23. 皆さんにご報告があります!武道館ライブ!『My Home』最後の曲のその前に……
24歳になるこの年、ついにわたしの長年の夢は実現した!!
そう、“武道館ライブ”である。
シンガーソングライターとして上京したあの頃から、掲げていた目標であり、夢である。
ここまで辿り着くのに、いろんなことがあった。
音楽以外のことも沢山やってきた。
いやむしろ、そちらの方が多かったくらいだ。
『ライダー物語』で突然女優になり、『爆エン!』でコントもするNGなしのタレントになり、両親の離婚に、不倫報道、まさかの恋もした……
きっと、この全てがあって今がわたしがある。
武道館ライブには、これまでお世話になった方々や、もと爆エン! メンバーのみんな、スタッフさんなどを招待した。
もちろん特別なライブなので、記者の方も呼んである。
どうしても、伝えたいことがあるからだ。
ステージの上から、みんなに。
幸いにも、あの夜の出来事はスキャンダルになることはなかった。
三栗屋さんとわたしを結びつける要素はあまりにもなかったのだろう。
番組が放送されていた当時も、風上さんとの印象が強かったために、マスコミもきっとこれは想定していない。
胸の内に秘めたこの想いは、きっと風上さんくらいしか知らないことだろう。
あの一夜は、誰にも知られぬまま、ひっそりと、有明の月に見守られながら幕を閉じたのだった……。
そして、わたし達は、あれ以来、実は直接会っていない。
互いの家を訪れることも、接触することもなかった。
もちろん、番組共演することもなかった。
三栗屋さんは、芸人として日々の仕事を。
わたしは、シンガーソングライターとしてライブの準備を。
わたし達は、まだ……
名前のない関係のままだった。
時は流れ、あっという間にライブの日はやって来た。
ある想いを胸にステージへ向かう。
満席になった会場。
照明がステージ上のわたしを眩しく照らす。
初めてシンガーソングライターに憧れを抱いた時、立ちたいと思ったその場所に、今わたしはいる。
デビューした頃の楽曲から最近の大人な楽曲まで、ひとつひとつを大切に歌っていく。
今日まで応援してくれたファンのみんな!
本当にありがとう!!
ああ、今日この場所で、わたしはみんなに伝えたいことがある。
日々の感謝とともに……。
アンコールの拍手と歓声が、わたしの耳に届く。
ライブTシャツに着替え、汗を拭うと、わたしは大きく深呼吸をし、再びステージへと向かった。
「アンコールどうも、ありがとう!! 今日は、夢のステージでライブをすることができて、本当に、本当に嬉しいです!!」
みんなからの歓声が返って来た。
アンコールに外せないのは、やはりデビュー曲『だたた、春よ』。
春は、出逢いと別れ、新しいことが始まる季節だ。それは、これからも変わらない。
何曲か歌い、終演時間が迫る。
「えーー、次が最後の曲になります」
惜しむリアクションが、こちらにもビシビシと伝わってきた。
「次の曲で最後になるんですが、その前に、ファンの皆さんに、わたしの方からお伝えしたいことがあります」
会場が静かになり、少しザワザワするのが分かった。
「わたくし、佐藤美空は、結婚します!!」
会場が一気にザワザワした。
それもそのはず。
熱愛報道や交際情報は、どこにもないのだから。
まさか、TAKUMA!?
そう思った人も沢山いただろう。
「はい。そうなんです。わたしは結婚致します。そして、実は今日、この会場に、旦那様となる方に来て頂いております!!」
ザワザワは更に大きくなった。
「えー、今日ここで、紹介することは、わたしと彼しか知りません。あっ、あとマネージャーの笹竹さんね。だから、たぶん舞台袖のスタッフさんとかも、今みんな相当驚いてると思います」
誰だ誰だと舞台裏もバタバタしているのが分かった。
「せっかくなので、ステージの上に、あがって来てもらいましょうか?」
わたしは、このステージで紹介することは本人に伝えている。
しかし、ステージにあがってもらうなんて話はしていない。
つまり、本人も、今あわあわしているに違いなかった。
「カメラさん、関係者席の方にカメラ向けられます?」
慌ててカメラが関係者席を映す。
大スクリーンに、芸能人やお馴染みの爆エン! メンバーという知っている顔ぶれが並び、会場が沸いた。
爆エン! メンバー同士も、この急展開に顔を見合わせ、『誰? 誰?』とパニックな様子だった。
カメラに映った風上さんが、カメラに向かって『えっ、俺?』と自分の顔を指差し驚くリアクションをしてボケてみせた。
「『えっ、俺?』じゃないのよ! 違うわ! なんで風上さんなのよ! あなた既婚者!!」
さすがにツッコミを入れるしかなかった。
会場が少し和み、笑いが起きた。
「では、旦那様、こちらステージにあがって来てください!」
わたしは関係者席にいる、彼に言った。
× × ×
風上が、三栗屋の背中を押し、前へと突き出した。
「!!」
「お前、なんやろ?」
「……!!」
× × ×
三栗屋さんは、おろおろした様子で、スタッフに連れられステージへとやって来た。
わたしは、三栗屋さんにマイクを渡す。
「こ、こんばんは……」
緊張気味に様子を伺いながら、三栗屋さんはぺこぺこ何度も頭を下げた。
「いや、めっちゃアウェイでしょ!」
「そんなことはないでしょ、ねえ?」
観客に問いかけてみると、拍手が返ってきた。
「ステージにあがるなんて、本人聞いてないんですけど!」
「だって言ってないもん」
「!」
会場が、優しい笑いに包まれた。
「どうよ、ここからの武道館の景色は!」
「いや、こんなね、凄いところで歌ってる方となんてね……ホント何言われるか分からないわけですよ……」
焦った様子で、おろおろする三栗屋さん。
こんな三栗屋さんを見ることは、なかなかないだろう。
「三栗屋ーー!!」
観客の誰かの野太い叫びが、会場に響いた。
続けて、四方八方から「おめでとーー!」の声が聴こえてきた。
こうして、わたしは、24時間マラソン以来のこの会場で、サプライズ結婚報告をした。
「それでは、最後の曲です。新曲、『My Home』」
わたしは、この日のために作った新曲を初披露した。
「My Home大切な人が わたしにもできました ~君がいる それがMy Home わたしの帰る場所~」
ラブソングでもあり、ウエディングソングでもある『My Home』。
それが、ファンへの、そして三栗屋さんへのメッセージのすべてだった。
わたしの結婚報道は、すぐさまネットニュースになった。
記者を呼んでいたのだから、記事には写真までバッチリである。
そして、翌朝のワイドショーは『爆エン! 婚』と騒ぎ立て、我々の結婚が大ニュースとして大きく報じられた。
あの『爆エン! 恋のキューピット』による『ですよね宣言!』が各局で流れていた。
人々の恋を応援する、お笑いアイドルグループ『爆エン! 恋のキューピット』!
番組から生まれた恋のキューピットは、ついに結婚した。
長い共演期間はありつつも、当時から何も噂はなかったわたし達。そのため、驚きの声もそれなりにあったようだ。
TAKUMAさんとの熱愛報道はキャッチできて、三栗屋さんとの交際や接触してる瞬間は何故キャッチできなかったのか?
TAKUMAさんではなく、本命は三栗屋さんだったのか?
などなど、コメンテーター含め、テレビは好き勝手に言っている。
わたしから言わせれば、接触などしていないのだから、そんなの見つけられるはずがない。
あの一夜をスクープすれば、随分と報道は違ったことだろう。
『この二人なら推せる!』
『爆エン! の頃から好きだったってことですよね? ヤバーイ!』
なんていう街の声も聴きながら、わたし達はライブ翌日に婚姻届を提出した。
ライブ後、『おめでとう』を直接言いに来てくれた爆エン! メンバーのみんな。何故か風上さんは一人だけ大号泣していた。
事前に伝えることをあえてせず、このライブで全員に同時に結婚を伝えたいと、わたしは三栗屋さんに頼んでいた。
鼻をすすりながら、婚姻届の証人の欄を絶対書くと言って譲らなかった風上さんは、なんだか妙ではあったが、まあいいとしよう。
こうして、わたしは、交際0日で三栗屋さんと結婚した。
名前のない関係は、今ここに『夫婦』となった。
佐藤美空の次なる挑戦は?
そして、くるみの誕生!?
来週に続く




