第4話:天使の性別
「ボクはアンドレイ様の提案に従いマス。アルピオーネ山脈には一度、足を踏み入れてみたいと思っていましたノデ」
「へえ……。天界でもアルピオーネ山脈への赴任は嫌がるというのに、アリス殿は勇気溢れる方ですね」
「バハムート様に会ってみたいのが半分。自分の足であの天上に届こうとするほどの山を越えてみたいというのが半分ってところデス」
アンドレイ=ラプソティはなるほど……と思ってしまう。竜の中の皇。竜皇:バハムートがアルピオーネ山脈の山頂に住んでいる。アンドレイ=ラプソティは第3次天魔大戦において、その竜皇:バハムートと知見の仲になっていた。竜皇は背中に生えている竜の羽根で悪魔たちを吹き飛ばし、口から吐くブレスで悪魔たちを氷漬けにした。
アルピオーネ山脈が夏でも薄っすらと3合目まで雪が積もっている原因は、竜皇の存在があってこそだとも言われている。そんな生きる超常現象の塊であるバハムートをその眼で見てみたいと思うのは強者の摂理なのかもしれないとも思ってしまうアンドレイ=ラプソティであった。
アンドレイ=ラプソティは一応、コッシロー=ネヅの意見も聞くことになるが、コッシロー=ネヅはもちろん、アリスちゃんが行くところにお供するのは当然だと主張する。だが、ひとりだけ唸り続けているベリアルだけは返答を未だに出せず仕舞いであった。そんな唸る彼の襟を右手で捕まえたアリス=アンジェラは意気揚々と歩き出す。地面に尻によって出来た線を残しながらも、ベリアルはまだまだう~~~んう~~~んと唸るのを止めないでいた。
そんなベリアルが正気に戻ったのはその日の夜更けになってからである。今日は生憎ながら、野宿となった。その夕飯中にも上の空のようにベリアルはああでもない、こうでもないと独白を続けていた。そして、アンドレイ=ラプソティたちがそんなベリアルを放っておいて、身体を厚手の毛布で覆い隠す頃になって、ベリアルはポンという音を両手で奏でることになる。
「そうだ! 地獄の門から地獄の番犬を呼んでくれば、寒さ対策はバッチリだぜっ!」
「寝言は寝てる時に言ってください。アルピオーネ山脈で大怪獣対決でもさせる気ですか?」
「おお……。地獄の番犬! ボク、地獄の番犬を飼ってみたいと思っていたんデス!」
「寝言は寝てる時に言うでッチュウ。アリスちゃんには我輩という可愛いケルビムが居るのでッチュウ」
ベリアルにはアンドレイ=ラプソティが、アリス=アンジェラにはコッシロー=ネヅがそれぞれにツッコミを入れる。コッシロー=ネヅは決して、アリス=アンジェラのペットではないが、それでも愛玩動物だという誇りはある。アリス=アンジェラはそんな健気な主張をするコッシロー=ネヅが可愛いと思って、毛布ごと、省エネモードのコッシロー=ネヅを抱き枕にしてしまう。
「冗談なのデス。ボクのコッシローさんは誰にも負けないほどのもふもふなのデス。例え、フェンリルがボクのペットになりたいと志願してくれても、ボクはコッシローさんがいるからと断るのデス」
「本当にそうでッチュウ? フェンリルはあの冷たさの割りにはくやしいくらいにもふもふでッチュウよ? アリスちゃんはそれでも浮気しないと誓えるでッチュウ?」
コッシロー=ネヅとしては珍しく拗ねてみせる。それがますます可愛いと思ったアリス=アンジェラは、ギュッと力強くコッシロー=ネヅを抱き枕にしてしまう。そして、こんな抱き心地の良いコッシローさんを袖にするなんてありえないのデスと言いながら、クークーと可愛らしい寝息を立てつつ、アリス=アンジェラは温かい水底へと意識が堕ちていくのであった。
その様子を微笑ましい表情で見ていたアンドレイ=ラプソティもまた、彼女の寝顔に誘われて、深い眠りへと誘われるのであった……。その深い眠りが段々と浅い段階へと入って行く時、アンドレイ=ラプソティはとある日のことを夢で思い返すことになる。
自分は今、裸体であった。そして、その自分の隣には安堵の表情を浮かべながら寝ている若い頃のレオン=アレクサンダーが居た。アンドレイ=ラプソティは今、女性の身体であった。胸のサイズはほどほどGカップ。そうでありながら、腰はくびれており、どこに出しても恥ずかしくない年頃の娘であった。アンドレイ=ラプソティは男体にでも女体にでも変身することが出来るほどの高位な天使であった。
地上界には数多くの天使の伝説が残されている。しかしながら、その伝説が伝説だと言われる由縁となっているのが、その天使の性別が所によっては違う点であった。特に天界の四大天使は多くの地域で目撃されたという情報が残されている。そして、四大天使ほど、性別がどちらなのか? と議論される対象となっている。
それもそうだろう。地上界のニンゲンたちが天使を欲する時、そのニンゲンが欲する『性』がそのまま天使の性別に反映されるからだ。男はやはり女性の姿を欲するのは仕方が無いと言えよう。そして、女性の場合は男性、女性のちょうど半々となるところが面白いところである。
家族を護ってほしいと女性が望めば、男の姿をした天使が。恋の悩み事を聞いてほしいと願えば、女の姿をした天使が現れる。おちんこさんと脳みそが直接的にリンクしている存在とは違うのである、女性は。そして、この時のレオン=アレクサンダーは女性相手にフル勃起出来ない障害持ちの身体だと思い込んでいた。そうではないと、レオン=アレクサンダーに教えるためにも、アンドレイ=ラプソティは女性の姿となって、レオン=アレクサンダーを抱いたのである。
「シエル……。どこに行くんだ? 俺はまだお前を抱き足りてない……ぞ」
シエル=ラプソティ。それはアンドレイ=ラプソティが女性の姿をしている時に名乗っている名前である。しかしながら、アンドレイ=ラプソティはシエル=ラプソティは自分の妹であるとレオン=アレクサンダーに説明している。シエル=ラプソティは困り顔になりながら、レオン=アレクサンダーの黄金色に実る頭を優しく撫でる。そして、レオン=アレクサンダーの前髪を右手で押しのけることで垣間見えるおでこに軽く接吻する。
レオン=アレクサンダーはまるで駄々っ子のように唇を突き出してくる。シエル=ラプソティはまったく……と嘆息しつつも、自分の唇をレオン=アレクサンダーの唇に重ねる。その行為に満足したのか、レオン=アレクサンダーは深い眠りへと堕ちていく。
「良い夢を。でも、シエル=ラプソティは二度とレオンの前には現れないでしょう」
シエル=ラプソティは悲しげな表情となっていた。レオン=アレクサンダーのおちんこさんを膣道へと導いたは良いが、彼のおちんこさんから噴き出したスペル魔の量は、純血の天使と言えども、孕まれそうであったからだ。レオンの子なら産んでも良いと思ってしまうが、それでも自分はレオンを守護する立場の天使である。愛は愛。守護は守護なのだ。この辺りを明確に区分していなければ、守護天使として失格だと、自分を厳しく律するシエル=ラプソティであった……。