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2.勝負の路上ライブ!魔法がとけるその前に

 夏休みの間、わたしは親戚の家に世話になりながら、東京で路上ライブを始めた。

 

 さすがは東京、都心の駅前は賑やかで、人が忙しなく行き来している。

 わたしは、魔法にかかったみたいな気分だった。

 東京の空気を吸い込み、ギターの弦を鳴らす。

 

 

 そんな簡単に、うまくいくわけがなかった……。

 忙しない人々は、当然、足を止めてくれやしないのだ。

 来る日も来る日も、わたしは駅前で歌った。

 この日のために書き貯めた曲を、想いを、今日もこの弦に乗せ、かき鳴らす。

 

 きっと大切なのは、技術や歌のうまさだけじゃない。

 運である。

 わたしに、それはあるのだろうか……。

 

 

 

 ある日、一人の主婦から声をかけられる。

 

「暑いのに大変ねぇ。あなた、毎日ここで歌ってるわよね?」

 

「は、はい! シンガーソングライターになりたくて」

 

「あら、そう。頑張ってね」

 

 毎日歌い続ければ、それなりに認識されるようになるものなのだろうか?

 皆に声が届いてないわけではなかったようだ。

 よかった。わたしは、透明人間ではなかったらしい。

 

 

 やがて、こんなわたしにも、ライブ仲間ができた。

 

「えっ!? 夏休みの間だけ? そりゃお嬢ちゃん大変だね。お父さんも優しいんだか、諦めさせたいんだか?」

 

 そうか。父は初めから無理だと分かっていて、わたしを見送ったというのか。

 夢を諦めさせるために、ひと夏の想い出に……。

 

「俺らも出るんだけど、ライブハウス、よかったらどう? スカウトもあるかもよ?」

 

 お誘いもあって、わたしはライブハウスにも出演し、歌うようになる。

 ライブハウスに来るお客さんは、当然曲を聴きに来ている。

 足を止めてくれない駅前とは違って、みんなわたしの曲を聴いてくれた。

 

 ライブハウス効果もあってか、わたしを知ってくれた人達が路上ライブに来てくれるようになった。

 誰かが足を止めれば、それにつられて足を止める者もいる。

 やがて、足を止めてくれる人が少しずつ増えて来た。

 わたしの視界が、行き交う人々の足から、わたしを見つめる笑顔になった。

 中には差し入れを持って来てくれる人もいて、なんだか少し有名人になれた気がした。

 それはまだ、早いか。

 でも、肝心なスカウトと呼べる声がけはなかった……。

 

 

 夏休みは、長いようで短い。

 自由に使っていいと言われた40日足らずの時間は、あっという間だった。

 あぁ、夏が終わってしまう……。

 この夏が終わったら、わたしはもう、ただの高校生に戻るんだ。

 まるで魔法がとけたシンデレラ。はじめから、ガラスの靴も履いてないくせに。

 

 

 路上ライブ、最後の日がやって来た。

 わたしは結局、誰からも声をかけられず、今日を迎えてしまった。

 そんな絵に描いたような出来事は起こらないものだ。

 

「次で、最後の曲になります。それでは聴いてください、『だたた、春よ』」

 

 わたしは、最後の曲を歌い出した。

 

 

『だたた、春よ』は、わたしが初めて作った曲だった。

 夏に歌うのは少し変かもしれないが、夢や希望、目標を持つ“春”に、そして、卒業やさよならの“春”に、ぴったりだと思った。

 そう、この曲が終わった時、わたしの夢も終わる……。

 

「だたた春よ~ だたた春よ~ 春は君との最後の時間だよ~。だたた春よ~ だたた春よ~ 春は別れの季節だねぇ~」

 

 ああ、さよならの春……。

 

 

 誰かが、こちらへと駆けて来る。

 そんな気がした。

 

「ちょっと、ごめんなさい。すみません、すみません!」

 

 スーツに革靴、メガネの男が、息を切らし、人混みをかき分け、こちらへと向かって来た。

 男は、最前列に立つと、額の汗をぬぐいながら、わたしの目の前で曲を聴いていた。

 

 

 あぁ、もうすぐ曲が終わる……。

 

「……春は、別れの季節だねぇ~」

 

 あぁ、わたしの夢が、今、終わる……。

 

 お父さんやお母さんが言う通り、わたしは一握りの方じゃなかったよ。

 やっぱり、何でもお見通しだね。

 でもそうだね。やる後悔の方がいいかもね。

 

 

「今日まで、ありがとうございました。この場所で出逢えた皆様に、感謝しています」

 

 わたしは、深々と頭を下げた。

 集まってくれていたお客さんからの拍手が聴こえた。

 みんな、最後まで聴いてくれていた。

 本当はそれだけで、十分幸せなことなのに……。

 

「明日からはまた、普通の高校生に戻ります。と言ってもまぁ、今も特別じゃない、普通の高校生ですけどね……」

 

 こんなの、初めから分かっていたことだ。

 なんて、口が裂けても、まだ悔しくて言いたくなかった。

 でも、時は無情にも過ぎて行く。

 

 人が、一人、また一人と、わたしの前から去って行った。

 

 

 先程まで息を切らしていたスーツの男が、息を整え、片付けを始めるわたしに声をかけてきた。

 

「あのぉ……」

 

「はい?」

 

「今日で、最後と聞きまして」

 

「ええ。明日、実家に戻るんです」

 

「やっぱり……」

 

「……?」

 

「間に合って、よかったです」

 

 男はホッとした顔をした。

 

「わたくし、笹竹浩伸ささたけひろのぶと申します」

 

 男は、わたしの前に名刺を差し出した。

 

「うちの事務所に、来ませんか?」

 

「えっ!?」

 

 それは、後にわたしのマネージャーとなる、笹竹さんとの出逢いだった。

わたしは一握りの方……!?

デビューから怒涛の物語が開幕。


来週に続く

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― 新着の感想 ―
 初めまして。  美空、お母さんの反対を押し切ってまで 東京に出陣して、正解でしたね。  歳を重ねていくと 慎重になりすぎて・・・というより 臆病になっちゃって、無難な方へ 無難な方へと行っちゃう人…
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