第一話
「首都の魔物の襲撃を抑えるのは急務。しかし、ここ近年で魔物の魔力が大幅に上がってきている……どうしたものか」
国王は眉間に皺をよせ、呟く。
カリア王国の首都、ミリトリア。国内最大の都市であるのは言わずもがな、世界的に見ても発展が目覚しい都市の一つである。
そんな首都の大きな問題点は魔物。首都から北に進むと大きな森があり「魔物の森」と呼ばれている。その名の通り、魔物が巣食う危険地帯となっており、森に入る者は悉く消えていった。
森に住む魔物は食料である人間を求めて首都へやってくる。首都近郊守衛団を立ち上げ、魔物の対処を行っているが、それももはや追いつかなくなりそうである。
「このままいくと、首都の住民が危険です。やはり、ウェストリアへの避難こそ最大の対応策でしょう」
「いや、その必要はない。近郊守衛団の人員が足りなければ首都警邏団、王立魔法軍も動員すればよい」
「それでは諸外国からの攻撃に耐えられません。現状、隣国のウルバとは限界状態です」
「他の街の警邏団や国境警備兵から人員をかき集めたりはできないか」
ある日の議会の様子である。各大臣や役職の思惑が現れている。首都が危険であるが、その危険を除くよりも己の立場を優先しようとする者もいる。議会は大抵、そういう意見が飛び違う。
人民の避難か、防衛力の強化か、未だに対応策は決定されていない。
そんな議会の中、誰にも聞こえない声で国王は呟く。
「誰でもいいから、この状況をどうにかできぬものか」
彼が現れたのは数日後のことである。
議会の翌日。とうとう魔物の侵入を許してしまい、首都は混乱と安全を訴える声でいっぱいとなった。それから数日。魔物の対処は追いつかず、首都警邏団、魔法軍を持って、何とか死者が出ないように食い止めていたある日、急に魔物の数が減った。
「魔物が現れなくなった?」
国王は報告した兵士の言葉に驚いた。
「はい。なんでも、16,7歳程の青年が魔物を一撃で倒しているという報告が各地であります」
魔物を一撃? そんな話があるのか? どんな屈強な兵士でも一体の魔物には最低3人で対処をするのが基本。そんな魔物を一撃とはどういうことだ?
さらに翌日、そもそも魔物が首都に侵入することも無くなった。
国王は困惑する。喜ばしい事態ではあるが、その青年が謎である。一体何者なのだろうか。何か、不吉なものの前兆だろうか。
「すぐにその青年を城に呼べ」と使いに頼み、国王は背もたれにもたれた。
数十分して、その青年は現れた。見た目はまさしくただの青年である。
「ここ最近の魔物の退治をしてくれたというのは君かね?」
青年は頷いた。
「そうか。では、国民全員を代表して国王の私が感謝する。首都を守ってくれてありがとう」
まだ、何か怪しいが実際に首都は護られたわけであるから感謝するのは順当である。
「遅れたが、君、名前はなんと言う?」
「カナタです」
「カナタ君か、まず、聞きたいことがある。どうやって魔物を一撃で仕留めているのかね」
そうやって質問していくうちにある程度のことはわかった。
彼を形容するなら神の遣いとでも言うのだろうか。どうやって得たのかはわからないがその強大な力をもって魔物を倒し、首都全体に結界を張ったのだという。
正直、勝手に結界を張られても困るのだが、結界についてはまた後に話し合うとしてどうやら彼が魔物退治を行ったことはひとまず真実のようだ。
その後、青年を讃えてパレードを式典を行い、家を与えた。
こうして、魔物から首都は守られたのである。