トイレの花男VS異世界魔法学園 序章 “男子校のトイレの花子改めてトイレの花男は職場を変えたい”
某幽霊・怪異さんたち見たいな方々の話が出ますがすべてフィクションです。あと、彼女らをディスりたい訳ではないく、単純に話のネタにしているだけなのでご容赦をーーーーー。
「それで、また説教されたって何やったんだよお前は」
最近行きつけの幽霊御用達の酒屋で同僚の金次郎に訪ねられるのはいつものことだ。
俺こと、トイレの花子・・・改めてトイレの花男は何故かいつもやり過ぎてしまうとちまたで有名なのだ。
「別に、俺は俺の仕事をしたまでだぞ?上が成果だせ成果だせってうるさいからやってやっただけだ」
俺たち幽霊、妖怪ってのは人を驚かせる、恐れさせるのが仕事だ。だけど、最近はなかなか上手くいかないものだ。
「そもそも、男子校の女子トイレに存在する怪異にどんな成果を出せってんだよ!用務員のおばちゃんかたまに来る保護者、もしくは来客だけだぞ?」
「そりゃ、まあ、仕方がない。俺らみたいな下ッパはこんな役割しか貰えないさ」
「お前は・・・最近はあんまり見かけないしなあ」
「金次郎の銅像も昔は結構あったんだけどな・・・今じゃどこ探したってねぇよ」
「ま、仮にあって動き出したから恐いかって言われてもな」
今の世の中、動く人形なんてどこにでもある。例え金次郎人形が動き出しても中にロボットが仕込まれているとか思えば怖いなんて思わないだろうな。
「それなんだよ、それ。この間すんっーーーーげぇー久しぶりに夜の学校に肝試しだかで来てる学生がいたわけよ!こりゃ、俺の出番だなって動いたら」
「動いたら?」
「スマホで動画とってユーツベにアップされた。糞上司にぶん殴られたわ」
「ぷゲラッ!おまえもうダメじゃん職場変えてもらえよっ」
「笑い事じゃないっつんに・・・。んで、花男の説教の理由ってなんだったん?」
「俺のは・・・ちょっと、やり過ぎただけだぞ?いくら待っても女子トイレに来ないから壁を突き破って男子トイレに侵入して何人か便器の中に頭を突っ込んでやっただけだ」
怪異パワー使って空間歪ませて便器に犬神家してやった。
「おま、それ花子逸脱してんじゃん!男子トイレは赤紙青紙さんの領域じゃん!」
「だから怒られたんだよ。つってもあの人ろくに仕事するき無いんだぞ?の癖に俺がやったらやったでグチグチ言い出して」
「あの人も昔はもちっとマトモだったんだけどな。水洗トイレが肌に合わないって言ってたわ」
「ふんっ、同じトイレ妖怪として不甲斐ない」
「ま、いいわいいわ。それよか、どうなんだよ。前に職場移動の願い出してたろ?」
「あぁ、男子校なんてもうやってられるか。女子高、せめて共学のガッコにしろって前から言ってるんだけどな・・・」
「まぁ、ああいうところは所謂エリート様がいくところだからな」
「けっ、霊力がちょっとばかり高く生まれたからっていい気になってよ」
「エリートと言えば、あの貞公、なんか色々大変らしいな」
貞公とは昔は俺らと同じような底辺組にいた女の幽霊だ。ぱっとしない見た目だし、所謂在り来たりな幽霊。時折心霊写真などで人を恐がらせる程度の幽霊だった。
それが、今ではーーーーというやつだ。
「まさかVHSに取り付いてあそこまで怖がらせられるとか思いもしなかったよな。あれだろ?映画化までされて、あれでエリートの仲間に入っていった」
「ま、それももう十何年も前の話だけどな・・・人間の進歩が早いのか、あっという間にVHSなんて廃れたからな・・・あのときの貞公の荒れっぷりは酷かった」
人の世界は発展が凄い。今ではVHSなど一部のマニアくらいしか見やしない。DVDやBlu-rayなどいまの世の中なんでも新しくなるから。
「ところ構わず誰にでも噛みついて、・・・それで数年前になんとかネット動画に取り付けたみたいだけどさ、なんかそこまで流行らなかったしな」
「仕方ないだろ。それこそ、ネットに場所を移しても斬新さなんてないし、やってることはなんか劣化してたし」
「あー、で結局VHSに逆戻りしてたな」
「それ見てカヤコさんが爆笑してたからな」
カヤコさんとは家に取り付いた安定型幽霊だ。家屋に取り付いたからVHSみたいな移り変わりはないため、かなり安定した職場だと言っていたのを覚えている。
貞公の第一ブレイクと同じ時期に人気が出始めて、当時は怪異界の二台スターと言われていたくらいだ。
いまではスターでなくなってしまったが、カヤコさんの収入は安定してるのに対し、貞公は浮き沈み・・・いや、沈みっぱなしだ。
「あれな、カヤコさんが爆笑したのに貞公マジギレてガチの殴り合いに発展したからな?」
「あ、その噂本当だったんだ?俺その時期臨時バイトで心霊写真撮られるのに忙しかったから詳しく知らないんだ」
金次郎の心霊写真・・・確かに怖いな。でも金次郎って実体あるよな?それでも心霊写真になるのか?
「結局どっちが勝ったんだ?貞公もカヤコさんも一大ブームを呼んだだけあってどっちも霊力バカデカイじゃん?」
「あれなぁ~、いや、本当、大変だったんだよ。マジで。あの二人どっちもバカみたいに強いじゃん。VHSとか家屋侵入とか本気だす条件は厳しいけどそれ抜きでもぶっとんでるからさ、二人よりも周りの方が被害でかいんだ」
「うわぁ~想像が容易い」
「だべ?人面犬のケンさんなんて散歩してたら直撃受けて木っ端微塵になったから。沼地のカッパ、サラザールさんは皿を割られてショック死したし、最近力付けてきて調子に乗った引き娘が二人を止めようとしたんだけど、二人からガン付けられて引きこもっちまったし、首なしライダーさんなんて乗ってたバイク取られてさ、いまじゃ自転車だぞ?逆にシュールで恐がられてるって言ってたけど」
「どんだけ被害出てるんだよ。止めろよ。こんなときのための死神たちじゃん」
死神とは所謂黒マントにドクロ顔で鎌を持った怪異だ。怪異の中でもエリート中のエリートで、死者の魂を運んだりしている。人はいずれ必ず死ぬから定期的に収入を得られる安定感抜群の仕事だ。また、俺らのような怪異の取り締まりもしている。基本自由な俺らでもやり過ぎると怒られる。俺も三回くらい死神に連行されたことあるけど、あの連中とやり合うのは骨が折れる。しかも、その上役、閻魔のジジイがまたうるさいのなんのって・・・と、話がずれた。
「いやな、死神も介入したんだよ、三人くらい。でも、なんかあれだ。食べられちゃった?見たいな?」
「・・・」
「二人とも戦い疲れていたところに“高い霊力を持った特上の獲物”が現れたから・・・エネルギー補給に・・・あれは・・・見事だった」
本来ならば疲れた状態の二人は死神に勝てるはずもない。
でも、やりようによっては死神でも敵わない。
それは二人のパーソナルスペース、自分の場に引きずり込んでしまえばいいのだ。
貞公は死神捕まえて自分の映像みせて、そのまま食った。
カヤコさんも死神のマントを掴んで無理やり家に引っ張り混んで食べた。
あと一人の死神は怖くなって逃げ出したよ。
「・・・そこまでやって・・・結局どっちが勝ったんだよ」
「・・・いや、な。流石に死神は二人の許容範囲超えてたらしくて、暴走初めて・・・」
あれは・・・そう、酷かった。
近場にいた人間も怪異もみんな呪い殺された。
「しかも、暴走の果てに、なんか合体しやがった。完全に自我のない暴走化物になっちまってさ、もうヤバイのなんのと、閻魔のジジイは「ワシは何も見ていない」って見て見ぬふりするし」
「閻魔さん、・・・で、でもさ、それじゃどうなったんだ?天使たちでも出てきたのか?」
「いや、天使が出る前になんとかなった・・・けど、」
天使とは怪異とは正反対に位置する奴等だ。俺たち怪異が人の不幸や恐怖を求めるのに対し、天使は人の幸せや喜びを求める。
時折ぶつかることがあるけど、天使は強い。天敵と言ってもいい。
「天使が出たら流石に不味いか。それじゃ、結局どうなったんだ?」
「・・・いや、うん。トイレに流した」
「うん?」
「いや、このままじゃ流石にヤバイと思って学校に誘導して、トイレに誘い込んだ」
「そこだけ聞くとエロいことしようとしてるみたいだな!」
「貞公とカヤコさんにんなことできるか。ま、で、トイレまで連れ込めれば、な。あとは俺の領域だよ。洋式トイレ中に引きずり込んでやった。あとは蓋閉めて流して、頭を冷やしてくれたよ」
怖いのが、便器を井戸に見立てて何度も這い上がって来ようとしたことか。貞公の力に井戸を這い上がるのがあるから、その応用で。
何度となく便座の蓋が浮き上がりかけて大変だった。その都度流すのレバーを引き続けた。もちろん“大”の方を。
「あとになって下水から汚物まみれで上がってきてさ、その時にはもう分離してたけど、二人とも正しく呪い殺さんとする目で俺のこと睨むから怖いのなんのって」
「ホント、パーソナルスペースだけは強いよなお前」
「ま、それが取り柄だからな」
トイレの中なら俺最強。カッコ悪くて世間様に自慢なんてできないけど。
「いいよなぁ、そういうの。俺なんて金次郎だから特別な力なんてなんもないし。できることと言えば《歩く》ことくらいだし」
こんなこという金次郎だけど、金次郎だって歩くという条件はちょっと凄い。金次郎はその気になればどこでも歩ける。海の上でもマグマの上でも、宇宙すら歩ける。
俺たち怪異は特化していることにはとことん特化しているから。
貞公ももともと強い力を持っているけど、《VHSを見た相手》《一週間》そう言った条件が揃えば閻魔のジジイすら射程圏内に入れかねない。
もっとも、閻魔のジジイがその気になれば天地がひっくり返り死者が蘇り、大変なことになる。VHSを見せるためのテレビなんか粉々だ。
俺も一回だけ閻魔のジジイを亡きものにしようと考えたことがあるけど、ダメだった。クソジジイのトイレシーンを見てしまいショック死しかけた。
だめだ。俺は若くて綺麗なオナゴ専用花男になる。
「そんなことよりもだよ、マジで男子校から去りたい」
「つーても、説教くらって直ぐに叶いもしないだろ?閻魔さんお前のことかってくれてるけど、閻魔さんとこの秘書にはスッゲー見下されてるし」
「あのクソババアな。自分も昔は花子だったくせして。少し偉くなったらもうそんな事知らんとくるからウゼェ」
「マジかー、あの秘書、花子だったん?偉い出世じゃん!」
閻魔のジジイの秘書、見た目は四十代くらいのおばちゃんで、いかにも仕事できます的な見た目してるけど、そいつ元花子だからね?便所女ですからね?
霊力がもともと高くて、派遣された学校も代々恐怖の七不思議とか引き継がれているような有名なホラー中学で、大した苦労もなく子供たちから怖がられ、夏には毎年子供が肝試しにくるし、文化祭の季節も肝試し、暖かくなりはじめの春にも肝試し、年がら年中子供が怖がる。
そういう一度その位置に納まったら自動で出世していくシステム、大嫌い。
その癖本人は苦労しただの、私の若い頃はもっと頑張っただの、出来ただの・・・流石に閻魔のジジイの手前、ぶん殴ることもできないけど・・・。
いや、そもそも、トイレの中以外で戦ったら普通に負けるけどね・・・。
いまの俺はトイレの花子、花男だけど。
トイレの中だけ・・・あれ、むなしくなってきた。
どうせなら派遣場所だけでなく、職種も変えてくれないかなぁ・・・。
死神とまでは言わないから、鬼とさ、天の邪鬼とかもいいよなぁ。あと最近は西洋妖怪も人気が高い。バンパイアとか悪魔とか。そう言うのでも良いからなりたい。
「ま、移動も職種変えも無理だろうけど」
「だわな。俺ら下っパはいまある現状でどうにかするしかないさ」
金次郎の言うとおり、いまの環境で諦めるしかないだろう。願わくば男子校が女子校と合併とかしてくれないだろうか?
と、そんなこと考えていたら一匹のカラスが俺と金次郎の間に飛んできた。
「カラス便か?ん、俺宛て・・・うげ、閻魔のジジイからかよ」
「閻魔さんから?なんて書いてあるんだ、その封筒」
「ちょい待ちすぐ読む・・・お、おぉっ!」
「どした?」
「職場移動の辞令だっ!しかも、学校!男女共学のっ!」
これはなんだ!?夢か!いや、でも、俺夢とか見たことないし現実かっ!?閻魔のクソジジイもたまには良いことしてくれるっ!
「マジかー、お前が、共学の学校に行くのか?いや、まぁ、実力とか考えれば別段可笑しくもないんだけどなぁ」
「やっとあのクソジジイとクソババアが俺の実力に気が付いたんだよっ!何々、それで俺が向かう学校の名前は~と・・・と?」
「どしたん?」
んー、あれ?目が疲れているのかな?
学校の名前が可笑しい。
「王立・・・」
「王立・・・?ってことは日本の学校じゃないのか?」
「王立、・・・王立エルシエル神聖魔法学園」
「・・・オタクの学校か?」
「え、何これ?ギャグ?嘘?はぁ?・・・魔法学園?」
「魔法学園とか・・・え、ホントにそんな学園あるの?イタい学園なん?」
「・・・所在地・・・女神エルシエル管轄、王都イリスリーナ中央区」
「・・・え、女神?」
「そう・・・女神」
魔法学園と聞いてイタイ学園なのかと思ったが、続いて出てきた「女神」の単語で色々謎がとけた。
女神、それは天使たちを統べる神の一柱。
この地球にも女神はいるけど、この世界を統べてはいない。
となると、つまるところ、この王立エルシエル神聖魔法学園とやらはこの世界にない。異世界にある学園だということだ。
「異世界・・・か」
さっきまでの感動が薄れてしまうのも仕方ない。
俺たち怪異はそれぞれ個々に持っている力は違う。だけど、個々の力以上に役職も大きな力になってくるのだ。
例えばの話、俺と金次郎、個人の力で言えば俺の方が若干上だ。戦えば十回やって九回俺が勝つだろう。
だけど、ここに役職が加わってくるとまた変わるのだ。俺は普段通りトイレの花子という役職、ここで金次郎が貞公の役職に就いたとしよう。そうすると、今度は俺が金次郎に勝てなくなる。
それは貞公の役職補正だ。貞公のように一大ブームを起こすほどに認知される怪異の力は強い。
俺たち怪異に必要なのは《認知》《恐怖》《時間》だ。
認知され多くの人に知られれば強くなる。
恐怖を受ける大きさによって強さが変わる。
年代を重ねれれば重ねるほど強くなる。
貞公は《認知》《恐怖》が飛び抜けて高いから強いのだ。
花子な俺は逆に《時間》と《認知》は強いが、《恐怖》が弱い。
そして、異世界の魔法学園という問題。重要なのはそこが、異世界ということだ。
異世界について詳しい訳ではないが、異世界には怪異がほぼ存在しない。モンスターなる怪物はいるが、俺らのような実体を持たない幽霊みたいなのがいないのだ。
だから、異世界には怪談がない。
トイレの花子も、歩く金次郎もいなければ、勝手に鳴り響くピアノに、増える十三階段の噂も存在しない。
つまり、俺がトイレの花子だぞぉ~オドロオドロ~とトイレから飛び出していっても「うわぁトイレの花子だぁっ!?」と為らず、「うわぁっトイレから女の子がっ」となって終わる。
それでも確かに恐怖させることはできるだろうけど、方向性の定まらない恐怖は俺の力になりにくい。
もしかすれば“トイレの花子”とは別の怪異に変化してしまうかもしれないし、霧散して終わるかもしれない。
だから、異世界に行ったら単純に驚かせるだけではいけなくなる。
計画的にやらないと・・・。
「はぁ、そう考えると頭がいたくなってくるなぁ・・・それで、異世界学園は他に誰が来るのかなぁ~と・・・とと?」
辞令の他に詳しい書類もありそこに目を通していくが他の参加者の名前がない。
「・・・え、もしかして俺一人?」
え?マジ?俺一人?
気になり何度か書類を読み直し確認したが、この異世界学園に飛ばされるのは俺一人のようだ・・・。
これは、もしかすると、
「やべぇ、・・・“チャンス”じゃんっ!」
配属されるのが俺一人。
つまり、俺が配属されるのはトイレの花子ではない。
俺が配属されるのは“学園の七不思議”だ。
学園の七不思議という一つの集合体を指す怪異。普通は7人以上の怪異が集まりそう呼ばれるものだが、過去に何人か一人で七不思議を背負った怪異も存在している。
そして、学園の七不思議という怪異は“強い”
レア度が高いというよりも、強いのだ。
たぶん、ガチンコで戦えば貞公やカヤコさんにすら勝てる。合体した二人にも勝てる。
それくらい強い。
「くふふ、やってやろうじゃねぇかっ!異世界魔法学園っ!」
「おおー盛り上がってるな」
金次郎が俺の書類を見ながら呟く。
「んー、でも、魔法かぁ・・・・あはは、案外俺ら怪異にも効くのかもな、魔法。」
「・・・反撃・・・かぁ」
それはちょっと、
でも、これはチャンスだ。
俺が学園の七不思議となればこの先安泰が決まったも同然だ。
最終的には新任に七不思議を任せ俺は最後の不思議となって居座ればいい。
他人を動かし利益を得る立場に治まれればいい。
「待ってろよ異世界学園の魔法使いどもっ!!俺が真の恐怖を味逢わせてやるッ!!」
そうして、トイレの花子は異世界へと飛び立った。
だが、このときの花子はまだ知らなかった。
異世界はーーーーー