最終話 祭のあと
賑やかな太鼓と鼓の音が響き渡る。
町内を賑やかす祭はまだまだ続きそうだった。
「さあ、もうそろそろ寝る時間だ。帰るべ」
「ええ~っ!やだよ、もう少し見る~!」
孫の巡にそうせっつかれた祖父は、苦笑した。
「だんども、もう花火も終わったし、皆もだんだんと帰って行くべ?それにあんまり遅くなると、母ちゃんやばあちゃんも心配するぞ?」
「でも…」
「ほれ、取れた金魚や買った面コを母ちゃん達に見せてやるんだべ?」
「うん!」
一転、祖父の手を引っ張って行こうとする四歳の孫に、祖父がニッコリと笑みを浮かべる。
十乃家の長男であるこの孫を、祖父は目に入れても痛くないほどに可愛がっていた。
よちよち歩きの頃から、ずっと見守ってきたが、性根がまっすぐで、何よりも優しい子だった。
そんな孫の成長は、祖父にとっては何よりの楽しみでもあった。
「ねぇ、おじいちゃん。今日のおまつりでお面を被っていた人たちはなあに?」
孫の問いかけに、祖父は答えた。
「ああ、あれか。あれは『神楽』っちゅうてな。神様に捧げる舞じゃ。面コを被っていたのは“天狗”や“鬼”じゃあ」
「てんぐ…おに…?」
「まあ、妖怪ちゅうやつじゃな」
巡が祖父の顔を見上げる。
「ようかいって、おじいちゃんやおばあちゃんが話してくれるお話にでてくるやつ?」
「おお、よう覚えていたな。ほうじゃほうじゃ」
すると、巡はつないでいた祖父の手をぎゅっと握りしめた。
それに気付いた祖父が、柔らかく微笑んだ。
「…巡は妖怪が嫌いか?」
「うん…だってこわいもん」
「ほうじゃなあ…妖怪は大体が怖いなぁ」
「…」
一層身を竦ませる孫に、祖父は続けた。
「でもなぁ、妖怪は怖いだけじゃないんじゃ」
「えっ?」
「妖怪の中には、人間を助けてくれたり、助けを求めてくるものもおるんじゃよ」
「そうなの…?」
祖父は頷いた。
「儂が巡くらいの時にゃあ、何度か一緒に遊んだこともある。奴らぁ、みんな気のいい連中だった」
「…妖怪って、一緒に遊んでくれるの?ゆうちゃんみたいに?」
「ゆうちゃん?ああ、拳山先生のとこのお孫さんか。確か、巡の一番の友達じゃったなぁ」
「うん!」
頷く孫に、祖父はしばし考えてから言った。
「ほうじゃなぁ。たぶん…いや、絶対に巡と遊んでくれると思うぞ。巡が妖怪を好きになってくれたら、な」
「そっか…あいてをすきになって、ともだちになればこわくないかも…」
自分に言い聞かせるように、何度も頷く巡。
その横顔に、祖父はクスリと笑った。
「ねぇ、おじいちゃん」
「何じゃ?」
「ぼくがようかいとともだちになったら、おじいちゃんにもあわせてあげるね!」
一瞬キョトンとなった後、祖父は満面の笑みで孫の頭を撫でた。
「ほうかほうか。なら、山におるかも知れんご先祖様にも、巡が妖怪に会えるようお祈りしとこうな」
「うん!」
この一週間後。
巡は不意に失踪した。
無事に発見されるまで、一週間かかった。
しかし、一切の外傷もなく、元気そのものだった。
捜索に当たった関係者たちは、みな一様に首を捻ることになった。




