2.【回想】異世界人、日本に来る
10年前。
目を覚ますと俺は異世界、『日本』という国のアパートの一室にいた。
(『日本』という国名も『アパート』という名称も、この時はまだ知らなかったが)
わけもわからず戸惑う俺に、例の"声だけの上司"が語りかけてきた。
『目が覚めたか?トレイグ・ラッカー。ここはお前の生まれ育った世界とは違う………異世界だ。ここでお前にやってもらいたい仕事がある』
いきなりこんな事言われても理解できないよな?
当時の俺ももちろん食って掛かって文句の言葉を浴びせたが、奴は意にも介さず淡々と説明を続けた。
『お前がこの世界で生きてゆくのに必要なものは全て用意した。この部屋もその一つ。ここが今日からのお前の住まいだ。そして戸籍、当面の生活費など……』
アパートの畳の上にはこの世界の現金が三百万円。
そして俺の体型に合った男物の服が数着。
あと、俺がこっちの世界で名乗る事となる『天道』の苗字の印鑑。
「………で?俺の仕事ってのは何なんだ?」
『うむ。だが、その為にまずはお前に行ってもらう場所がある』
「?」
こっちの世界で俺に最初に与えられた任務。
それは、運転免許の取得だった。