第三話
「あ、あれよ、カナタ君。町を守ってくれたあの子」
一日で僕はこの町の英雄になった。
この町の人間が全員僕に感謝している。さすがは神から貰った力だ。首都に来て数日、こんな体験ができるなんて思いもよらなかった。
町を歩けば歓声が上がる。当たり前だ。僕はこの町の英雄なんだから。
女の子もいっぱい寄ってきた。いつの間にか童貞は捨てたし、ほぼ毎晩、いい思いをしている。
いやー、困っちゃうなぁ。町の英雄になるのも。
結界さえ無事に保っていられれば何をしても許されるし、ほとんど何もしなくても毎日飯は食える。最高の生活だ。衣食住に女、ああ、なんて最高なんだろうか。
数ヶ月後、近郊守衛団が縮小した。当たり前だ。僕が居れば首都の安全は守られるわけだし。ただ、以前と比べて違うのはもう、町に出ても歓声は上がらなくなった。まあ、いい加減、歓声にも飽きてきた頃だしな。
「……あの」
ん? 誰だ?
「か、カナタさん。ずっと尊敬してます! あの、強さの秘訣とかをよろしければ教えてください! 僕もあなたのような勇者になりたいんです!」
見知らぬ少年だ。なんだよ、男かよ。
「はいはい、ありがとうね。それで?」
少年は戸惑う。
「え、えと、強さの秘訣を教えてください……」
強さの秘訣! 爆笑は心の中に留めておいた。危ない、うっかり笑うところだった。
「君は、勇者になるために普段は何をしてるのかな?」
少年は元気よく答えた。
「ま、毎日、木の剣を100回素振りしてます!」
「ふーん」
「か、カナタさんはどんな修行をしたんですか?」
「修行? そんなことは一切してないよ」
「え、それはどういう?」
「そのまんまだよ、僕と君じゃ、全然違うから。じゃーねー」
ポカンとした少年を置いて僕は去った。
……くぅー。決まったかな? 修行なんかしなくてもこれほどの力を持った青年。かっこよすぎるでしょ。
それから数週間。
僕の元にやってくる女が減った。前は毎晩のように来ていたのに。変だな。僕はこの町の英雄だぞ?
町に出ても僕の話題はあまり聞かなくなった。聞くのは先日の剣技大会の覇者の話で持ち切りだ。そんなことより、僕の方が凄いだろ。なんせ、町の英雄だぞ?
それから、日を追うごとに僕の周りから人は減った。夜はメイドと過ごすが、毎晩、毎晩同じ相手では飽きる。王城のメイドもこっちにこさせよう。