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第3話:お尻愛

 アンドレイ=ラプソティは紋切り型のように、アリス=アンジェラは女性ゆえにそこそこ料理が出来るとばかり思っていた。しかし、アリス=アンジェラは実際のところ、食材を切ることは出来ても、味付けについては不得手であるとアンドレイ=ラプソティに告白するのであった。


「コッシローさんが口酸っぱく、調味料の量をこと細かく指示してくるのですが、ボクは到底、受け入れられないのデス」


「それは何故なのです? 何か理由があってのことです?」


「いえ。ただ単にボクが反抗期に入っているせいなのでショウ。創造主:Y.O.N.N様のおっしゃることなら、素直に聞き入れますけど、ママのように口うるさいコッシローさんの忠言は蹴り飛ばしたくなるのデス」


 このアリス=アンジェラの返答に苦笑せざるをえないアンドレイ=ラプソティであった。アリス=アンジェラは生来からの『ずぼら』では無さそうだ。しかし思春期がゆえに、彼女の保護者的立場にあるコッシロー=ネヅの言葉に対して、耳を塞いでしまいたくなってしまうのであろう。


 そして、ふと、アンドレイ=ラプソティは愛しのレオン=アレクサンダーのことを思い出す。レオン=アレクサンダーもアリス=アンジェラと同じく16~18歳の頃に、守護天使であるアンドレイ=ラプソティを煙たく感じていたのか、それを態度としてよく示したモノであった。


 レオン=アレクサンダーの家庭の事情は複雑怪奇極まっていた。レオン=アレクサンダー自身はマケドナルド王国の国主の第1王子として生を受けたが、国主の(めかけ)が第2王子を次の国主として推していたという事情があった。しかし、レオン=アレクサンダーの先王であり、父君はその第1王子、第2王子のどちらも選ぶことなく、さらにはどこの出ともわからぬ女性に産ませた第3王子を自分の後継ぎとして指名しようとした。


 そして、この思春期の盛りに足を踏み入れていたレオン=アレクサンダーは父君からの厭う視線と態度に耐えきれなかった。王城に留まるよりも、馬に跨り、野を駆け回る時間の方がよっぽど多くなる。彼の守護天使であるアンドレイ=ラプソティは口酸っぱくレオン=アレクサンダーに王城に踏みとどまり、貴族連中を説き伏せろと説く。


 しかし、レオン=アレクサンダーはアンドレイ=ラプソティの忠言を受け入れず、野を駆け回り、市井(しせい)で好き放題に第1王子としての不遜な態度を突き通したのであった。そんなレオン=アレクサンダーの周りは悪友で塗り固められるのは当然と言えば当然であった。


 この時期のレオン=アレクサンダーは悪名のほうが勝っていたと言っても過言ではなかった。酒場に悪友と共に乗り込み、一晩中、飲み明かす。さらには国王から酒代をもらえと店長を脅し、数々の無銭飲食を繰り返したのだ。その尻ぬぐいをしたのは彼の守護天使であるアンドレイ=ラプソティである。


 そんなレオン=アレクサンダーが改心する出来事が起きる。レオン=アレクサンダーの周りを固めていたのは悪友たちばかりであった。しかしながら、幸運なことにその悪友たちはレオン=アレクサンダーと共にいることで利益を享受しようとしていた者ばかりではなかった。レオン=アレクサンダーは年頃ということもあり、風が股間に当たるだけで、おちんこさんがびっきびきに勃起してしまう。そして、その性欲の向かう先はその悪友たちである。


 レオン=アレクサンダーは悪友たちと『お尻愛』の仲になっていたのである。『血は水よりも濃い』というコトワザがあるが、実際のところ、くんずほぐれず肉体の関係を築いた者たちのほうが絆の力は強いのだ。肉親や血縁者との関係はあくまでも『腐れ縁』であり、切りずらい関係性である。しかし、それを超えるのが『お尻愛』なのだ。


 男女関係、男男関係、女女関係、どれでもそうなのだが、結局のところ、同じベッドの上で穴をほじくり合った『絆の力』は『血の鎖』を粉砕するのだ。策士であるアンドレイ=ラプソティがこれを利用しないはずがなかった。


 レオン=アレクサンダーが悪友たちのみならず、竹馬の友であるアドラー=ポイゾン、アルバトロス=ダイラーのお尻を掘った。しかし、レオン=アレクサンダーはどうしても女性相手におちんこさんの硬度を維持することが出来ないでいた。その事実に思い悩んだレオン=アレクサンダーはついにその事実をアンドレイ=ラプソティに相談することになる……。


「なるほどなのデス。アンドレイ様が堕天しかけたのは、処女を捧げた相手がレオンだったからデスネ?」


「い、いや!? 確かに女性の身体となって、初めて肌と肌を触れ合わせたのはレオンだったが、私はレオンに女として抱かれた故に狂ったわけではないぞ!?」


 アリス=アンジェラの質問にアンドレイ=ラプソティは改めて、レオンと自分の関係性について、考えさせられることになる。肉体関係を結んだことは事実であるが、それだけで、自分はレオンというニンゲンに惹かれたのではないと思う。それこそ、母のように、同時に恋人のように、そして師として接してきた。それらが複雑に絡み合い、あの時、レオンへ対する想いが最高潮に達していたのだと考えるアンドレイ=ラプソティであった。しかし、アンドレイ=ラプソティは想いが最高潮に達していたと言っても、そこが最頂点であったとは思えない。あくまでもその時点での最高潮なのである。


 創造主:Y.O.N.N様がレオン=アレクサンダーから天命を回収することを決めなければ、まだまだレオン=アレクサンダーとアンドレイ=ラプソティが共に生きる時間は長く続いてくはずであった。そして、その時間は突如、アリス=アンジェラの登場により奪われただけなのである。


 これから先、起こりうること全てをアリス=アンジェラの手で奪われたが故の『絶望』がアンドレイ=ラプソティに襲い掛かったのだ。しかし、今、それをアリス=アンジェラにどう言うべきなのかがわからないアンドレイ=ラプソティである。レオン=アレクサンダーの天命を回収すると決めたのは、創造主:Y.O.N.N様なのであり、アリス=アンジェラはその創造主:Y.O.N.N様の命令を受け入れて、実行しただけにすぎないのである。


 レオン=アレクサンダーの件に関して、責任を負うべきなのは創造主:Y.O.N.N様であり、アリス=アンジェラにつらく当たるのは間違っているとわかっているアンドレイ=ラプソティであった。


「私は天界の十三司徒です。そして、私の主が創造主:Y.O.N.N様であるように、アリス=アンジェラ、貴女の主も創造主:Y.O.N.N様なのです」


「その通りデス。しかし、創造主:Y.O.N.N様はおっしゃっていまシタ。もし、アンドレイ=ラプソティが恨みつらみをアリス=アンジェラにぶつけたくなったのなら、それに対して、アリス=アンジェラはアンドレイ=ラプソティを恨まないようにト」


「創造主:Y.O.N.N様……。貴方はいったい、どれほどに私に試練をお与えになるのですか……?」

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