18. 恋に終止符!さよなら爆エン!
わたしは大学三年生になったが、あれ以来、色恋沙汰は特にない。
わたし達はきっと、“名前のない関係”だ。
あの日の出来事はすべて夢だったのではないか? と、今では思っている。
でも、“はしたない”わたしには、きっとこれくらいがちょうどいい。
この日、わたしはとある番組に出演した。
番組内では、企画として街頭アンケートにて、“わたしのイメージ調査”が行われた。
つまり、今現在、世間様が『佐藤美空』をどう見ているかが分かるものである。
『え、女優さんじゃないですか? やっぱり『ライダー物語』とか、見てたし』
『演技がうまい? 泣きの演技が凄いっていう』
『いつもコントしてるイメージしかないですね』
『えっ、不倫してる? みたいな?』
『不倫デート報道みたいな?』
『女優』『バラエティタレント』『演技がうまい』などの文字が並ぶ中、上位に『不倫』の文字が君臨していた。
そうか、ネタになりつつも“不倫”は、今も根強くみんなの脳裏に焼き付いてるんだ。
改めて、“不倫ランド”のその後の“本当の不倫”の可能性に恐怖を覚えた。
これまで不倫している人は、どうかしていると思っていた。
でも、自分がその渦中にいたらどうだろう。
結局、相手の家庭より、自分がかわいいのではなかろうか。
わたしは、最低だ。
そして、もう一つ衝撃的なことがある。
それは、シンガーソングライターであるという認識が、世間にほとんどないということだった。
わたしは、そもそもシンガーソングライターになりたくて上京したんだ。
武道館をうめて、歌うのが夢だったんだ。
売れっ子にはなれたけど、今のわたしは、きっと違う。
これは、やっぱり違う……。
事務所『センチュリー』としては、これは正しかったのだろうか?
スキャンダルさえなければ、わたしはまだ清純派として大切に取り扱われていたのだろうか?
笹竹さんが考えていることは、いまいちわたしには分からない。
新曲を出したり、アルバムを出したり、それはそれで音楽番組で歌も歌わせて頂いている。
でも、わたしの中で何かが引っかかり始めていた……。
季節はめぐり、気付けばわたしは22歳になろうとしていた。
あの日、「ハタチまで恋愛はしません!」と勝手に宣言したものの、いまだに誰とも恋愛することもなく、新たな恋をすることもなかった。
ただ、変わらぬ日常が続いていた。
この日の朝までは……。
この日、爆エン! の収録時、わたし達は番組の終わりを告げられた。
約5年続いた爆エン! は、12月に終わりを迎えるという。
徐々に視聴率が下がって来ていたことは知っていた。
近頃は、今旬の若手芸人さんをゲストに呼んだり、コント以外のコーナーも増えたり、テコ入れされていたことも察していた。
新しい時代が、もうすぐそこまで来ている。いや、もう来ているのだ。
この世界は、目まぐるしく変わって行く。
ずっと同じ場所には、とどまっていられない。
時の人は、やがてチリとなって消えていく。
だからこそ、笹竹さんはわたしにいろんなことを挑戦させ、芸能人としての寿命を延ばしてくれていたのかもしれない。
人気のバトンは、渡す前に奪われる。
もう我々は、あの時のキラキラした若手ではないのだ。
でも、どこかでわたしはホッとしていた。
わたしはやっと、解放される……。
これでもう、三栗屋さんに会うこともなくなって、心が乱れることもなくなる。
風上さんと不倫に溺れることもない。
やっと……、おしまいにできる。
楽屋でひとり。
わたしの目から涙がこぼれた。
わたしは、次のステージに進むのだ。
両親が離婚して、娘はシンガーソングライターとして歌ってないなんて、そんなの失った意味がない。
音楽をやりたくて上京した。その原点に戻ろう。
番組の終了は、わたしに新たな道を示してくれた気がした。
「番組終わっちゃうのに、告白せーへんの?」
「え? するわけないですよ……」
「ふーん」
風上さんが、話しかけてきた。
よく言うよ。あなた勝手にわたしにキスしておいて。
あれは、なかったことになってるの?
まぁ、続きがあっても困るけど。
「せっかくこれで、共演者の壁もなくなるのに」
「……」
「あいつ、別れてから、ずっと彼女もつくらないでいるんやで?」
「だから?」
「三栗屋にも、気持ちバレてるのに……」
「へっ? もしかして、風上さん! 何か言ったんですか!?」
「まさか。そら、顔に出過ぎやねん」
「……!!」
バレている……!? なんということだ!
え、だからあの日、仕方なく、キスしてくれたってこと?
「ん? どした?」
「でも、それって、気付いてて無視してるってことですよね? なら、可能性ってはじめからないじゃん……」
「それは、告白してみな分からんやろ」
「分かりますよ。一回りも年下のわたしは、どうせ子供ですもん」
「どうだか?」
好きってバレてるなら、付き合う気があるなら、向こうから来てくれたっていいじゃない!
そんな、草食系でもあるまいし。
「本当は俺も、好きだったけどな?」
「へっ……?」
「あの時は、世間様が見てたから、子供みたいなものって言ったけど」
「!?」
「俺達、あの時、記者に見つからんかったら、不倫してたやろ?」
「!!」
わたしは絶句した。
その言葉が胸の奥に突き刺さった。
自分自身、ずっと触れないようにしていたことだった。
その通りだと思った。
スキャンダルとして明るみに出なければ、どうしてた?
わたしは流されて、ズルズルと風上さんに落ちていったことだろう。
手繋ぎ“不倫ランド”の続きの物語が、できてしまっていただろう。
これで終わり。
全部、終わり。
終わらなければ……。
さよなら。今日までのわたし。
その後、わたしは新曲を発売する。
乱れ狂う愛の曲と、切なくピュアな愛の曲。
『乱雑』と『ずっと』、両A面シングルだ。
曲調が真逆の2曲。
これまでの片想いや別れの曲とは違う方向性に、世間から新たな注目が集まった。
この曲を聴いて、わたしがシンガーソングライターだったことを思い出した人もいたことだろう。
そして、12月。
最終回クリスマススペシャルとして、『みんなの爆笑エンターテインメント!』は幕を閉じた。
センスあるネタを作り、とても面白い。
大人だけど、時折無邪気。
クールだけど、実は優しくて、こんなわたしのことも気にかけてくれる。
三栗屋さん、大好きでした……。
わたしは、音楽の旅に出る。
やっとこれで、もと通り。
だって、わたしは、シンガーソングライターだから……。
新曲『やけど』でシンガーソングライターとして大復活!?
それは、これまでになく過激な楽曲のリリースだった。
そして、わたしは47都道府県『ロザリア』ツアーへ!
歌詞もたっぷり大公開!
来週に続く