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第9話:虜囚

「アンドレイ様、どうするでッチュウ? 一刻も早く、この村から出ないと非常に厄介なことになりそうでッチュウ」


「ええ。この結界を生み出している大元を破壊すれば良いだけのはずです。ですが、一点、気になります。先にこの結界に閉じ込められたベリアルがそれをしていないことです」


 コッシロー=ネヅとアンドレイはベリアルに聞こえぬようにひそひそとと小声で相談し合う。だが、さすがは悪魔だ。地獄耳を発動させて、アンドレイ=ラプソティたちのひそひそ話を耳に入れて、クスクスと可笑しそうに笑いだす。それにカチンと来たコッシロー=ネヅがベリアルに物申す形となる。


「いやあ、すまんすまん。七大悪魔ともあろうものがこんな単純な罠にいつまで嵌っていると言いたいんだろ? それなら、そうしなかった、いや、出来なかった理由を今からお前らに教えてやるぜ」


 ベリアルはそう言うと、右腕を家屋に向かって突き出し、その先にある大きく開いた右手で黒い球体を創り出す。その黒い球体は直径Ⅰミャートルほどあり、コッシロー=ネヅを心胆寒くさせるには十分な『怖気』を発していた。ゾゾゾ……と身震いしているコッシロー=ネヅに軽くウインクしたベリアルはまあ結果を見ておけとばかりに、その黒い球体を家屋に向かって放つ。


 黒い球体を真正面から喰らった石と木材で構成された家屋はガラガラドシャーーーンと盛大な音を鳴らしながら崩壊してしまう。しかしながら、この時点ではアンドレイ=ラプソティたちは、何故にベリアルがそうしたのかが理解不能であった。ただ単にこれくらいの破壊など朝飯前で、ベリアルが呪力(ちから)を誇示したかのようにも思えた。


「なん……ですと? 破壊された家屋が再生していく!?」


「チュチューーー!? これはいったいぜんたい、どういうことでッチュウ?」


「どういうからくりかはこちらが知りたいくらいだけどな。さあ、家屋の中も見てくるが良い。外だけでなく、中も復元されているぞ」


 ベリアルに促されるまま、アンドレイ=ラプソティたちは破壊され、さらには再生された家屋の中に足を踏み入れる。そこには他の家屋と同様に、まるで先ほどまで住人が生活をしていたかのような空気が流れていた。アンドレイ=ラプソティはそれを見て、ますます眉間のシワが深くなっていく。


「ベリアルが無様にこの結界に捕らわれている理由がわかりました。あなたほどの呪力(ちから)をもってしても、結界の内側を破壊しつくせなかったのですね?」


「その通りと言いたいところだが、少し違うな。ご丁寧なことに外界と結界内での呪力(ちから)の行き交いが完全に遮断されているために、我輩は真の実力を発揮できなくされている状態だ」


 ベリアルの言いたいことはこうだ。天使同様、悪魔もまた、自分の肉の身に蓄えられている神力(ちから)呪力(ちから)の量は限られており、真の呪力(ちから)を発揮したいのならば、外からもエネルギーを吸収しなければならない。彼らにとって、肉の身とは、外から吸収するエネルギーを効率よく神力(ちから)呪力(ちから)に変換するための装置に過ぎないのだ。


 ベリアルはこの村の異常性にいち早く気づき、肉の身に蓄えられている呪力(ちから)を無駄に消耗しないように努めたのである。自分が消息を絶ったことを他の七大悪魔たちが気づけば、外から何かしら対策をしてくれるだろうと。しかしながら、ベリアル本人の時間間隔で言わせてもらえば、2~3カ月経った今でも、他の七大悪魔がこの村にやってくる様子はまったくもってなかった。


 やってきたのは自分が用意した罠で嵌めてやろうと思っていたアンドレイ=ラプソティたちであった。ベリアルは嬉しいような困ったような感情を抱く他、仕方がなかった。そして、囚われの身としているこの結界を破壊するために、アンドレイ=ラプソティたちに接近したのだと告げるのであった。


「なるほど……。ベリアルの言い分は理解しました。神力(ちから)が回復しきっていない自分で良ければ神力(ちから)を貸しましょう。ここで足踏みしている時間が惜しいですから」


「そりゃ天界にいち早く戻らなきゃならない身だもんな」


「いえ、この結界を創り出した張本人を追わなければならない事情がありまして」


 アンドレイ=ラプソティは、ここまでしゃべって、自分がうっかり口を滑らせてしまったことに気づくことになる。ベリアルが相槌を打つように自分と受け答えしていたのは、実のところ、こちらの内情を探るためであったことを今更ながらに思い知ることになる。ベリアルは悪魔らしい笑みを浮かべている。してやられたと思う気持ちが半分、どうせ、どこかで自分の目的に感づいていただろうという気持ちが半分あるアンドレイ=ラプソティたちであった。


 そもそも、天界にすぐ帰るのであれば、あの不安定な力場を越えた時点で天界の騎乗獣であるコッシロー=ネヅの背に乗って、そのまま天界に昇れば良いのである。アンドレイ=ラプソティたちは悪魔たちにどこからか監視されていたのだ。そして、アンドレイ=ラプソティが西へと進み続けていることに不可解さを覚えた悪魔たちが、先んじてこの村にベリアルを派遣したに違いないと思うアンドレイ=ラプソティであった。


 それゆえに悪魔たちの企みの先へ行くためにも、アンドレイ=ラプソティは自分の目的が何であるかを告げる。アンドレイ=ラプソティがそうしたのは、第3勢力に対する牽制を含めてのことである。悪魔たちは悪魔たちで目的があり、それがうっすらとではあるが何かは想像がついているアンドレイ=ラプソティである。そして、その悪魔たちの計画を結果的に邪魔をしてしまっている存在が確かにあることを匂わせておこうとしたのだ。


「ふ~~~ん。ダークエルフの男ねえ? にわかには信じられないが、『天界の十三司徒』と『七大悪魔』の両方を閉じ込めてしまうほどの結界をその人物が創り出した? そして、これをした理由はお前たちを足止めするため?」


「信じられないかもしれませんが、実際に私たちはここに閉じ込められているのです。一考しても良いことだと思いますが?」


「そう……とも言えない気がするな。その謎のダークエルフが介入していることが本当だとしても、もっと別の存在がお前を邪魔をしていると思うけどな。そう、それこそお前のの上司かもしれんぞ?」


「まさか……。創造主:Y.O.N.N様がこの件に関わっていると? 創造主:Y.O.N.N様が地上界のニンゲンたちを犠牲にするような結界を張るように命じたと!?」


 アンドレイ=ラプソティの語気は段々と強く鋭いモノに変わっていく。ベリアルは軽口を叩いたつもりであったが、天使にとって触れられたくないデリケートな領域(テリトリー)に手を突っ込んでしまったと思ってしまうベリアルであった。しかしながら、困った事態になってしまったにも関わらず、それはそれで面白い状況になったと考えてしまうのが七大悪魔である。困り顔というよりかは、アンドレイ=ラプソティを挑発するための悪魔の笑みを零してしまうベリアルであった……。

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