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聖女列伝 ~聖母となるべく創られた少女~  作者: ももちく
第8章:トルメキア王国
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第2話:安堵の抱擁

「お、おい! アリス嬢ちゃん、大丈夫かっ!?」


 ベリアルはこちらに向かって倒れ込んでくるアリス=アンジェラを両腕で受け止める。華奢な身体のアリス=アンジェラの背中に手斧が突き立っていることを視認したベリアルは心の底から怒りの色が沸き起こってくることになる。アリス=アンジェラの背中に向かって手斧を投げた人物はヒッヒィィィ! と半狂乱になっていた。アリス=アンジェラの控えめのシャイニング・グーパンを喰らい、その人物の顔は半分グチャグチャになっていた。


 それゆえか、その人物は自分が為した大罪がどれほどに重いものかをまるで理解していなかった。ただただ、自分を悪魔の形相で睨みつけてくるベリアルに恐怖したのである。


「お、おれは悪くない! 救世主(メシア)様を殺した天使に罰をあたえぶべええええええ!!」


「うるせえ……。それ以上、ものをしゃべるんじゃねえ……。我輩はお怒りなんだよっ!!」


 ベリアルがアリス=アンジェラの身を支えながら、暴漢に向かって、右腕を真っ直ぐに突き伸ばす。そして、右手を大きく開いたかと思えば、その右手をゆっくりと閉じていく。それと同時にその暴漢の身体がある一点に向かって凝縮されていく。身体のあちこちから噴水のように血をまき散らしながら、ミチミチッボキボキッという聞いているだけで怖気が走る音が広場に鳴り響く。


 ベリアルが完全に右手を握り込んだ時、アリス=アンジェラの背中に手斧をぶん投げた暴漢は直径3センチュミャートルほどのミンチ肉のつみれ(ミート・ボール)へと変化していた。仲間がミンチ肉のつみれ(ミート・ボール)に変えられたことで、残りの救世主(メシア)派はその場から蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うことになる。


 しかし、ベリアルの怒りはそこで収まることは無く、握り込んだ右手の人差し指と親指を用いて、パチン、パッチン、パッチンチン! と鳴らしてみせる。ベリアルが指で音を奏でる度に、逃げ惑う救世主(メシア)派たちの頭がゴム風船に多大な空気が吹き込まれたかのように膨らみ始める。


「汚い花火でも打ち上げてろっ!」


 ベリアルはこの街に住む救世主(メシア)派たちをひとりとて、許す気にはならなかった。街のあちこちで大きく頭が膨らんだ救世主(メシア)派たちが宙へと浮かび上がっていく。そして、地上から10ミャートル地点で止まったかと思えば、ベリアルがひと際大きく、右手の指をパチンッ! と弾いた瞬間、青空を赤黒く染める花火が破裂することになる。


「ベリアル……。気持ちはわかりますが、少々やりすぎではありませんか?」


「アンドレイ。お前はアリス嬢ちゃんが凶刃に倒れたってのに、なんでそうも冷静でいられる!?」


「ちょっと落ち着くでッチュウ! アリスちゃんも少々驚きまシタ! とでも言って、目を覚ますのでッチュウ!?」


 大空は蒼く晴れ渡っているというのに、その青空から紅い雨が降り注いでいた。その紅い雨に濡れながら、アンドレイ=ラプソティはベリアルの(おこな)ったことに関して、諫めたのだ。しかし、何故、アリス嬢ちゃんが傷物にされたというのに、怒り狂わないのか!? と問うたのがベリアルである。その2人の間で喧嘩が勃発しそうになったところで、仲裁に入ったのがコッシロー=ネヅであった。


 アンドレイ=ラプソティも、コッシロー=ネヅもアリス=アンジェラの背中に手斧が突き立てられたのには大層驚いた。しかし、アリス=アンジェラは腐っても半天半人(ハーフ・ダ・エンゼル)である。ニンゲンたちが用いる通常の武具で身体を傷つけられるわけがない存在だ。アンドレイ=ラプソティたちとしては、油断しすぎですよ……という感想を抱いていた。


 ベリアルもアンドレイ=ラプソティたちと同じ感想を抱くであろうと思ったのに、その思いとは裏腹にベリアルは烈火の如くに怒り猛ってみせた。この場を収めてくれるのはもはや、凶刃に倒れたアリス=アンジェラのみである。思いの違いはあれども、彼女に一刻も早く目覚めてほしいと願ったのはベリアル、アンドレイ=ラプソティ、コッシロー=ネヅの三者とも同じであった。


「うわっ。びっくりしたのデス! 急に背中に重い衝撃を受けたので、アリスは少しばかり気を失ってしまっていたのデス!」


「アリス嬢ちゃん……」


「ちょっと、ベリアル!? ヒゲが顔に突き刺さっているのデス! 痛いのデス!」


 アリス=アンジェラは紅い雨に打ち付けられたことで、ようやく目を覚ますことになる。だが、目覚めるや否や、ベリアルが泣きそうな顔をしながら、アリス=アンジェラをがっしりと両腕で抱きしめ、さらにはオシャレに整えられているヒゲ顔でアリス=アンジェラへと頬ずりを開始したのである。


 アリス=アンジェラとしてはびっくり仰天であった。天から降り注ぐ紅い雨によって、ベリアルはまるで顔面から流血しているかのように見えた。それだけでも驚きであるのに、その顔面流血男が嬉しそうな顔をしながら、自分に頬ずりしてくるのだ。これでパニックにならない女性がこの世に存在するというのであれば、その女性をシャイニング・グーパンで眼を覚ませ! と言いたくなってしまうほどである。


 アリス=アンジェラは心臓をバックンバックン! と跳ね上がらせることになる。ベリアルが頬ずりしつつ、さらにはアリス=アンジェラのほっぺたに散々に接吻(せっぷん)してくるからだ。もしかすると、初めてのキスをベリアルに奪われてしまうのではなかろうかという気がしてしまう。


 しかし、心臓は高鳴りを止めないが、アリス=アンジェラはふと、省エネモードのコッシロー=ネヅを抱き枕にしつつ、彼の唇を自分の唇でしょっちゅう奪っていたことを思い出す。アレはアレで、コッシロー=ネヅに自分の初めてのキスを捧げていることになるのか? それとも、愛玩動物とのスキンシップの一環ゆえにノーカウントなのだろうか? と考えこみ始めることになる。


 そして、いよいよ、ベリアルが自分の唇をアリス=アンジェラの唇に重ねてこようとしたところで、アリス=アンジェラはベリアルの胸を両腕でドンッ! と押し出すことになる。


「いてててっ……。そんなに拒否感を出さなくてもいいだろっ! お前は処女(おとめ)か何かか!?」


「うっ! セクハラなのデス! 天界裁判でベリアルを裁いてもらうのデス! 初めてのチュゥは創造主:Y.O.N.N様がお決めになることなのデス!」


「チュッチュッチュ。アリスちゃんの初めてのチュゥは自分がすでにもらっているのでッチュウ。でも、自分の場合はノーカウントなのでッチュウかね?」


「そこは難しいところですね。ケルビムほどの高位の天使となると、ヒト型にも変化できますし。その時の形状で決めるべきことなのでは?」


「えっ!? コッシローさんって、ヒト型にも変化出来るんデス!?」

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