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終電後のバンドメンバー

作者: 赤城 ゆう

 時計の針が天辺を指そうとしていた。

 バンドの練習終わり、ファミレスの席では話すことも少なくなっていた私たちは席をたった。

 私以外、電車が無くなっていた。

 何をファミレスで話したか、記憶を辿っても不明瞭になっているのに、何をこんな時間までしていたのか、我ながらに可笑しくなっていた。

 しかし、電車が無いのは大問題であった。

 しょうがない、私は自分の家に泊まるようにと提案した。そしてそれは了承された。初めてのことだった。

 バンドメンバーとは二年の付き合いとなっていたけども、お互いの家になど行ったことはなかった。

 だからだろうか、その帰り道はとても楽しかった。静かな終電、明るいようでそうでもない蛍光灯、ファミレスの時のように話をしながら、その静かさの心地よさに私たちはワクワクした。

 私の地元駅は出口が一つだけの小さな駅だ。しかしその駅前には美味しいラーメン屋や居酒屋、数件のコンビニがある。ドラマーのRがコーヒーが買いたいと言ったからコンビニに寄って、お菓子と飲み物を買った。それから、外に出ると、驚くほど寒かった。

 隣を見るとマフラーに顔を埋めるベーシストのTがいた。

 まだ秋も初めだというのに夜はもう冬将軍の影が手を伸ばしているのだろう。

 予想外の寒さに足が速くなっていく私たち三人は静かになっていた。私は空を見上げてみたけど都会に星空はない。

 家に着いた。

 私は着ていた薄手のジャケットを脱いでパジャマに着替えて、客人である二人に温かい飲み物をだした。

 こういうとき二人は私を面白くいじる。

 コーヒーを淹れてる姿が疲れたサラリーマンのようだと、今回は言ってきた。私は気にせず私の分を含めたコーヒーを淹れた。受け菓子はコンビニで買ったクッキーをだした。

 しばらくテレビをつけて、それを見ながら甘さと苦さ、ちょっとしたコクを交互に味わいながらまた三人は無言だった。

 ふと、Tが何かゲームは無いのか?と聞いてきたので、トランプを私は棚から引っ張りだして二人に配り大富豪を始めた。

 無言のまま続ける私たちにはそれが良かった。

 気をあまり使う必要はない。無言でも重圧なんてない。私はいつもこの関係を嬉しく思う。人付き合いの理想である。お互い知ってるようで知らないのに、そこに話題を合わせず、話すことがなければ話さない関係。ストレスのない関係だ。

 大富豪は三回目が終わって夜は黒一色を保って大分経っていた。

 私には抵抗が許されないほど睡魔が忍び寄っていた。二人に提案して、私は自分と二人の布団を敷いた。

 電気を消して私はこんなにも暗い部屋だったのかと気づいた。

 暗闇の中、TとRは話を始めた。内容は自分たちの恋愛だった。二人には恋人がいる。どちらも可愛い彼女で劣等感を感じないわけではない。しかし、それ以上に二人の幸せが私の音楽には必要だから、二人には幸せでいて欲しいと心から思っている。

 しかし、男女の関係というのは難しい。Tは最近喧嘩をしたという。おもにRが答えていたが、かなりTは悩んでいた。

 私は布団に包まりながら、Tに私の考えを言った。まあ、彼のほうが恋愛経験は多いから、言うなれば私の価値観を喋ったまでだった。

 人間関係というのは複雑で難しい。糸と糸に例えるなら、織られた美しいものには簡単にならない。絡まってしまえばたちまち私たちは逃げてしまう。だから私は人間関係に関して難しいことは”考えない”ようにしている。相手を思うことはする。けれども、それ以上に私の感情を入れないように努めている。そうすれば、人間関係というものに悩む要因は減るからだ。

 ここまでを話すとTは何故か微笑んで、納得したように目を瞑った。

 人間関係というものは大切だ。だから私は考えたくない、深くは。


 いつの間にかの朝だった。二人はまだ寝ている。

 私は目覚ましに今練習している曲を流した。アップテンポの曲に彼らは身を起こした。私は可笑しいと思うが音楽が流れると体が勝手に動いてしまう。横にあったギターを私は抱えて曲に合わせて弾き始めた。

 二人も同じだった。体を動かし、楽しさを表現していた。

 その時に私の中に流れたものは縒られていく糸が一つの塊になっていく感覚だった。

 この瞬間がつながっている。そう感じた。

 この関係が自分の求めているものだと確信した。

 私たちはめったに自分の私情など話さない。傍から見ればビジネスライクな関係にも見えるだろう。しかし違う。私たちは繋がっているのだ。音楽というもので。

 たった一つである。音楽のただ一つだけで繋がっている。これが脆いと思うだろうか。

 この関係は一部の人にしか分からないであろう。ただ、この一つの繋がれた糸が私たちの間の幸福的な瞬間なのだ。ファミレスで取り留めのない話をしなくてもいい、話題なんて下らない。世の中にどのような出来事があっても関係のないつながり。音楽さえあればそれでいいこの感覚を朝日を受けた体は喜んでいた。

 よく”関係を築く”なんてことをいうが、そのための繋がりは私たちのよりも脆い。いくつもの細い管を通しても太く強い一本柱には敵わないのだ。

 私は二階に上がって朝食の準備をした。

 二人はその姿をサラリーマンのようだと、笑っていた。

 いかがでしたか?

 恋愛ものではない私小説ではございますが、人間関係というものからは離れていません。

 何でしょうね?人間関係というのは。様々な形があって面白い。だからこのテーマからは逃げられないんでしょうね。

 セリフが無いのはあまりしゃべらなかった一夜だったからでしょう。音楽だけで強く繋がった彼らに言葉はいらない。私はそういう関係を自慢したかったのでしょう。

 そんな私を見守ってくれたら幸いです。

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