20. 『CONTINUE』とツーマンライブ!!ドッキリドキドキ熱愛報道!?
「ツーマンライブのオファーが来てる。あの『CONTINUE』からだ」
「えっ!?」
この日、笹竹さんに呼び出されたわたしは、驚きのオファーを受けた。
わたしが『CONTINUE』とツーマンライブだと……!?
国民的バンドと呼ばれる『CONTINUE』を知らない人はいない。
これが現実になれば、まさに夢の共演である。
子供の頃からよく聴いていた『CONTINUE』の音楽。
そんな偉大なバンドとライブができる!?
「何やら、『やけど』を聴いたボーカルのKAZUTOさんが、君と一緒に歌いたいと言っているみたいだ」
「ほ、本当ですか!?」
「やはり、裏は表だったかな……?」
もはや『やけど』が裏と呼ばれていた事実は、事務所内の人間しか知らないだろう。
他が霞むほどの表じゃないか。
『CONTINUE』が、いろんなアーティストとツーマンライブをするようで、その中の候補にわたしの名前があがったらしい。これほど嬉しいことがあるだろうか。
佐藤美空が『CONTINUE』とツーマン!!という話題は、たちまち世間を賑わせた。
わたしは、そんな周囲の反応に、やっとシンガーソングライターになれたのかな?と思った。
『CONTINUE』は、4人からなるバンドである。
ボーカルKAZUTO
ギターARATA
ベースMASAKI
ドラムTAKUMA
というメンバーである。
わたしとは、一回り以上、いや、もっと離れているスーパースター達だ。
実は、ARATAさんは、過去に不倫した経験がある。
TAKUMAさんはというと、ひとり今も独身で、自由奔放に生きている。
不倫報道に振り回されたわたしから見ると、そんなことも音楽の力で吹き飛ばしてしまうのが、真のアーティストなのかなと思えてくる。
いや、わたしは未遂だ。そうだと思いたい……。
『CONTINUE』ファンの方々の前で歌うのは、当然初めての経験となった。
自分なんぞ、アウェイ過ぎるだろうと、ステージに立つまでドキドキしていた。
しかし、皆あたたかく迎えてくれて、声援を送ってくれた。
わたしは、素直に嬉しかった。
『だたた、春よ』や、わたしの人生になくてはならない『青い涙』、『生きる』など代表曲を披露していく……。
そして、『CONTINUE』のバンド演奏で、KAZUTOさんと歌う『やけど』に、客席の興奮は最高潮に達した!!
『やけど』を歌うKAZUTOさんの腰つきはセクシー過ぎて、正直、わたしは直視できなかった。
歌う人が変われば、曲も姿を変える。もはや、これは自分の曲ではない気がした。
ツーマンライブは無事成功した。
とても幸せな時間だった。
わたしは、あまり見ない方がいいかなと思いながらも、SNSで反響を覗いてみた。
『そらちゃんって、アーティストだったんだ!』
そんな呟きを見つめ、ああ、これだ、わたしが目指してたのは……。
その夜、わたしはひとり泣いた。
× × ×
約1年におよぶツアーと、ツーマンライブが終わり、わたしは久々にバラエティー番組へ出演した。
出演というより、気付いた時には出演させられていたと言った方が正しいだろう。
それは、なんと『ドッキリ番組』だったのだ。
ツアーが終わり、音楽雑誌の取材と言われて受けたのが、どうやらドッキリだったらしい……。
取材では、ライブツアーを語り、シンガーソングライターとしての今後を語り、音楽について熱弁していた記憶がある。
ただ、取材の中でこんな質問があったのは確かだ。
「佐藤さんは、もしまた爆エン! のような番組をやろうと、オファーがあった場合、参加されますか?」
それは、他とは毛色の異なる質問だった。
どうやらこの質問は、現在のわたしに対する、お笑いへの愛を勝手に図るドッキリだったらしい。
「そうですね、また機会があれば、やってみたいですね。今のわたしがあるのも、今の曲が書けたのも、爆エン! のおかげだったりしますし……。いろんな経験がわたしを成長させてくれたと思います。それをまた、音楽に還元していけたらなって思うんです」
「この1年、音楽活動のみに制限されていたようですが、今でもお笑いを見ることはありますか?」
「ありますよ。仕事としては音楽のみでしたけど、ツアー中その合間に、若手芸人さんが出演されてるライブに足を運んで見に行ってたり、地方公演で、たまたま有明モンタージュの単独ライブツアーとちょうどかぶってるところがあって、前乗りして、こっそり見に行ったりとか……」
スタジオで自分のドッキリVTRを見つめる。
わたしは、まだ、有明モンタージュと言っていた……。
MCの芸人さんが、ニヤニヤしながらわたしに言う。
「ライブとか、行ってんだね? お笑いからてっきり離れてるかと思ってドッキリかけたのに、冷たいね、忘れちゃった? って言おうとしたら、まさかのこっちが刺さるっていうね……。バラエティに戻ってくる気はあるの?」
「オファーがあるのなら、是非! コントでもなんでも」
「ドッキリでも?」
「ドッキリでも!?」
「またかけていい?」
「えぇ、ドッキリを!? えぇ、まぁ……はい。いつでも、是非!」
わたしは笑いながら、そう答えた。
正直、嬉しかった。
一度出演を断ったら、二度とオファーが来ることはないかもしれない。そんな不安もありながら、この1年バラエティ番組を断ってきた。
シンガーソングライターとしての活動に集中したいわたしもいて、葛藤はあった。
でも、仮に二度と呼ばれなかったとしても、シンガーソングライターだと胸を張れるわたしになろうと覚悟を決め、ツアーという旅に出たのだ。
このドッキリを仕掛けた側としては、思っていた映像にはならなかったようだが、これはこれで喜んでもらえたらしい。
このドッキリをきっかけに、わたしは求められるなら、バラエティ番組にも戻ってこようと思うのだった。
そう、わたしにNGはないのだから。
ライブ漬けの日々が終わり、ひとまず日常が戻った頃、わたしは笹竹さんに呼び出された。
また新しい仕事の話かと思えば、笹竹さんが眉をしかめている。
なんだか、嫌な予感がする……。
笹竹さんは、無言で、わたしの前に1枚の記事をスッと置いた。
そこには、『佐藤美空にやけど? 車中で育む年の差愛!!』と見出しがあり、運転席でニコニコしている『CONTINUE』のドラマーTAKUMAさんの姿と、助手席に座るわたしの笑顔があった。
「!!」
「この記事が出ることになった」
「なっ……!」
決して油断していたわけではない。
しかしそれは、“不倫ランド”以来の熱愛記事だった……。
「で、これは? 事実?」
「ま、まさか! そんなわけありません!」
『CONTINUE』のTAKUMAさんとは20歳近く離れている。
そして、手の届かないような大スターだ。何かあるはずがない!!
TAKUMAさんは独身だ。
救いがあるとするならば、この熱愛報道が出たとしても、以前のような問題はないということ。
しかし、誰もが知るバンドのドラマーだけに、この記事が出れば、双方の事務所は対応に追われ、ワイドショーを賑わすことは間違いなかった。
ツーマン終わりにこの報道は、あまりにも尻軽すぎる。
実際のところ、車内で育む年の差愛はどこにも存在していない。
しかし、この記事が撮られた日、わたしはTAKUMAさんと二人きりで映画に行っていた。
それは事実だった。
「熱愛というのは事実ではないんだな?」
「はい」
笹竹さんは、大きくため息をついた。
また怒っているに違いない。
「出すなら本当の熱愛スクープにしてくれよ……」
笹竹さんは、ぼそっと吐き捨てた。
えっ!? なんて!?
本当の熱愛だったら、よかったの!?
その意外な言葉に、わたしは何も返せなかった。
「で? なんでTAKUMAさんとこんなことに?」
「それは……。TAKUMAさんから、ドラムを……習ってたんです」
「ん!?」
「ドラムを教えて頂きまして、その代わり映画に付き合ってほしいと」
「佐藤は、ドラムを叩きたいのか?」
「はい……」
「!!」
ARATAのラジオで真相を暴露!?
TAKUMAとの熱愛報道の真相とは?
佐藤美空の恋愛観とは!!
来週に続く