14.そして今の俺はトラック君
「ふあ~~~、よく寝た……」
昨夜は久しぶりに10年前の……俺の初仕事の時の夢を見た。
あれから10年。
数えきれないくらいの"仕事"をこなしてきたが、やはり初めての仕事はいつまで経っても忘れる事ができない。
天乃巣来夢の事は今でも時々夢に見る。
彼女に限らずだが、俺が異世界に"送った"奴らが、どうか新たな世界で幸せに生きていてくれる事を願う。
そうでなきゃあ、俺もこんな仕事やってらんねぇよ。
久々に見た初仕事の夢を思い出しながらタバコに火をつけ、寝起きの一服。
「っふぅ~~~、あっ、そうだ、オヤッサン」
タバコを吸って思い出した。
この世界に来たばかりの俺に"仕事"のイロハを教えてくれた、藤堂のオヤッサン。
タバコもオヤッサンから教えてもらったものの一つだ。
立ち上がり、部屋の隅の仏壇の前へ行き、『チーン』と鳴らす。
オヤッサンが亡くなってもう5年になる。
「えぇっと、線香は……と、あ、切れてるな」
我ながらすっかりこの世界の習慣が身に付いたなと思う。
別に仏教に入信したわけでは無いが、これがこっちの世界の作法なのだとすれば、それに倣うのが礼儀というものだ。
礼儀に異世界とかどうとかは無い。
「仕方ない、線香が切れてるから今日はこれで勘弁してくれ」
そう言いながら、俺の咥えていたタバコを線香の代わりに立てる。
「オヤッサンはこっちのほうが好きだろ?」
一応これも俺流の礼儀のつもりだ。
作法だけをガッチガチに守るだけが礼儀じゃない。
そこに故人を偲ぶ心があるかどうかが重要なのだ。
「つっても、まぁ、故人の遺志を継いでない部分もあるがな。オヤッサンの推してたあのコードネーム。あれはどうしても俺の好みに合わなくてなぁ」
そんなわけで結局、俺のコードネームは『トラック君』にした。
意味も理屈も必要ない。
俺の仕事は結局、トラックで人を撥ね飛ばすだけだ。
ならばシンプルなコレでいい。
「さてと、出かけるか。今日は新しい"仕事"が来ないといいなぁ」