13. 等身大の恋を探して。心が乱れる“破局報道”!
わたしは、大学に進学した。19になる春である。
仕事との両立は大変だったが、これはもともと両親が望んでいたことだと思い、わたしは進学を決めたのだった。
大学に入ると、周囲は浮き足立っていて、大学で勉強というよりも、受験からの解放、校則からの解放で、髪の色を変え、派手に遊ぶ子も多くいた。
わたしは、ふと思う。
自分は周囲のような普通の青春を歩んでいないと。
それは自分で望んだことで、夢を叶えて今があるわけだが、周りが歩む人生とは、当たり前だがあまりにも違っていた。
もし、自分が普通の学生だったら、自然と同級生や一つ上の先輩にでも恋をして、付き合ったりしていたのではないだろうか?
こんな一回りも上の誰かさんに恋をすることもなく、不倫報道なんてありえるはずがない。
ハタチまで恋愛禁止なんて、そんなルールを作ることもなかっただろう。
もし、もう一人の『わたし』がいたら、彼女は一体どんな人生を歩んでいるのだろうか?
わたしはそんなことを考えながら過ごしていた。
大学に入り、同じクラスの人とすんなり打ち解けるかと思っていたが、案外それは難しかった。
それは、わたしがあまりにも有名人過ぎたせいだ。
彼らは当然、わたしのこれまでを知っている。
フラットに接してくれる人の方が少なかった。
そんな中、わたしは同い年の、田畑すみれと、道場一彦に出会う。
二人は、わたしに対して普通の大学生のように接してくれた。
道場君に関しては、ほぼテレビを見てないらしく、わたしのことも全然知らなかった。
道場君は紳士的で、誰の悪口も言わない。本が好きで、よく分厚い本を手に持ち、読書をしている。
わたしは読書をする彼の姿を見ながら、ちょっといいなと思っていた。
等身大の恋愛をするべきと感じていたわたしは、もしやこれは、新しい恋に出逢ったのでは? と思った。
ある日わたしは、すみれちゃんに、彼のことがちょっと気になっていると話した。
同世代の恋バナは盛り上がり、キャッキャして楽しかった。
そうだ、この感じ! これが青春だ! とわたしは思った。
大学にもなれてきた頃、わたしにドラマの仕事が入る。
ドラマのオファーを受ければ、わたしは積極的に参加した。それがどんな役でもだ。
これまで清純派だったわたしは、あれ以来、すっかりイメージが変わってしまった。
今のわたしは、嫌がらせをする女の役や、男を奪う役など、明らかに求められるものが変わっていた。
不敵な笑みを浮かべる悪女を演じる。
それがリアルで『本当に男を奪っていそう』『やっぱり不倫している』などとネット上では言われていた。
また、佐藤美空と共演すると、相手役になった人はみんな落とされ、虜にされるという“魔性の女説”も流れていた。
結局、わたしのイメージは良くない。
一度汚れたものは、何度洗っても真っ白にはならないのだ。
共演者の俳優にも口説かれるようになった。
きっとわたしは、尻軽女だと思われている。
バラエティ番組に呼ばれれば、収録に望む。
MCから、この中なら誰と付き合いたいか? 誰とならキスできるか? など、乱暴な話題を振りかざされる。
そして、収録後、電話番号を書いた紙を渡された。LINEの交換を求められた。
きっとわたしは、尻軽女だと思われている。
実際のわたしは、恋も知らないピュアな人間である。
あれ以来、異性と二人で食事に行くこともない。
誘われる度、笹竹さんの怒った顔を思い出すのだ。
爆エン! は、人気番組として改編期も乗り切り、続いている。
風上さんとわたしは“不倫コンビ”と呼ばれ、それをネタにコントやコンビとして漫才をすることもあった。
そう、これは事実でないからこそ、いじれるのだ。
あんなことがあったのにもかかわらず、相変わらず風上さんは距離感が近かった。
そして、三栗屋さんはどんどん遠くに感じられた。
今のわたしのことを、どう思っているのだろう?
クールな三栗屋さんは、何を考えているのか分からなかった。
いつの間にか、わたしの隣にいるのは、いつも風上さんになっていた。
三栗屋さんは、彼女ともうすぐ結婚する。そんな噂もあった。
やはり彼女はいた。いるに決まっていた。
大丈夫。わたしには関係ない……。
思いを断ち切るように、わたしは等身大の恋を探した。
そして、大学に行き、わたしは絶望する。
すみれちゃんとした恋バナが、あんなに楽しかったはずなのに。
わたしは、道場君が気になる人だと言ったのに。
「実は、わたし、道場君と付き合ってて!」
「へっ……?」
「いやぁ、そらちゃんに言うの、どうしようって思ってたの」
「わたし、気になるって言ってたよね?」
「うん、知ってる。だから、そらちゃん傷付くかなって思ってさ」
知ってて、あんなふうに笑ってたってこと?
わたし付き合ってるのにって、優越感で笑ってたってこと?
「わたしも道場君のこと好きだったし」
「なんで言ってくれなかったの?」
「言えなかったんだよ。友達だから。それに、そらちゃんはハタチまで恋愛しないんでしょ?」
わたし、バカみたい……。
彼女は不敵な笑みを浮かべた。
その口元は、明らかに、わたしがいいなと思うものは全て奪いたい女の顔だった。
まさに、ドラマで演じた女ではないか。
あぁ、本物はこちらにいます……。
この日から、わたしにとって大学は、勉強をするためだけの場所になった。
でも、これが本来の目的なのだから、何も間違っていない。
わたしは、なんだか何もかも嫌になってしまった。
恋なんてしない方がいい。苦しいだけだ。
そもそも、わたしにそんなもの必要ない。
わたしは、ひとり泣いた。
部屋の窓を開けた。
月がこちらを見ていた。
上京したばかりの頃と変わらない光景だ。
わたしは今でも、この事務所の一室で暮らしている。
わたしはキラキラ眩しい太陽よりも、夜道を照らす月が好きだ。
わたしは、誰かの暗闇を照らすような歌を歌いたいんじゃなかったのか。
× × ×
そして、ある朝。
わたしは、とある芸能ニュースを目にすることになる。
それは、三栗屋さんの“破局報道”だった。
お相手は、わたしなんかよりもよっぽど綺麗で、すらっとしたモデルさん。
いつもより長く続いていた彼女だったらしい。
最近は、結婚を意識した発言もちらほらあったようだが、どうやら振られたらしい。
結婚とは、“その恋を最後にする”ということだ。
わたしは、あなたが最初で最後でもいい……。
あなたのためなら、お腹を痛めて子が産める……。
なんで? なんでわたしじゃ、ダメなの?
断ち切ったはずの想いが、また一気にわたしの心の中に溢れてしまった。
わたしは、この破局報道に喜ぶべきなのだろうか? めぐって来たチャンスだとでも?
でも、彼はモテ男だ。
すぐに次の彼女がデキるはずだ。なんなら、もうこうしている間にも、次のお付き合いを始めてるかもしれない。
きっとわたしのことなんて、眼中にない。
わたしの気持ちにも気付かないだろうし、気付いたところで見て見ぬふりをするだろう。
わたしを好きになんてなってくれやしない。
そもそも、両想いなんて奇跡であり、幻なのだ。
なのに、わたしは今、目の前で流れる破局報道に、どこかホッとしている。
そして、こんなにも心が乱れている。
道場君をすみれにとられたことなんて、もうどうだっていい。
あなたさえ、振り向いてくれるなら……。
自分が、最低な人間だと思った。
わたしの作る楽曲は、いつも“別れ”や“片想い”の曲ばかりだ。
両想いでハッピーエンドの曲なんてほとんどない。
当然だった。そんな素敵な恋を知らないのだから。
こんなにも、恋だの愛だの歌っているというのに……。
本当の恋も、愛も知らない。
「バカみたい……」
周りはどんどん大人になって行くのに、わたしだけが子供のまま、置いていかれていた。
佐藤美空が、24時間マラソン!?
衝撃の再会と、まさかの君の腕の中!!
来週に続く




