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「今、なんとおっしゃいました、母上」

「あなたのお兄ちゃんの息吹いぶきよ。ついさっき、海外から帰ったんですって」

 妙な口調で聞き返した私に、母親は同じ言葉を繰り返した。

「はじめまして、芽吹」

 視線が合った「兄」は、へらりと笑みを浮かべながら頭を下げた。お兄ちゃん。これが。私の?

 自分に、年が離れた兄がいるのは知っていた。

 当時中学生の兄を連れた母が、父と再婚し、その後私が生まれた。そんな話は、この年になるまでに数回耳にしてきた。その話だと年齢差は14歳前後。まあ外見からも妥当だろう。

 でも。でもだ。

「あのさ。本当にこの人、私の兄なの? 本当の、本当に?」

「なんだ芽吹、どうしてそんなに疑うんだ?」

 父が心底不思議そうに目を瞬かせた。

「だって、お父さんとお母さんだって、何年も会ってないんでしょ?」

「お母さんが息子を見間違えるもんですか。ふふん」

 嘘だ。仕事の超繁忙期に入ると、母を起こしに行った私をよく「職場でどうにも使えない松木さん」と間違えて、何やらぶつくさ言っていたじゃないか。

「実はこれまでも、息吹は海外でずっと仕事をしていたの。それが、この奇跡的なタイミングで日本に戻ることになってね」

 怪しさ満点だ。新手の詐欺じゃないのか。

 会話の節々で、「これ、うま」とか言いながら、男はぱくぱく料理を放り込んでいく。そのイカのねぎ味噌和えは私の好物だ。図々しいにもほどがある。

「父さんとしてもなあ、女の子の一人暮らしはやっぱり物騒で危ないしなあ。息吹が帰ってくる話を聞いて、こりゃ渡りに船ってわけだな」

 素性をよく知らない男との二人暮らしの方が、一億倍物騒で危ない。

 しかし大人三人になだめられる構図に、自分の常識がおかしいのかと疑問を抱きそうになる。

「いやいやいやいや。一人暮らしでいいよ。別に危なくないし、もともとそのつもりだったし。そんな急に」

「でもここに住めないと、どのみち息吹の住む場所がないからなあ」

 知るか。勝手にしてくれ。っていうか、誰か助けてくれ。

「大丈夫だよ。可愛い妹に手を出すような真似、お兄ちゃんは絶対しないから」

 男が笑顔で告げた発言に、芽吹は気が遠くなった。

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