第二話 一反木綿
昔々。
鹿児島県肝属郡高山町(現・肝付町)に、夕方になると現れる謎の妖怪がいた。
その妖怪は、ひらひらと宙を舞い、子どもを空へと連れ去ると言われており、地元の人々は恐れていた。
ある時、一人の勇気ある若者…巡が皆を困らせるその妖怪を何とかしようとやって来た。
「何とかすると言ってもなぁ…」
ストーリーの都合上、やむを得ずやって来た巡は、弱気にそう呟いた。
何せ、喧嘩もしたことが無い平和主義者である。
妖怪退治などもってのほかだ。
まさに鬼のような作者の所業だった。
そうこうしていると、日も暮れかけ、辺りは物寂しい雰囲気になる。
すると、一人ポツンと立ち尽くしていた巡へ、頭上から声が掛けられた。
「よお、何やってんだ?お前」
見ると。
横に寝そべったまま空に浮かぶ一人の若者がいるではないか。
顔はイケメンだが、立ち上る雰囲気はただ者ではない。
その様子から、明らかに人ではなかった。
巡は驚きつつ、若者に尋ねた。
「あ、あなたは?」
「俺か?俺は"一反木綿"ってんだ」
そういうと、一反木綿は宙を漂いつつ、巡の目の前に降り立った。
「す、すると、貴方が子ども達を連れ去るという妖怪ですね!?」
身構えながらそう言うと、一反木綿は怪訝な顔つきになった。
「あん?俺がガキを連れ去るだぁ?そんな訳あるか…って、まさか」
そこまで言うと、一反木綿は盛大にため息を吐いた。
「…そうか、アレか」
「アレ?」
「理由は知らねぇんだが、俺ァ昔から人間のガキに懐かれやすくてよ。おまけに、空も飛べるから…」
「いたー!」
「木綿の兄ちゃ!」
「また、アレやってー!」
突然現れたのは、地元の子ども達だ。
子ども達は巡には目もくれず、せがむように一反木綿を囲む。
一反木綿は、さらに深ーくため息を吐いた。
「お前ら…もう日も暮れるじゃねぇか。早く家に帰りやがれ!」
「えー、やだー!」
「兄ちゃ、お願いー!」
「やってくれるまで帰らないー!」
一反木綿はウンザリしつつ、言った。
「あーもー!分かった!分かったよ!ただし、一人一回だぞ!?」
「「「わーい!!」」」
一斉に喝采をあげる子ども達。
そして、一反木綿の前に一列に並ぶ。
一反木綿は先頭の子どもをおんぶした。
そのまま宙に浮かぶと、一反木綿は夕暮れの空を円を描いて飛び始めた。
「ひゃー!高ーい!気持ちいいー!」
大喜びする子どもに、一反木綿が怒鳴る。
「うるせー!あと、暴れんな!落ちるぞ!」
一連の光景を見ていた巡は、しばし唖然となった。
「夕方になると現れ、子どもを空に連れ去る妖怪は本当にいたんだな」
そして、ゆっくり微笑んだ。
「ただし、ちっとも怖くなかったけど」
いい話過ぎて、いとおかしきことなり。




