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聖女列伝 ~聖母となるべく創られた少女~  作者: ももちく
第10章:アルピオーネ山脈
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第2話:スベらない話

「ったく……。アリス殿を重く感じるのは、雪のせいもあって、至極当然ですけど、それを口にしますかグワァァァ!」


「こっちのおじさんも失礼なのデス!」


 結局、何も言わなかったコッシロー=ネヅ以外が、アリス=アンジェラが放つ制裁の意味を込めた眼から光線(ビーム)で、ちょっぴり焦がされることになる。いつもはチリチリ天然パーマになるはずが、今のアリス=アンジェラはさすがに気が引けたのか、髪に少しだけパーマが当たる程度に収めるのであった。


 しかしながら、アリス=アンジェラの眼から光線(ビーム)を喰らったアンドレイ=ラプソティとベリアルは少しだけ身体が温まったのか、ホッと安堵の表情を浮かべることになる。そして、お怒りモードのアリス=アンジェラの気を収めると同時に、腹も満たしてやろうと、夕食の準備に入るのであった。


「氷で覆われた世界の不思議なところは、温かい物ってだけで、心も身体も腹も満たされることだよな」


「それはわかりますね。自分が進言したゆえに、レオンもぶつぶつ文句を言いまくっていましたけど、温かいスープを飲むだけで機嫌を直してくれたものです」


「てめえんところは常春だから、雪中行軍とは無縁だろうが。何をヒト様に強いてんだ」


「雪が降り積もる季節にその山を越えて、敵を攻めるバカは居ないと思うのは当然なのです。だからこそ、奇襲には最適だっただけです」


 地獄の半分は火山と溶岩、さらに岩砂漠で支配されている。しかしながら、もう半分は氷で覆われている。その氷地帯は通称:氷獄(コキュートス)と呼ばれている。その氷獄(コキュートス)には、666万6666体の悪魔が閉じ込められている。


 天界出身の者で無くても、氷獄(コキュートス)の存在は知れ渡っているほどに有名な氷地帯であった。ベリアルは物見(ものみ)遊山の気分で、よく他の七大悪魔の連中を連れて行った。そして、やはり七つの大罪を象徴している七大悪魔たちは不平不満をベリアルに言っていた。


 そんな連中を黙らすのに一番効果が高かったのは、温かいスープであった。こういう場所でのスープの具材は何だって良い。温かい食べ物がどれほど価値あるモノなのかを再認識させてくれる場所でもあった。そして、七大悪魔は今度こそ、天魔大戦で勝って、常春の天界を我が物にしようと誓い合ったのだ。


「良い話デス……。ちょっと、ホロリときまシタ……」


「ちょっと、アリスちゃん!? そこはホロリどころか、眼から光線(ビーム)デス! で怒るところでッチュウ!」


「ははは……。悪魔のたくらみをことごとく潰す役割の天使が決して口にしてはいけない一言ですね」


「さすが、アリス嬢ちゃんだっ! お前が堕天した時には、我輩の養子として迎えいれてやるからなっ!」


「さて、ベリアルのちょっと良い話を聞いたので、次はアンドレイ様の番デス。最低限、スベらない話でお願いしマス」


「いきなり閾値をあげてきましたねっ!? ベリアルより遥かに感動する話を聞かせてやりますよっ!?」


 アンドレイ=ラプソティとしては、負けられない戦いであった。悪魔の戯言に、ホロリと涙が出そうだと言っているアリス殿を改心させなければならない使命が下されたと思ってしまうほどである。アンドレイ=ラプソティはちょっと待ってください。アリス殿にもわかりやすいようになるべく砕いて話しますからと言い、5分ほどああでもない、こうでもないと頭を捻り始めるのであった。


 そんなアンドレイ=ラプソティが5分後に語り出し話とは、マケドナルド王国に新しい王が誕生する頃のことである。この時、マケドナルド王国にはレオン=アレクサンダーの父親であるルクス=アレクサンダーが君臨していた。そして、レオン=アレクサンダーには目の上のたんこぶがもうひとつあった。それは父親であるルクス=アレクサンダーが自分の後継者として指名していた異母弟であった。その者の名はシビルである。


 異母弟のシビルは平民出の娘との間に出来た子である。そのため、まったくもって、次代の王となる資質を持ち合わせてなどいなかった。しかし、父王はその平民出の娘を大層、可愛がっており、正妻の子であるレオン=アレクサンダーを煙たがっていた。


 それもそうであろう。マケドナルド王国は他国と比べれば、小国と言わざるをえない国であった。そのため、どうしても外交を疎かにしてはいけない。しかし、レオン=アレクサンダーは稀代の英雄となりえると、散々に父王に進言したのが彼の守護天使であるアンドレイ=ラプソティそのひとであった。


 そして、レオン=アレクサンダー自身も父王が当てた教育係に対して、まったくもって耳を貸そうとせず、まさに『うつけもの』と呼ばれるような行動を好んだのである。マケドナルド王国の首都で、婆娑羅姿で現れるのはまだ良い方で、竹馬の友と称される者たちを引き連れて、連日連夜、どんちゃん騒ぎを起こした。


 他国との面子を重んじる父王は、破天荒なレオン=アレクサンダーをさらに毛嫌いしたのは当然でもあった。そして、王の資質には欠けるが、調和を是とするシビルの方を後継者として、指名するに至る。それに対して、シビルと父王を討てと命じたのが、レオン=アレクサンダーの守護天使であるアンドレイ=ラプソティそのひとであった。


 アンドレイ=ラプソティはシビルを討つために、念入りに計画を立てていた。マケドナルド王国の宮中に住む貴族たちと口裏を合わせ、シビルが孤立するようにと、雪深い山里に養生のために向かわせたのである。


 父王のルクス=アレクサンダーは雪山なら、シビルが孤立しようが、レオンが何かを企んだとしても、すぐには行動には移せないと見ていた。実際、シビルは持病を抱えており、その雪深い山里にあると言われる伝説の温泉の効果を試すのも悪くないと思ったルクス=アレクサンダーであった。そして、シビルには念のため、1000の兵を護衛として預けたのである。


 この1000の兵は言わば、ルクス=アレクサンダーの近衛兵であった。ルクス=アレクサンダーのさらに父王の時代から王に仕えていた家柄の兵士ばかりである。決して、ルクス=アレクサンダーに牙を剥くことはない存在であった。


 だが、レオン=アレクサンダーの竹馬の友と呼ばれた面々は、その数、100しか居なかったが、その100の男たちの尻をレオン=アレクサンダーが丁寧に掘った事実を父王のルクス=アレクサンダーは知る由も無かった……。


 勝敗を決めるのはいつの世でも、金や身分では無く、『愛』であった。人々の愛を一身に受け入れたり、惜しみなく皆に与えた者が、最終的に歴史の勝者となる。膝まで積もる雪を踏みつぶし、連なる雪山を越えに超え、レオン=アレクサンダーは次代の王となる者を誅殺するに至る。そして、その首級(くび)から垂れ流れる血が渇く間も無く、次にレオン=アレクサンダーが目指したのは、自国の王宮であった……。

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