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1.シンガーソングライターになりたいっ!

※第194回・小説家になろうラジオ『開け!創作の扉!』参照。

もう一人のわたしの人生、ここにスタート!

 授業が終わった。

 皆、座席を離れ、休み時間を思い思いに遊び始める。

 わたしはというと、再び席に着いた。

 

 小学3年生のわたしは、椅子に座ったまま、窓の外を流れる雲を見つめていた。

 それは、周囲から見れば、誰とも群れず、教室でポツンと座っている大人しい生徒。

 もしかしたら、孤立した可哀想な人間だったのかもしれない。

 

 誰も、わたしの脳内が授業中以上に忙しいなんて知りもしない。

 

 わたしには、もう一人のわたしがいる。

 とは言っても、今、目の前に存在しているわけではない。

 もう一人のわたしは、きっと、別の世界に住んでいる。

 そして、今ここにいるわたしと正反対で、輝くために生まれて来た、キラキラした主人公だ。

 

 これは、その日から始まった、長期に渡る、わたしの黒歴史である――

 

 

 ×  ×  ×

 

 

「どうしても行きたいの!」

 

「何バカなこと言ってるの! 別に今じゃなくてもいいでしょ?」

 

「ダメなの! やりたいと思った今じゃなきゃ!!」

 

 わたしの目の前には、呆れた顔をした母がいる。

 母は、わたしの夢を無理だと決めつけているのだ。

 こっちは、決死の覚悟で伝えたというのに。

 

 わたし、佐藤美空さとうみくには、夢がある。

 それは、シンガーソングライターになることだ。

 そして、東京に行きたいという想いがある。

 

 中学の頃から、密かに抱いていた夢だった。

 この街を出て、東京に行くという憧れ。武道館で満員のお客さんの前で歌う夢。

 

 でも現実は、ただの高校1年生になったばかりのわたしで、親が否定するのも当然だった。

 これまで真面目に生きてきて積み上げたものを、自らの手で、今、わたしは壊しているようだ。

 

「ああいうのは、一握りの特別な人がなるものよ?」


 実際、わたしは密かに、アイドルオーディションを受けたりしていた。

 でもそれらは、すべて全敗だった。


「お母さんは、わたしがその一握りにはなれないって思ってるんだね……?」

 

「別に、そういう意味じゃないわよ。美空のためを想って言ってるのよ? 美空にわざわざ苦労して、傷付いて、そんな人生歩んでほしくないのよ」

 

「わたしは、今、お母さんの言葉に傷付いたよ……」

 

「へっ……」

 

 やってみなきゃ、可能性なんて分からない。

 やってダメだったことを考えて、初めから何もやらないなんて、間違ってる!

 何もしなければ、可能性は0%だ。

 でも、やってみたら、分からないじゃない!!

 

 

 

「挑戦しても、いいんじゃないか?」

 

「お父さん!!」

 

 突然、父が会話に入ってきた。

 

「やりたいと思った時に挑戦しないと、後悔するもんな?」

 

「あなた、何適当なこと言ってるの!」

 

「やらない後悔より、やる後悔だよ」

 

「ちょっと、何無責任なこと言ってるのよ!」

 

 父が反対しないのは意外だった。

 母以上に、怒るのではないかと思っていた。

 でも、やる後悔って……。まるでこの先に後悔が待ち受けてるみたいじゃない。

 

 

「ねぇ、お父さん。いいの……?」

 

「ああ。ただし、期限を決めよう。何でもかんでもいいとは言えない」

 

「うん……」

 

「今年の夏休み、その間だけ美空の自由に使っていい」

 

「え、夏休み……?」

 

「美空はまだ高校生だ。そりゃお父さんだって、高校大学と、進学してほしい気持ちはある」

 

「……」

 

「でも、夢を何もしないまま諦めて後悔する人生は歩んでほしくないからな」

 

 父はそう言うと、にっこり笑った。

 

 

 

 そして、勝負の夏休みがやって来た。

 わたしは、東京に行くことにした。

 母は最後まで乗り気じゃかなったが、親戚が東京にいたことからしぶしぶ許可し、わたしを見送った。

 

 きっと何もなく、わたしが落ち込んで帰って来るとみんな思っているのかもしれない。

 そんなの絶対に嫌だ!

 わたしは、一握りの方だ!!

 

 この先に起こる出来事など知る由もないわたしは、ギターを引っ提げ、東京へと旅立った。

やらない後悔よりやる後悔……。

わたしに待ち受けている運命とは?


来週に続く

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