その男、魔法少女につき
一日目
「勇治さんは格闘術の特訓、亮くんは魔法コントロールの特訓をして貰うわね」
亮くんの持つユニークスキル「魔法少女」は実に素晴らしく、どんな職種でも魔法を使える。
だが、その反面威力や効果などは能力が元になる為、戦士でも魔法は使えるが威力や効果は期待は出来ない、何故なら戦士はレベルアップ時に力やスピード、HPなどに振り分けられ、魔法などに必要な精神力や、MPなどが上がり難い為、このスキルを生かしきれない。
「しかし、亮くんは遊び人なのは好都合なのよ、何故なら遊び人は能力は平均してあがるから、訓練次第で魔法使いと遜色ない力を発揮できるの!」
ナオミ・スカーレットの力説で亮くんの眼に希望の光りが宿る。
「じゃ、僕でもちゃんと戦えるようになるんですか?」
女の子にしか見えないので、僕っ娘に見える・・・
「もちろん!その為のトレーニングもちゃんと考えているから期待しててね」
一日目はまずは水の流れを見つめる、もしくは触ったり、飲んだりと水に接する所から始める。
イメージ力が魔法の源となる為、基本となる訓練方法だ。
深いイメージ力は威力に比例する、イメージが本物に近ければ近い程、威力は跳ね上がる。
その為、森に住んだり、火山を見に行ったり、滝を見に行き、また砂漠を旅したりと四大元素に触れることで爆発的な威力向上が狙えるのは魔法学会でも、効果は実証されている。
そうゆう意味では森と川が流れる環境は基礎力向上には打ってつけだと言える。
「触るだけでいいんですか?」
こんな感じでいいのだろうか?
「ん?不安?」
「え、えーまあ」
ナオミは少し考えてから、辺りを見回してから一つの岩を指差し
「亮くん、この岩に魔法で攻撃してみて」
意図が分からないがとりあえず攻撃力の高そうな魔法を詠唱し始める。
「ファイアーボール!」
杖の先から炎の玉が岩に襲い掛かる!
的になった岩の先が砕ける。
「始めてにしたらこんなものね、これから毎日一回詠唱して貰うから、それ以外は只、水に触れ、炎を眺め、木々に触れ、土に触れなさい良いわね?」
言われた通りにする。
こんな事で本当に向上するのだろうか?
川の水に手を入れる。
・・・冷たい、あと水の流れる勢いが気持ち良い
こんなに冷たかったかな、するすると指の隙間を通り過ぎる感覚
川辺に寝そべり、川に手を入れる。
草の香りと土の香り、こんな香りだったかな?
今まで知ってるようで知らなかったように感じる。
そんなことを漠然と感じながら勇治さんとナオミさんの特訓を眺める。
日が暮れはじめてご飯の準備と焚き火を起こし、晩御飯を食べた後、夜になりパチパチと鳴る焚き火を眺める。
・・・暖かい
こんなにゆっくり焚き火を眺めたことなんて今まで無かった気がする。
いつも、ダンスと歌の練習ばかりでキャンプなんてしたことは無かったのでとても新鮮に感じる。
「人間本来の生活はどう?良いもんでしょ?」
そう言われ我にかえる。
「ええ、焚き火ってこんなに綺麗だったんですね」
本音だった、どうしてこんなに落ち着くのだろう・・・
人間本来の生活、原始の生活、星が凄く綺麗に見える。
街から大分と離れたからか、星が何時も以上に美しく感じる。
いや、いつもより確かに沢山に星が見える。
焚き火を眺めながらゆっくりと眠る・・・
二日目
朝目覚めてから、朝食を食べてから、またナオミが指し示す岩を標的に詠唱する。
大きさは昨日と同じ、ただ、何だろうか?昨日と感じが違う
炎の熱さをもっと強く感じる。
「ファイアーボール!」
昨日とは比べ物にならない大きさの炎の玉が岩に向かう
岩があった場所は跡形もなくなっていた・・・
え!威力が向上してる?
昨日は先を砕く程度だったのが、今度は完全に破壊するまでの威力に向上していた。
「まあ、こんなもんでしょう、今日も同じ事を一日してね、貴女がもっとイメージを深めれば深めるほど、この特訓の効果は跳ね上がるから頑張ってね」
間違い無かったでも
「凄いです、この調子で頑張ります!でも、何気に女の子扱いは止めてください!」
ナオミさんが舌打ちしたのが聴こえた・・・
それから毎日、川で泳いでみたり、炎で何か燃やしてみたり、風を感じる場所へ行ってみたりともっと深くイメージ出来る様に工夫するようにした。
自然に触れれば触れる程、イメージが強くなり威力も強くなった。
それに直ぐ側で自分と同じ様にドンドン強くなっている人がいると良い刺激になった。
そんな中、レベル3の特訓を眺めているとナオミさんが
本気の構えを見せる!
あ、あれは!
勇治さんが本気の一撃を放つと同時に吹っ飛ぶ
まさか、生でステインガー・スカーレットのカウンターレディーが観れるだなんて!
と言うか何が起きたのか全然見えなかった。
生涯無敗で謎の引退をした格闘家の本気を生で見たけど
全然衰えを感じさせなかった。
「何したんですか?」
勇治さんに走り寄り、介抱しながらナオミに聞いた。
「いや、思わず本気を出しちゃった、ここまで綺麗に決まるとは思って無かったから、とりあえず、起きるまで寝かしておきましょう」
結局、勇治さんは夕暮れまで意識が戻らなかった。
本人も何が起きたのか分かってない様子だった。
ユニークスキル「カウンターレディー」の弱点は分かったけど
魔法が使えない勇治さんには攻略する術は無かった。
「とりあえず、明日からカウンターレディーは封印するわ」
とナオミさんが言った。
そうするべきだと思ったが、勇治さん本人は否定した。
「カウンターを怖れて攻撃出来なくなるのは良くないので使って下さい、モンスターでもカウンターを使うのも居るかも知れない、どうかお願いします」
自分が恥ずかしくなった・・・
この人は自分の非力を隠そうともしない、前しか見ていない
トクッんと勇治さんの横顔を見ていて胸が高鳴るのを感じた。
この人に付いて行こう
この人には負けない様に
自分ももっと強くなれるようにと強く思った夜だった。