21. ARATAのラジオで大告白!?わたしが恋したその人は……
『佐藤美空にやけど? 車中で育む年の差愛!!』
予想通り、この熱愛報道はワイドショーを賑わせた。
『真実なら素敵!!』
『TAKUMAもぼちぼち結婚すべき』
『また、不倫? あ、熱愛!?』
そんな世間の声もあったが、双方の事務所はこの熱愛報道を否定した。
そして、この熱愛報道のせいで、いや、おかげで?
わたしは『CONTINUE』のギター ARATAさんがやっている深夜の生放送のラジオにお呼ばれすることとなった。
そう、あの報道の真相を暴露するとともに、ライブや音楽に触れる。
報道後であるため、このラジオの注目度は高かった。
「でも、あの熱愛記事はメンバーと見て笑っちゃったよ」
「いや、笑い事ではないんですって!」
「実はメンバーで、本当に2人が恋仲になるのかって、賭けてたんだよ?」
「えっ!?」
「俺はねぇ、実は付き合うと思ってた」
「えっ、そうなんですか!?」
「正直、TAKUMAは冗談半分、本気半分だったと思うよ?」
TAKUMAさんが、わたしを映画に付き合わせたのは、メンバーからの後押しだったと、わたしは知ることになった。
記事が出なくとも、メンバーはみんな、このおデートが行われることは知っていたのだ。
独身の彼を心配してというのもあったが、佐藤美空が好意に思ってるバンドだからこそ、何かが始まるのでは?という期待もあったようだ。
「リスナーの皆さんにも、誤解がないように、あえて今日お伝えすることになりますけど……実はわたし、TAKUMAさんからドラムを習ってたんですよね。本当はうまくなるまで、隠しておきたかったことなんですけど」
わたしは、本来言おうとしてなかったこの事実をラジオで告げた。
変な誤解を与え、印象を悪くするくらいなら、伝えるべきだと思ったからだ。
「だいぶ今更なんですけど、バンドに興味がありまして。シンガーソングライターとしてやって来ましたけど、バンドだったら、また違う世界が見れたのかなとか、ツーマンライブをさせて頂いた時に、より強く思いましてね」
「バンドいいなって、言ってたもんね」
「それで、ありがたいことに少しドラムを教えて頂きまして、わたしも貰ってばかりではいけないと思いつつ、TAKUMAさんが、じゃあ代わりに映画に付き合ってくれとおっしゃって……」
「それで、あの記事でしょ?」
「そうなんですよね……」
わたしは苦笑した。
ARATAさんは、何故だか楽しそうに笑っていた。
ツーマンライブを通して、わたしの中でバンドに対する憧れは強くなった。
そして、バンドを支えるリズム隊に魅力を感じていた。
興味津々なわたしに、TAKUMAさんは、さまざまなことを親切に教えてくれた。
TAKUMAさんはお茶目な人で、とても明るい。話していて笑いが絶えない。そりゃ、あの記事の写真のわたしも笑っていたはずである。
でも、そこにあったのは“恋”ではなかった。
「ところで、そらちゃんはハタチまでは恋愛しないと宣言していたようだけど、今も誰とも付き合ってないの?」
「いやぁ、そうなんですよね……。今、わたしも23になりましたけど、結局、あの宣言する意味はなかったんですよ」
「どういう人がいいとかあるの?」
「いやぁ、どうでしょうかね。でも、同業者? とは、やっぱり難しいでしょうね」
「同業者?」
「少なくとも、音楽関係者とか、まぁバンドマンとは付き合いませんよね?」
「えっ!?」
「バンドマンと付き合ったら破滅しますよ」
「じゃあ、TAKUMAは絶対ないってことじゃん!」
「アハハハ……。たとえば音楽のことで揉めるとか、音楽の方向性の違いで別れる、離婚するとか絶対嫌じゃないですか!」
「なんだか、バンドの解散みたいだね」
「それに、付き合うところまでは良かったとしても、付き合ってから仮に別れたら共演NGとかなるじゃないですか? それで大好きな音楽が共にできなくなるとか、これまで好きだった曲が聴けなくなるとか、そんなの絶えられなくて。だったら、はじめから付き合わないかなって」
「なんか、別れること前提だね?」
「いや、それは……違いますけど、別れた場合、音楽に支障が出るなら違うかなって」
「なるほどね。今好きって衝動よりも先をちゃんと考えてるんだね」
「だから、本来音楽関係者とは付き合いたくないです。もう尊敬し過ぎて手が届かないところまで行ってる方なら、揉めようがないので、アリなのかもしれませんけどね?」
「何、それじゃTAKUMAはアリになるの?」
「うーん……」
「その感じだと、そらちゃんは他に好きな人がいるんだね?」
「えっ!? いや、いないですよ!」
「好きまで行かなくとも、気になる人がいたり?」
「いや、それは……」
「マネージャーさんは?」
「へっ?」
「ほら、デビューからずっと一緒にいて、好きにならないの? そういうパターンもあるじゃん?」
ラジオブースの向こう側にいる笹竹さんと目が合った。
「いやいや、ないですよ!」
確かに、笹竹さんは独身だ。
もう結婚していてもおかしくないが、日々仕事第一で、わたしをこれまで支えてくれていた。
笹竹さんとは、常に仕事と思っているので、わたしはそんな目線で考えたことはなかった。
まさかARATAさんにこんなことを言われるとは……。
「なら、誰?」
「え? ……この話、続けます?」
三栗屋さんは、好き……だった人??
「今誰か、頭に浮かべたでしょ?」
「いや、それは……」
生放送で、わたしは何を告白しようとしているのだろう。
熱愛報道の否定だけで十分だったはずだ。
「好きだった人は、振り向いてくれないと思います。きっと子供だと思われてるので……」
「好きだった人?」
「過去形にしておきます」
わたしは、重くならないようにと、笑ってみせた。
「ってことは、昔から知ってる人ってことだ! 爆エン! メンバー?」
「な、なんで、そうなるんですか?」
「だって、子供だと思われてるって、今出会った人だとしたら、思わないでしょ?」
「!!」
おっしゃる通りだった。
今のわたしと誰かが出会ったら、子供だとはならない。だってもうわたしは、大人なのだから。
「TAKUMAは、そらちゃんのこと全然アリって言ってたよ? どう付き合ってみる?」
「えっ……」
「なんだか、未練ありそうだね。その、好きだった人に」
未練しかなかった。
断ち切ったはずなのに。恋のピリオドは打ったはずなのに。
自分の気持ちを伝えることもせず、一方的に諦めたのは、わたしだった。
「もし、その人に告白して振られたら、TAKUMAさんとお付き合いしてもいいですよ。ただし、振られたらですかね?」
告白する勇気もないくせに、わたしはそんなことをラジオの生放送で告白した。
きっと今、ブースの向こう側にいる笹竹さんが、こちらを睨みつけているはずだ。
生放送で何を話してるんだと眉間にシワを寄せているに違いない。
わたしは怖くて、ブースの外を見れず、ARATAさんを見ていた。
× × ×
夜空に月が浮かぶ。
風上は、仕事の帰り道、このラジオを車中で聴いていた。
嘗て不倫報道を報じられた彼は、佐藤美空の本当の意中の相手を知っている。
プルルルルと、着信音が鳴る。
「もしもし? 風上やけど。お前、『CONTINUE』ARATAのラジオ聴いてるか?」
風上の電話の相手は、聴いていない様子だった。
「絶対聴いた方がええで? そらの相手がお前じゃなきゃ、俺は許さへんからな」
そう告げると、風上は一方的に電話を切った。
× × ×
「なんだよ、お前ごときが……」
三栗屋はひとり、ぼそっと吐き捨てた。
ねぇ、いつから好きだった?
“有明の月”と、彼との一夜!?
衝撃の!?大人胸キュン回は、次回!!
来週に続く