第二話
首都近郊守衛団。
最近、この隊の存在が危ぶまれている。理由はひとつ。数ヶ月前に現れた謎の青年カナタである。彼のお陰で首都の安全は守られたが別の問題も現れた。
「か、除隊って、どういうことですか! 私たちには家族がいるんですよ!」
上官からの通告。それは首都近郊守衛団の縮小である。
カナタの登場により首都近郊守衛団はその役目をほぼ失った。仕事の無いものに給料を与えることはできない。団員の一斉除隊が決定した。職を失うというわけである。
「俺に言われても困る。俺だって除隊命令が下ったんだ。国の決定だ。どうしようもない」
前から言われていた最悪の事態である。
「ほ、他の隊に編入とかはできないんですか!」誰かが言った。
「駄目だそうだ。現状で足りているものを増やす必要はない。国境警備兵なんかは尚更だな」
国境警備兵の増員は近隣諸国への圧力となる。首都警邏団の人員も足りている。近郊守衛団の人間は魔法が使えない者の集まりであるから魔法軍にも当然入れない。
「俺も悔しいさ。首都の人間を魔物から守っていたという誇りを失わされたわけだからな。1週間後に一斉除隊だ。今のうちに次の職を探すんだぞ」
そう言って上官は去った。
次の職と言われても1週間やそこらでできることだろうか。帰ってから家族になんて話せばいいんだ。
隊舎にいる全員が同じ不安を抱えていた。
議会では首都近郊守衛団の縮小に反対したのは軍の一部の人間だけだったそうだ。そもそも、首都近郊守衛団の存在自体が税金のウェイトのうちある程度を占めていたので縮小は喜ばれたというのだそう。しかし、俺たちは当然喜べるはずがない。近郊守衛団の給料を払うよりもカナタに謝礼を払う方が安いんだとか。
とは言っても、近郊守衛団だけでは魔物の侵入を防ぐことは出来なかったわけだし、実用性という面で見れば、国がカナタを採るのは道理である。人民を守れれば人民が貧しくなってもいいのかよ。
どれだけ毒づいても事態は変わらないが、悔しいし、情けない。雇われる場所がなく、妻に働かせに行かせている自分が情けない。
恐らく、カナタは首都にずっといるはずだ。それでは仕事がない。いっそ、別の町に引っ越してそこの護衛団にでも入ろうか。一応、別の町の護衛団は人員を募集しているから働くことはできるが……。首都を離れるのはリスクも大きい。
まずは慣れない家事を覚えることが先なんだろう。
カナタを魔物退治から除名するようにという署名があったらしい。当然、俺は署名をしたが、それほど集まらなかったそうだ。理由は簡単。近郊守衛団では心細いとわかったからだ。署名したのも元守衛団とその家族ぐらいで、それだけでは署名は受け付けられなかった。ただ、署名活動のお陰か、元守衛団には僅かばかりの仕事が与えられた。臨時で他の町の危険があったときには出動命令が来るのだそう。ただ、それだけでは暮らせないので、結局、妻に働いて貰うしかないのは変わらない。