18.彼ら、彼女らの物語
「さてと、どうするか………」
この世界は俺の故郷の世界より遥かに"便利"だ。
今ではすっかりこっちの世界に馴染んでしまった俺としては、今さら水洗式トイレの無い元の世界でやっていける自信が無いくらいに。
だが、その便利さが今回は裏目に出てしまっている。
"コンビニが1軒あれば生活に困らない"
食料品、生活用品の購入、公共料金の支払い、ほぼ何でもできる。
それが自宅アパートから50メートル以内の範囲にあるせいで、今回の標的の引きこもり野郎の生活は半径50メートルの世界で………いや、コンビニの方向にしか行き来してないから、直径50メートルの世界で完結できてしまっている。
大型トラックで轢き殺す以外の手段がとれるなら他にいくらでも方法はあるんだが、残念ながら俺に他の手段は許されてない。
この10年の間にも、今回のような面倒な標的はいた。
その時に聞いてみた事がある。
「なんでトラック以外の手段で殺しちゃ駄目なんだ?」
すると今は亡き藤堂のオヤッサンはこう答えた。
「俺たちの仕事はな、標的……異世界転生する者にとって、"物語の最初の1ページ目"なんだ。物語の主人公を転生させるきっかけとなる俺たちが、彼らの物語の登場人物にならねぇためだ。だから"偶然通りかかったトラックに轢かれた"が一番都合がいい。例えば"銃で狙撃された"だと、犯人の顔はわからないとしても"狙撃した何者か"として物語の登場人物になっちまうだろ?」
「その理屈なら轢き逃げだって"トラックで轢き逃げした何者か"っていう登場人物になるだろ」
「あくまでも"偶然通りかかったトラック"だ。つまり物語への介入は最小限にしなければならないのさ」
「………さっきから言ってるその"物語"って、一体誰のための物語なんだ?誰が読むための?」
「さぁてな。俺たち下っぱにはどうでもいい事さ」
………などというやり取りが過去にあったわけだが、要するにトラック以外で殺すなよ!という、どこかの依頼人様の意向というわけだ。
そんなわけで、今回のような標的は俺にとっちゃ全くもって面倒な困ったちゃんなのだが、俺だって一応この道10年の経験がある。
仕方ない、少しこちらから動くか。