誕生
少年が生きてきた中で最高の1日が始まろうとしていた。朝、陽の光が部屋に入ったと同時に目が覚めた。体を起こした瞬間に、今日これから始まろうとしていることに申し分のない体調だとわかった。自分の部屋を出て下の階に行き、キッチンで数杯分のコーヒーだけ淹れておく。自分はコップ1杯の水を飲み、裏口を通って納屋に向かった。
木造の納屋の屋根の隙間から陽の光が入る。その陽は夜のうちに冷え切った地面の土を照らし、水蒸気を昇らせ、納屋全体は白く霞みがかっていた。その白んだ朝の空気の奥に、液晶モニターから発する非人工的な光が見えた。一晩中、誰へともなく発せられ続けた光は朝を迎えて力なく見える。少年はモニターの前に立った。モニターの下からは、周りの羽虫の羽音を打ち消すようにファンが唸っている。少年はひとつふたつ操作した後に叫んだ。
「やった。できているぞ」
画面には「アップロード完了」の文字が浮かんでいる。モニターが接続されたコンピューターからは、大蛇の何倍も太いケーブルが数本出ており、それらは地面にだらしなく垂れ、さらに納屋の奥に続いていた。少年はその先に移動し、スイッチを入れた。
小刻みなモーター音が聞こえ、アンドロイドは目を開けた。正確には、アンドロイドにまぶたはなく、視覚センサーの起動を意味する。明け方の少年がしたように、アンドロイドの起動時には各パーツの機能チェックが行われる。そして、問題がないとわかると上半身を起こした。背中や頭にはまだケーブルが刺さったままだ。少年は固唾をのみ、言ってみた。
「おはよう」
アンドロイドの発声機が光り、
「おはよう!」
と返ってきた。そして、アンドロイドは笑顔と設定された表情を表現した。
少年は有頂天になった。心臓は早鐘のように打っているが、それに気づかずずっと叫んでいる。
「やった!ついにできた!ついにできたんだ。ぼくだけのアンドロイドが。やったぞ!」
手を叩き、拳を上げ、足を踏み鳴らし、目に涙を浮かべて飛び回る少年をアンドロイドは目で追っている。
「よし。よし。アンドロイド、きみは立てるかい?」
少年は問いかけた。
「ああ、もちろんさ、相棒」
アンドロイドは肩から立ち上がった。少年と同じくらいの背をしており、立ち上がると少年と目線が一致した。アンドロイドの顔面には薄いピンク色の人工皮膚が貼り付けられている。全身の様々な色の配線コードやパーツは露呈している。胴体部分の鉄板はサビで滲んでおり、両足はこすり傷だらけだった。右腕と左腕は異なった長さをしており、指も片方は5本、片方は2本だった。総じてアンドロイドはつぎはぎだらけの不格好だったが、少年は何も気にしていない。
彼は後ろに回り、すべてのケーブルを引き抜き、また尋ねた。
「よし、いいぞ。次は歩いてみようか」
「朝飯前さ」
アンドロイドは初めての一歩とは思えないほど日常的に歩いてみせた。納屋をひとりで一周し、次に少年と一周し、そして一緒に小走りして、スキップした。再び気持ちが抑えきれずに、少年は叫んでいる。
「きみはぼくの唯一の友達だ!」