表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/63

(7)

「ふざけるな」

 そして帰宅後。

 見慣れたリビングで一息つき、人生初の衝撃からようやく我に返った。

「さっきのは、いったい何だったわけ。どうしてあんな奇行に走ったわけ。ん?」

 ダイニングチェアーに腰を据えた芽吹が、床に坐する息吹を冷たく見下ろす。

 息吹に至っては自分の責をわかっているのかいないのか、今の状況を打破しようという気は見られなかった。

「奇行かな? 俺としてはかなりなナイス判断だったと思ってるけど」

「兄が妹に……、き、す。を、することのどこがナイス判断なんでしょうか」

 思わず「キス」の部分は音量を下げてしまう。

 だって、初めてだったのだ。そんな単語が日常会話に出たことだってない。異性交際すら、したことがないのだから。

 ただ――今怒りをぶつけている理由が、厳密には「キスをされたこと」ではないことを、芽吹は気付いていた。

 他の見知らぬ男相手なら、こうはいかなかっただろう。相手が息吹だったから、自分の兄だったからだ。

 自分の中に、もうはっきりと息吹の居場所が出来上がっている。それをこんな形で実感することになるなんて。芽吹は内心舌打ちしたい気分だった。

「1番いい方法だったでしょ。あのプレイボーイに、芽吹と同じ気持ちを味わってもらうには」

「……は?」

 息吹の言葉がゆっくりと頭に染みてゆき、叱責の言葉は勢いをなくしてしまう。

 安達と百合の恋人関係に、子どもみたいに不機嫌になって、心がもやもやして、吐き出すのも上手にできなかった。

 でも確かに今は、その如何ともしがたかった重い感情が、どこか軽くなっていると感じる。

「そんなことのために、あんな」

「そんなこと? 俺にとっては、すごく大切なことなんだけど」

「抵抗とか、なかったの」

「全然。だって、芽吹が相手だし」

 さも当然のように答える息吹に、芽吹は軽く混乱してくる。

 ちょっと待て。兄妹ってこういうものなのか。例えば悪い男を反省せしめるために、口づけ合うなんて、抵抗なくできるものなのか。

「向こうにも色々弁解もあるんだろうけどさ、芽吹を泣かす奴は、俺は許さないし認めない」

「え」

「さっきも言ったでしょ。芽吹は俺の、可愛い妹なんだよ」

 無垢な笑顔を浮かべた息吹が、いつの間にか床から腰を浮かし芽吹に歩み寄っていた。

「ね。だって俺、芽吹が世界で一番好きで、大切だから」

「……!」

 つい先ほど垣間見た、男にしては長いまつげが近くにあるのに気づき、心臓が大きく音を立てる。

 居心地のいい距離が出来上がっていたはずなのに――どうしてこうなったんだろう。

 満足げに「お風呂に入るねー」とリビングを後にした息吹をみ置くり、芽吹はしばらく天井を仰ぎ見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ