされていたそうで、そこをスカウトされたんですよね?」
「はい、ありがたいことに今の事務所に拾って頂きまして……」
フレッシュな17歳のデビューでありながら、『だたた、春よ』は、それとは対照的な楽曲。
別れやさよならを歌った、愁いが強い楽曲で、話題性も強かった。
「どこか物悲しい曲といいますか、第一印象では、まさか現役の高校生が歌っているとは思いませんでした」
「この曲は、わたしが初めて作った曲で、やはり思い入れも強くて、デビューはこの曲がいいという想いがあったんです。春っていうのは新しい出逢いや何かかが始まる季節だと思うんです。でも、出逢いがあれば別れも必ずあって、哀愁みたいなものがわたしは好きで、儚い部分を歌いたかったんです」
デビューや連日のテレビ出演が嬉しくて、わたしは毎日ワクワクしていた。
生放送終了後、事務所から実家の電話を鳴らす。
「ねぇ、さっきのテレビ見てくれた?」
「生放送、見てたわよ。緊張した? 夢、叶ってよかったわね」
「緊張より、歌える嬉しさが勝ってたかな? やっぱり、やりたいと思った時に行動してよかった」
「やりたいと思った時に……か。そうなのかもね。お父さんも嬉しそうに、録画した番組、また見てるわよ」
この時、母の声は、喜んでくれているようだった。
だからわたしも、ホッとした。
「お父さんもね、昔は東京に行って一旗揚げたかったんだって」
「えっ!?」
「でも、美空のように行動に移さなくてね。結局、夢は夢のまま終わったんだって」
お父さんにそんな過去が?
わたしは何も知らなかった。
だから、あの夏、わたしに自由に使っていいと言ってくれたのか……。
何も諦めさせるためじゃなくて、ちゃんと夢を叶えるために送り出してくれてたのかな。
部屋に戻ったわたしは、窓を開けた。
月がこちらを照らしている。
わたしはキラキラ眩しい太陽よりも、夜道を照らす月が好きだ。
わたしも誰かの暗闇を照らすような歌を歌いたい。
「頑張ろう……」
わたしは、眠りについた。
後に、あんなことになるなんて、この時は思ってもみなかった……。
わたしにまさかのオファー。
『ライダー物語』ってなんだよ!?
来週に続く