第1話:救世主の守護天使
アリス=アンジェラが酒場に隣接している宿屋の一室に運ばれてから、数時間後のことである。宿屋の娘であるソフィー=サウサンはクークーと可愛らしい寝息を立てているアリス=アンジェラのほっぺたにおやすみなさいの軽い接吻をした後、その一室から外に出ていく。そして、ジンジンと痛むお尻の穴をスカート越しにさすりながら、その部屋の前から退散していくのであった。
そこからさらに1時間後、救世主討伐を終えて、酒盛りを楽しんでいたアンドレイ=ラプソティたちもまた、この宿屋にやってくる。そして、救世主討伐の一番の功労者であるアリス=アンジェラを褒めようとベリアルが言い出し、珍しくワインで酔っていたアンドレイ=ラプソティも是非そうしましょうと酒飲みのノリでアリス=アンジェラが泊まっている一室のドアの前までやってくる。
「申し訳ございませんわ。アリス様はとてもお疲れです。ワタシが介抱しておきますので、どうぞ、今夜はご遠慮を……」
「あ、ああ……。済まない。それもそうですね。ベリアル……。ここは退散しましょう」
「むむむ。そこそこFカップの癖に何やらとんでもない威圧感を感じるな。よっし、アンドレイの意見を飲もうっ!」
アンドレイ=ラプソティたちは宿屋の娘が醸し出す雰囲気に飲まれて、そそくさとアリス=アンジェラが泊まる一室の前から早足で逃げ出すのであった。良い大人が酔っぱらった勢いでアリス=アンジェラの睡眠を邪魔する気満々だったのは、誰の目から見ても明らかであった。
しかしながら、そんな蛮行を止めに入ったのは、肝が据わった宿屋の娘であった。酒場に隣接しているということは、性質の悪い客も相手にしなければならないことである。それに慣れ切っているソフィー=サウサンは、赤子の手をひねるかの如くに、アンドレイ=ラプソティたちを扱うのであった。ソフィー=サウサンはやれやれ……と嘆息し終わった後、左手に持っているスープ入りの木製の器をアリス=アンジェラの部屋の中へと運び入れるのであった。
「いやあ……。ベリアルにそそのかされた自分も悪いんですけど、あやうく、女性陣の怒りを買うところでしたね」
「チュッチュッチュ。悪魔を敵に回すよりも、女性陣を敵に回す方がよっぽど怖いのでッチュウ」
「しょうがねえ。アリス嬢ちゃんとは遊べないから、我輩はそこらで遊女でも買ってくるわ」
遊ぶは遊ぶにしても、遊び違いじゃないのか? という視線をアンドレイ=ラプソティたちから喰らうベリアルであったが、彼は気にした風も無く、右手をひらひらと振りながら、アンドレイ=ラプソティたちと別行動をすると宣言したのであった。しかしながら、いくらワインとパンで身体を癒したとしても、救世主との戦いによる疲労は抜けきっていないはずである。そんな状態のベリアルが遊女を買うと言っても、ハッスルハッスルずっ魂ばっ魂できるモノなのだろうか? と訝しむアンドレイ=ラプソティたちであった。
「まあ、考えても仕方ありませんね。ベリアルはベリアルで何か考えがあってのことでしょう」
「アリスちゃんに手を出さないのであれば、勝手にしてくれって感じでッチュウ。ふわあああ……。我輩たちも寝るでッチュウよ」
アンドレイ=ラプソティと省エネ状態へと移行しているコッシロー=ネヅは固いベッドの上で身体を横にする。それから5分も経たない内にアンドレイ=ラプソティたちは深い眠りへと堕ちていく。それを悪魔的な感覚で感じ取ったベリアルは、宿屋の出入り口から外へ出て、聖地ではご法度であるはずの娼婦館区画へと足を運ぶのであった。
「おう。久しぶり?」
「ふむ。貴様の方から接触してくるとは思わなかったわ」
「救世主には守護天使が付くのは、言わば定理だろうよ。何で、我輩たちの邪魔をしなかった?」
宿屋からこっそりと抜け出したベリアルはとある人物と接触していた。その者は救世主の守護天使となるべき存在であった。しかしながら、昼間の救世主との戦闘において、この天使は一切、ベリアルたちの前には現れなかった。その理由を尋ねに、ベリアルは遊女を買うわけでもないのに、娼婦館区画へとわざわざ足を運んだのである。
「答えは簡単です。いくら創造主:Y.O.N.N様の頼みとは言え、あいつの守護天使をする気にはなれなかった。ただそれだけよ」
「ふ~~~ん。なるほどねえ。しかしだ! 我輩が思うところは別だがなっ!」
ベリアルの言いに眉をぴくりと動かす天使であった。その動きを見られたのか、ベリアルはにんまりとした笑顔を顔に浮かべる。そして、自分の思うところをその天使に問いかけてみる。
「怠惰の権現様にしては、聡い男だ。私が言えることは、レオン=アレクサンダーの天命回収と、救世主抹殺はアリス=アンジェラにとって、まったくもって無関係ではない」
「ほうほう。そりゃ面白い。やっぱり創造主:Y.O.N.Nが悪だくみしていることと関係してるってか?」
「悪だくみとは失敬な。あくまでも崇高な計画のためらしい。まあ、私が救世主を助けなかったのも、創造主:Y.O.N.N様の手のひらの上だったに過ぎないのだろう」
天使はそう言った後、目深くフードを被り直し、その場から立ち去ろうとする。ベリアルは冗談交じりに、一晩いくらなのか? とその天使に尋ねてみせるが、その天使はベリアルの左頬に鉄拳をぶち込む。そして、右手首を左手で幾度かさすった後、今度こそ、その場から消えてしまうのであった。
「ったく……。百年振りくらいだってのに、いつもながら愛想が足りないミカエルだぜ。しっかし、あのIカップを見せつけられた後だと、他の遊女を選ぶ気にもさせてくれねえ……」
ベリアルはそう独白した後、右手で頭をボリボリと掻く。11月だというのに、薄手の布で身体を隠す遊女たちがそこら中で立ちんぼをしているというのに、自分のおちんこさんはまったくもって、ぴくりとも反応しない。まさに神気をその身からはみ出るほどに宿しているミカエルなだけはある。スイカも驚くIカップもあるおっぱいが身体からはみ出しているだけならば、ベリアルもまだ、他の女を選びようがあっただろう。
しかしながら、良い女と会話を楽しんだ後に、他の女とネンゴロな関係を築く気も無くなってしまったベリアルは、宿屋へとすんなり帰っていくのであった。ベリアルにとって、収穫は十分にあった。いつもアリス=アンジェラという断崖絶壁かつ洗濯板の胸の女の子と一緒にいるだけで、ヤル気が削がれまくっていたところに、拝み倒して、もみくちゃにしたいと思ってしまうおっぱいの持ち主と会話が出来た。
そして、その破壊的なおっぱいを持つ女性から、貴重な情報を断片ながらも入手できた。これ以上の収穫を望めば、七大悪魔でも罰が当たるだろうということで、ベリアルは大人しく宿屋の固いベッドで眠ることにする。
「むむっ! 何か失礼な雰囲気を感じ取ったのデス! 眼から光線で不浄を焼き払ってやるのデス!」
「おい、待てっ! アリス嬢ちゃん!? 目覚めの挨拶代わりみたいな感じでやることじゃねえだろっ!」