勇者の条件
逃げ切れなかった・・・
立ち上がって颯爽と辞するつもりだったが
また喉元に冷たい感触が・・・
今日中に首を立てに振らないと二度と首を触れない身体にされそうだ。
両手を上げてゆっくりとまた膝をつく
喉元の冷たい感触がなくなるまで待つ
「勇者さん、あんたはお利口さんだわ」
そう囁いて、また王さまの傍らに並ぶ
生きた心地がしない、全力のダッシュをしても
扉を開けている間に首と胴が永遠の別れを告げることだろう・・・
命を無駄に捨てるのは勿体ない
ガチャ
「失礼致します」
いまや!!
全力のダッシュ!
腕をチギれんばかりに振って扉に向かって一直線!!!!
声の主は多分女性!
ぶっ飛ばしてでも突破する
近衛兵が立ち塞がる!
こうなれば
右手の人差し指を左方向に指差し視線も同じ方向に向けて
秘技!視線誘導!!
「あ!あれはなンドォ」
ドゴォーン!!
近衛兵のタックルをモロに鳩尾に食らい凄い音がする。
あああぁ、息がぁ、く、苦しい、痛い
鳩尾の辺りを押さえてのたうち回る
アカンアカンー!モロに入った!モロに入った!
「逃がさないよ?(笑)近衛隊の皆さ~ん、ついでにその子の衣服を剥いちゃって下さ~い!」
王さまの号令に従い近衛隊がジリジリと近付いてくる。
逃げ場が全くない!
「や!やめて!おやめになって!」
あーれーーーー‼
何が悲しくて男共に力ずくで衣服を剥かれなければならないのか、抵抗出来ずにパンツを残して全て脱がされる。
「ひ、酷い(涙)」
人世で一度に複数の男に衣服を脱がされるハメになるとは思わなかった・・・
「よーし!衣服を隈無く調べろ!金貨あるはずじゃ」
ヤバい、金貨の存在を知ってるだと!?
「有りました!」
あちゃ~!
「こっちへ持ってくるのじゃ、そうそう、御告げでは確かアフロディーテのレリーフが・・・ない!ここれは我が国の金貨ではないか!」
正解!!流石にポンコツでも自分の国の硬貨位は分かると見える
ここにくる前に隠して置いたんだよーん
「パンツも剥げ」
「アカンアカンそれはアカン!や、や、やめて~!!!」
産まれたままの姿を晒してしまった・・・
「パンツの中にもありません!」
「勇者、貴様~大切な金貨をどこにやった?」
「何のことですか?そんなの持ってません!断じて持ってません、人違いですから帰らせていただきます」
言える訳がない!見付かれば即勇者くんとして
祭り上げられて戦場の真っ只中に放り込まれるのは必死
最後の力を振り絞って逃げてやるんだ!
ここまで見られたならもう怖い物は何もない
大手を振ってお粗末な物も振って帰ってやる!
チャリ~~ン
近衛兵の一人が僕の割れ目から落ちた金貨を拾い確認する。
「有りましたー!」
「引っ捕らえろ!!」
衛兵達が襲い掛かってくる
冷たい鎧と冷たい床で挟まれる・・・
「ちょ!冷たい冷たいー!逃げないから服を着させてお願いしますから服を冷たいから!本当に冷たいからー!」
仕切り直して
「機は熟した、勇者くんよ世界救うのじゃ!・・・まだなんかあるの?」
「あるさ!オオアリクイさ!勇者と言われてハイそうですかと戦いに赴くわけないじゃないですか!今まで戦いに行ったことも無ければ冒険もしたことない!そんな私をですよ?行きなりそっちの都合で行けと言われましても・・・」
玉座でほほ杖を付きながら少し考えて
「そこまでヘカテリナ欲するか!」
「誰もそんなことは言ってない!」
やっぱりポンコツだコイツ
「良いですか?これからモンスターと戦うにも先立つ物が要るでしょう?まずは手付金のお話からさせていただきます」
こうなったら踏んだくれるだけ踏んだくってやる!
「いくら欲しいのじゃ?」
「そうですね、アニマルニのプレイトメイルが40万ゴールド、ファイティングニケの剣と盾で12万ゴールド、あと諸々雑貨で3万ゴールド締めて55万ゴールドですね」
これくらい安いもんだろ?
世界を救う代償と考えたなら
因みに1ゴールド=1円と考えていただければ目安になるでしょう。
「高いよー、ブールーウッドなら新兵の鎧1万9800ゴールドで2着買えるよ?あと武器なら中古探せば2万出せば充分いいの揃うよ!薬草とかならウメモトキヨシなら1万あればお釣りが来るじゃろ?」このポンコツ、へんなところだけ無駄に鋭いな!貰ったゴールドで俺が考えてた格安装備プランを全部先に言われた、余ったゴールドで豪遊しようと思ってたのに・・・
「えー、でも、僕って一応、勇者ですよね?神様から指名された、そんな僕にそんな安物使わせて良いんですかね?」
「大丈夫大丈夫!活躍するまでは勇者ってことは内緒にしておく予定だから安心せい、それにレベル1からそんなフル装備してたらモンスターより先に賊に襲われて身ぐるみ剥がれるわい、手付金に付いては5万ゴールド支給しよう」
あれ?雲行きが怪しくなってきたぞ、無駄に冴えてやがるよ!
娘のことは盲目の癖に金勘定だけはしっかりしてる。
「あと一人では些か心もとないのですが一個中隊か一個小隊を預けて頂けるんですよね?相手は魔王軍なんですし」
「悪いが割けるだけの兵力の余力は残っておらん、まあ、一人でドラゴンロードを倒した勇者が居ると伝え聞いておる、それか3人とか、あとは人を3人集めて4人とかが妥当なところじゃろ?」
「いや、馬車で一個小隊とかも有りましたよ?」
「儂はそこまでプレイしとらん!」
やっぱりゲームの話かよ!!TTPRPGの話ですよ!
「じゃ、分かりました仲間集めればいいんですね?どこに行けばいいんですか?」
「冒険者が集まりる酒場がある名を」
ルイーザ?
「トリカブト貴族!通称トリ「らめぇ!!!」じゃ!」
何だろう凄い危機感を全身に感じて声を遮ってしまった。
因みに全品280ゴールドと懐に優しいお店です!
「さぁ!勇者くんよ!トリカブト貴族で仲間を募り冒険の旅に赴くのじゃ!また手を上げおってなんじゃまだあるのか!」
あるさ!逆にハッキリしたわ!
このポンコツ舐めてたわ、意外に図太い!
このまま、勇者になる条件を曖昧にして冒険にでると
タダ働きさせらね兼ねない!!
成功報酬や、途中での達成報酬などを綿密に話をしなければ
「タダ働きは嫌なので条件を決めて契約をちゃんと結ばせていただきます」
4時間掛かった・・・
正直、普通の冒険者と変わらないが
一応、1万ゴールドの雑費プラスとレベルアップ時にお祝い金や、旅の途中で結婚した時の結婚祝い、出産祝い、忌引き、介護休職、魔王を倒した後の雇用、また残念ながら倒せなくて勇者を廃業した時の退職金など
まで、話は出来た。
「あと業務中に死亡した場合の補償はどうなりますか?」
王さまは玉座でうたた寝し始めたので今は近衛隊長が代わりに話を聞いてくれている。
「死亡については安心して下さい、最後に訪れた教会で生き返らせる手筈が整ってます、勇者さんには死亡して頂く訳にはいかないので、何度死のうが生き返って頂く方向で調整中です」
流石は近衛隊長、ポンコツよりも話が早い
「仲間には適用はされないのですか?」
「はい、残念ながら勇者さんだけ無料で生き返らせていただきます、仲間の方は棺桶に入って頂く事になります、ただ、お布施を渡して頂くと仲間の方もちゃんと生き返らせることは出来ますのでご安心を他にご不安なこととか有りますか?」
この国って隊長さんが真の立役者では無いのだろうか?
「いや、大丈夫です」
契約書に署名捺印をして貰い城を後にした。
さあ!冒険の始まりだ!
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・はぁ、勇者になっちゃった