キスの味は
美味しそうな匂いに、私は眼が覚めた。
台所では大好きな彼が背中を向けて立っていた。
普通の女の子なら、「お帰り。」とか「寂しかったよ~。」とか、
「いつの間に帰ったの、起こしてくれたらいいのに。」などと
可愛く後ろから抱き付くだろうが、そんな真似は私にはできない。
私のプライドが許さない。
私は甘えたいところをぐっとこらえた。
私は気配を消しながら、彼の背後に近付き肩甲骨のど真ん中に
右の拳で突きを入れようと構えた瞬間、
「やめろ。火を使っているから危ない。」
彼は振り向きもせず冷たく言い放った。
まったく隙がないというか、愛想がないというか、
彼もまたある武道の黒帯であった。
「お土産は買ってきたんでしょうね。」
買ってこなかったら、顔面に正拳突きを入れる気で聞いた。
「怖いなあ~。買ってきましたよ。
忘れるはずがない。忘れたら殺されるからね。
ほら、551の三点セット。
温めたし、スープも作ったから、食べよう。
顔を洗ってきて。泣いた跡がある。」
「ふ~んだ。泣いていませんけど。」
私は、洗面場に走った。
急いで鏡を見ると、涙の跡はなかったけど、
薄メイク崩れはあったので、素早く洗顔をすませた。
自分で言うのもなんだけど、私はすっぴん美人だ。
そんでもって、撮影会モデルみたいにボン・キュー・バンの
スタイルではないけどさ、スレンダー美人ってやつよ。
しおらしく街を歩いていると、必ずナンパされる。
それなのに、あいつはこんな私を置いて・・・。
「お~い、まだか。料理が冷めちゃうぞ。」
彼の声に私は思考を中断した。
「そんな大きい声で言わなくても聞こえる。」
私は、真っすぐテーブルにつかず、冷蔵庫から
缶ビールを2本取り出した。
「へえ~、珍しいね。風呂上りじゃなくて、今飲むんだ。」
「うるさい、今日は飲みたい気分なの。付き合え。」
私は、彼に缶ビールを差し出すと、彼は笑いながら
冷蔵庫から冷えたグラスを取り出した。
彼のこだわりは、こんなところにも表れる。
私からしたらどうでもいいじゃんと思うけど、
実際常温のグラスに入れて飲むと、
缶ビールを直に飲むより美味しく感じるし、
冷えたグラスだとよけい美味しく感じるから困ったもんだ。
「いただきま~す。」
私は、素早く箸を伸ばした。
551の三点セット、恐るべし。
コメントする間も惜しいくらい、激ウマだ。
何よりも、一人で食べるよりめっちゃ美味しい。
そんなことを考えながら、彼を見ると目があった。
「何だよ~、顔になんかついてるか。」
私は内心ドギマギしながら聞いた。
「 ついてるよ。
切れ長でキューと少し吊り上がった大きくて二重の
美しい瞳がね。」
この野郎~って思いながらも、つい顔が崩れる。
美味しい料理を食べているせいか、
ドンドン機嫌がよくなるから不思議だ。
「ふ~んだ、おだてても何も出ないぞ。」
彼は何も言わず、笑った。
ヤバい、この涼しい瞳の笑顔にやられる。
私はあわてて、肉団子に箸を伸ばした。
「そんで、どうだったの。
撮影会とやらは・・・・・。」
本当はもっと早く聞きたかったけど、
しゃくにさわるから我慢していた。
「それがね・・・・・」
「何だよ。もったいぶらず、早く言えよ。」
「綺麗は綺麗だったけど、僕が抱いていたイメージと違った。
やっぱ、おまえの方が良い女だよ。」
「ずるい~。」
私は意地を張るのをやめて、彼に抱き着いた。
私の方から、激しいキスをする。
彼とのキスは、551の味がした。
レースクイーンは、レースクイーンだけやっているのではありません。
彼女らは、それぞれ事務所に所属する芸能人なんです。
ファッションモデル、撮影会モデルをはじめ、テレビ、ラジオ、
イベントにパチンコ、競艇のCM、いろいろな仕事をやります。
ちなみに菜々緒さんも、レーククイーンやってました。
僕は、個人的にはレースクイーンを崇拝しており、
今後の活躍を応援しています。