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聖女列伝 ~聖母となるべく創られた少女~  作者: ももちく
第10章:アルピオーネ山脈
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第5話:魔因子

 鍋に突っ込まれた幼竜はなんとか一命を取りとめていた。しかしながら、出汁をたっぷりと取られていたためか、虫の息であることは変わりはない。アンドレイ=ラプソティはあぐら状態の膝の上にその幼竜を乗せて、両手を用いて治療天使術を施すのであった。ミサ=ミケーンは可笑しそうな表情のままに、その茹蛸状態の幼竜をツンツンと右手の人差し指で突く。


 ミサ=ミケーンが指先で突くと、力無くではあるが、幼竜は身体をのろのろと動かし、チュパチュパとミサ=ミケーンの指先を吸ってくる。ミサ=ミケーンは、その痛痒い感触を味わいながら、ほっこりとした笑顔になってしまう。


「まるでアンドレイ様とあちきの赤ちゃんみたいですニャン。指を吸われていると幸せな気分になってしまいますニャン」


「えっと……。悪魔とニンゲンなら(ドラゴン)の羽根を持つ亜人も産まれますけど、天使とニンゲンの場合はどうでしたっけ??」


「我輩を巻き込むんじゃねぇっ! って、それこそ、お前の上司に聞けっつうの。しょうがねえ。ついでだから、アリス嬢ちゃんの性教育を含めての話をしてやらあ」


 皆は幼竜から取れた出汁がたっぷり入った根野菜とごろりとした肉のごった煮スープを味わいつつ、ベリアルの話に耳を傾ける。ベリアルが言うには、悪魔とニンゲンの間に出来た子供に蝙蝠の羽が生えるか、(ドラゴン)の羽が生えるかどうかは、その人物たちの身体に竜因子が組み込まれているかどうかということになるらしい。


 さらにベリアルは言う。竜因子を持っているニンゲンや悪魔の間に生まれる子が半龍半人(ハーフ・ダ・ドラゴン)になるかどうかは確率はかなり低いと。それこそ、まさに創造主:Y.O.N.Nのみぞ知ると言ったところであると。


「なるほどなのデス。まさに神の味噌汁(ミッソ・スープ)ってことデスネ?」


「おい……。アンドレイ。アリス嬢ちゃんにツマらないジョークを教えてんじゃねえよっ!」


「ちょっと待ってください。これは天界の鉄板ジョークです。私が教えずとも、天界の誰かしらが教えるジョークです」


 アリス=アンジェラが味噌(ミッソ)と幼竜で味付けした根野菜とお肉のごった煮スープが入ったお椀をベリアルに付きつけながら、無い胸を張って、自信満々に言ってのける。さすがは鉄板ジョークなだけあって、天界ではこれを言うだけで、箸が転げただけで笑ってしまう10代のように、皆が笑顔になってしまう。


 しかし、ベリアルは創造主:Y.O.N.Nが憎くて憎くて仕方が無い『七大悪魔』だ。天界の鉄板ジョークを聞かされただけで、虫唾が走る。まさに不味そうな顔をしながら、お椀に口をつけて、その味噌汁(ミッソ・スープ)をズズズ……と飲むのであった。しかしながら、この幼竜から取れた出汁と味噌(ミッソ)がうまいこと絡み合い、干肉と言えども、味わい深い味噌汁(ミッソ・スープ)となっていた。


 機嫌を取り戻したベリアルは意気揚々と、もし、アンドレイ=ラプソティとミサ=ミケーンの間に子供が出来るなら、一体、どんな子になるのかという予測を立ててみせる。


「ふむふむ。それは興味深いのデス。アンドレイ様が堕天したあの姿から想像するに、半獅半人(ハーフ・ダ・リオン)になるかもしれないのデスネ?」


「あの……。なんで、私が堕天した姿を基礎にしているんですかね?」


「そりゃ、魔因子が身体に出来ちまった今のアンドレイなら、どう頑張っても、堕天した方に子が似るからだよ。もしかして、自分では気づいていないのか??」


 ベリアルがそう言うと、アンドレイ=ラプソティは眉間のシワを深くするしかなかった。常々、神力(ちから)の戻りが遅いということには気づいていたが、その原因が堕天移行状態に移ってしまったことであることを、今更に知ることになるアンドレイ=ラプソティであった。そして、魔因子が身体の中にある以上、それを取り除くことが出来るのは、天界でも数少ない神と、それを除けば創造主:Y.O.N.N様だけである。


 自分の大切なひとの天命を奪われ、それを嘆き悲しむ時間も与えずに、アリス=アンジェラとコッシロー=ネヅが自分を天界に連れ戻そうとしたのは、創造主:Y.O.N.N様が自分の身体から魔因子を取り除こうとしているのか? という疑念を抱かざるをえなくなってしまうアンドレイ=ラプソティであった。


「そんな難しい顔をしてんじゃねえよ。不安定ゆえに、ちょっと堕天しやすい身体になっているだけだ。これから先、どっちに転ぶかは、アンドレイ、お前次第だ」


「そう……なんですか? 自分でも自分の身体がどうなっているかわからないのは、薄気味悪いんですよ」


「なんなら、ミサちゃんに聞いてみりゃ良いじゃん」


「えっ? ここでミサ殿との話が絡んでくるんです??」


 アンドレイ=ラプソティの顔にどんどんシワが刻み込まれていく。ベリアルが言っていることが、危険極まり無い気がしたからだ。そして、アンドレイ=ラプソティの予想通り、ベリアルがアンドレイのあっちのお味はどうだった? と聞き始めたのだ。こんなこと、16歳の娘が居る前で聞いていいことでは決してなかった。


「うーーーん、わかりかねますニャン。久方振りに味わったアンドレイ=ラプソティ様のスペル魔は非常に濃厚で、美味しかったとしか……。アンドレイ様は誰かと浮気していたわけではないとわかっただけでも、ミサは幸せを感じてしまいましたニャン」」


「ミサ殿! この場には華も恥じらう16歳の聖女(おとめ)がいるんですっ!」


 アンドレイ=ラプソティは間抜けにも、ベリアルの口車に乗せられたミサ=ミケーンを叱り飛ばす。ミサ=ミケーンは雷を落とされたことで、猫耳ごと、頭を両手で抑え、身体を縮こませてしまうのであった。


 アンドレイ=ラプソティはまったく……と嘆息しつつ、アリス=アンジェラの方を向き、今の話はすぐに忘れるようにと、アリス=アンジェラに言うのであった。アリス=アンジェラはよくわかってないといった感じで首級(くび)を傾げている。それもそうだろうと思うしかなかったアンドレイ=ラプソティは、口をお椀につけて、ズズズ……と味噌汁(ミッソ・スープ)を吸い、ブフー! と勢いよく吐き出してしまうのであった。


「スペル魔って、おちんこさんから噴き出す白い液体のこと……デスカ?」


「さすがは16歳ともなると、おちんこさんから白い魔液が飛び出すことは知っているかっ! こりゃ、今夜は赤飯だなっ!!」


「でも、知識で知っていても、実際にあの匂いと粘っこさを知らないうちは、まだまだ聖女(おとめ)の域を出ませんニャン。ここは性教育の一環として、実際のモノをアンドレイ様がお見せするのは如何ですニャン?」


「ゲホゲホッ! ガハゲホッ! そんなことをした日には、私はアリス殿の守護天使であるコッシロー殿に殴り殺されますよっ! 守護天使は守護対象に危険が及ぶと、自動的にその戦闘力を3万倍に増やせるんですよ!?」


「へえ……。このちんちくりんのお目付け役の白ネズミの戦闘力が3万倍ってか。それはそれで面白そうだけどなあ?」

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