第7話:シャイニング・ビンタ
アンドレイ=ラプソティは今や、口から溶岩をも溶かす地獄の炎を吐き、樹齢100年を超える木々のような6本の腕のそれぞれに武器を持ち、さらには獰猛な獣の4本足で大地を踏み砕く怪物へと生まれ変わっていた。
しかし、そんな状態に陥っているというのに、頑なにアリス=アンジェラはその状態から熾天使であるアンドレイ=ラプソティの姿へと戻れると主張して止まない。そんな彼女を背中に乗せているコッシロー=ネヅはどうしたものかと考えこむが、やがて考えるだけ無駄だという結論に至る。
コッシロー=ネヅはアリス=アンジェラが導くままに、彼女を背中に乗せて、大空を駆けまわる。アリス=アンジェラがコッシロー=ネヅに頼んだのは、怪物と化したアンドレイ=ラプソティの顔の周りを夏の蚊のように飛び続けることであった。そうしてもらいながら、アリス=アンジェラはアンドレイ=ラプソティに創造主:Y.O.N.Nの深い愛を説いてみせる。しかし、アリス=アンジェラの説教を聞けば聞くほど、アンドレイ=ラプソティがいら立っているのが一目瞭然であった。
アンドレイ=ラプソティは顔の近くに纏わりつく天界の騎乗獣に対して、口からとてつもない高温を纏う炎を吐き出す。コッシロー=ネヅは吐き出された炎に包まれないようにと位置を変えてみせる。その動きがさもうっとおしいのか、アンドレイ=ラプソティは6本腕を振り回し、まるでハエ叩きのように6本腕に持つ武器を振り回す。
「もう、いい加減にしてほしいのでッチュウ! アリスちゃんの言葉を少しでも聞く耳持っていたら、こんなに苛烈に攻撃をしかけてこないのでッチュウ!」
「コッシローさん、それは逆デス。痛い忠言ほど、わずらわしく思うものなのデス。苛立てば苛立つほどに、アンドレイ=ラプソティ様の心に創造主:Y.O.N.N様の言葉が突き刺さっているのデス!」
今のアリス=アンジェラはああ言えばこう言うの典型とも言えた。だが、確かにアリス=アンジェラの言うことにも一理あるといえばある。耳に痛い言葉は暴力で振り払ってしまいたくなるのは、誰にでもあることだ。思春期の子供が親の忠言を振り払うために、過剰な防衛反応を示すことは多々あることだ。しかし、アンドレイ=ラプソティは『天界の十三司徒』と称されるお方である。思春期などとっくの昔に終えており、アリス=アンジェラの言いがそのまま当てはまるとは言いにくい。だからこそ、コッシロー=ネヅは捨て台詞を吐くかのようにアリス=アンジェラに助言をしてしまう。
「なら、言って聞かないなら、力づくでわからせてやるのも手でッチュウ」
「なるほどなのデス。さすがはコッシローさんなのデス。ボクが今まさにしなければならないのは、それだったのデスネ」
「ちょっと、アリスちゃん!?」
コッシロー=ネヅは適当にアリス=アンジェラと受け答えをしたことを、この時ほど後悔したことはなかった。コッシロー=ネヅの背中を蹴っ飛ばし、宙に舞ったアリス=アンジェラが落ちていく先がまさにアンドレイ=ラプソティの顔面へと一直線であったからだ。開いた口が塞がらないとはまさにこのことであったが、アリス=アンジェラがアンドレイ=ラプソティにしたことで、ますますコッシロー=ネヅの顎が外れそうなほどにポカーーーンと下へと垂れさがることになる。
そう、アリス=アンジェラが怪物と化したアンドレイ=ラプソティに向かってやったことはただひとつ。聞く耳持たない子には神力でわからせろをそのままに実行したのだ。ただし、アリス=アンジェラの右手はそこに集まる神力で光り輝いており、さらにはその神力によってアリス=アンジェラの右手の大きさは通常の30倍の大きさまで膨れ上がっていた。
「シャイニング・ビンタとはまさにこのことデス。ふぅ……。ちょっとすっきりしまシタ」
巨大化したアリス=アンジェラの光り輝く右手は怪物と化したアンドレイ=ラプソティの左頬を打ち抜く。その衝撃はすさまじく、怪物と化したアンドレイ=ラプソティと言えども、グリンッ! と首級を左から右へと捻じ曲げられることになる。そして、下半身が4本足となっているというのにグラリと巨体を左から右へと傾けていき、ついには横倒れとなってしまう。
高さ15ミャートル、全長20ミャートルもあるアンドレイ=ラプソティが横倒れになってしまったことで、周囲10キュロミャートルに震度5の地震を鳴り響かせることになる。脳を思いっ切り揺さぶられたアンドレイ=ラプソティはビクッビクッと全身を震わせることになり、昏倒からなかなかに再起動することは出来なくなってしまう。
「やれやれ……。とんでもねえ奴だな。あの終末の獣がこの世の全てを破壊しつくしてくれるまで待っても良かったが、こりゃ計画変更と行くかっ!」
「あたしとしてはこうなってくれたほうが、この先々、楽しめるから、これで良かったと思うけどなっ!」
「クリス。お主は楽しめるかもしれぬが、わらわは面倒なのじゃ。ああ、面倒なのじゃ。働きたくないのじゃ」
愚痴をこぼし続ける破壊的なおっぱいを持つ半狐半人の肩に右腕を回しつつ、まあまあと宥めるのはこれまた破壊的なおっぱいを持つ半龍半人であった。半狐半人の女性は自分の身体に纏わりついてくる半龍半人の女性を両手で押しのけようとするが、そうすればそうするほど半龍半人は半狐半人の身体の横側から両腕を回し込み、さらにはその破壊力抜群のおっぱいをもみくちゃにしてしまう。
「おい、クリスティーナ=ベックマン、ヨーコ=タマモ、いつまでじゃれ合ってやがる。いい加減にしないと、てめえらのおっぱいをちぎり取るぞっ!」
「それは御免こうむる。あたしのおっぱいを好きにして良いのはこの世でヨーコだけ」
「おい、クリス。わらわはその気が無いと何度言えばわかるのじゃ?」
「ええ!? 夜はあたしのテクニックであんなに嬌声をあげているくせに、そんなこと言うのか!? 上の口だけじゃなくて、下の口からもよだれをダラダラと流しているその口で言うのか!?」
強めの茶褐色の肌色をしたダークエルフの男がボリボリと右手でボサボサ髪を掻き毟る。そして、クリスティーナ=ベックマンと呼んだ半龍半人の暴力的なおっぱいを両手で鷲掴みにして、さらに脅しをかける。
「いい加減にじゃれ合うのはヤメロと言っているだろ。てめえのこのおっぱいは誰のおかげでここまで育ったと思ってやがる!?」
「うぅ……、すまないい。あたしのおっぱいはダン=クゥガー様のおかげでここまで大きくしてもらったのだった」
「わかりゃあ良い。またあの断崖絶壁に戻りたくなけりゃ、俺様の言う通りに動け。もっと面白い状況になるように俺様を手伝え。目標はアンドレイ=ラプソティ。奴が常に不安定な状態になるように種を仕込むぞっ!!」