勉強
人間は情報の80%を視覚から得る。
その情報がない場合、多くの人はあまりに不自由かと思うかもしれない。だが、目が見えないから何も出来ないわけではない。
目に不自由がある人の8割が途中で視力を失っている。生まれつき視力が不自由な方を先天盲と言う。
先天盲の方は生まれたときから一生、視覚からの情報を得れないため視力がないことを不自由と思わず、生活もそれなりに送れる。
逆に見えている状況から見えなくなると、生活が大きく変わるので慣れるまではとても苦労することが予想できる。
視覚に不自由な方の部屋はとても綺麗で、いつも決まった場所に同じ物が置いてあることが多い。
それを頭の中に完璧に記憶して生活を送る。
だから家族などに物の位置を変えられたりすると困ることがある。
料理をする際、冷蔵庫のどこに何があるかを部屋同様覚えているため、そこから必要な分を取りだし調理する。
火は危険なためオール電化などが多い。
外出の際、自分の行動範囲内であれば頭の中に地図が完璧に出来ている。
誘導ブロックを頼りに歩く人にとってブロックの上に自転車やお店の看板などがあると、歩くのに苦労してしまう。
横断歩道では音響信号機であれば信号が青か赤か判断できるが、音が鳴らない信号機の場合、周りの歩行者の歩く音や車の進行方向の音が自分か同じかで青か赤かを判断する。
ただ周りに人がいないときや、車がいない時、渡っていいのか悪いのか判断が難しくなる。
パソコンを使いメールや調べもの等もでき、人によっては庭に花を植え、育てたり雑草を抜いたりと、一般の人と変わらない生活を送っている方は多くいる。
「良、何読んでるの?」
俺が大学の図書室で視覚に不自由がある方に関する本を読んでいると、友人の斎藤準が話しかけてきた。
大学で知り合って、とてもノリのいい仲のよい友達だ。
見た目は普通にかっこよくて、モテそうなのだが俺達が理系の大学で男女比が9:1のため、出会いがなく困っている。
「透明人間になって女風呂に突入する方法」
俺はふざけて悪どい顔をしながら答える。
「何それ!?!?!!?!?!? ずるい!!!!! 俺も読む!!!!!!!!!!!」
準は物凄い速さで俺が読んでいた本をひったくった。
「なになに、目の不自由な方は服を買う時、色の組合せがわからないのでお店の人に選んでもらったり友人に選んで......って目が見えなきゃ風呂覗けねぇじゃねぇか!!!!!!!!!」
「ツッコムとこそこかよ!www」
俺は思わず図書館で声をだして笑ってしまう。
すると周りにいた勉強している人や読書している人からの鋭い視線が一気に集まり無言の圧力が送られてくる!!
[うるせぇよ]
[ここ図書館なんだよ]
[静かにしろよ]
[女風呂に透明人間で.....ロマンだ....]
[気が散るだろ]
[タラコスパゲティうますwww]
[集中力切れるだろ]
「「す、すみません.....」」
視線だけでメッセージをくみ取った俺たちは思わず謝る。
そして何か別のも混じっていた気が...
「で、何で目の不自由な方の生活って本読んでるわけ??」
「や....なんとなく」
昨日会った新垣凛という女性、見た目は同じくらいの年齢で綺麗な人。
困っている人を助けた時、助けられは人は喜ぶものだと思っていた。だけどあの人は違った......助けられたことを悔しがり、助けられてしまった自分を責めているかのようだった。
俺は余計なことをしてしまったのだろうか?
だけどあの場で助けずに見捨てるのもを人としてどうかと思う。
そして新垣の言葉が頭をよぎる。
「私は......産まれたときからずっといろんな人に迷惑をかけていたんです。目が見えないせいで一人では何も出来なくて、いつもたくさんの人に迷惑をかけた......」
「だから迷惑かけっぱなしではもう嫌なんです......」
その気持ちは想像できなくはない、俺も同じ立場なら同じことを思うかもしれない。
でもそれはあくまで俺の想像で......実際は俺が想像している何倍の辛さを感じているのだろう。
そう思うと、目が見えない世界を知りたい、そう思い図書館に来ていた。
俺が昨日のことを思い出していると準は不思議に思ったらしく、聞いてくる。
「良......お前、目......悪いのか?」
「あ、違う違う! 病気とかじゃないから安心して。俺の視力は女風呂覗くために8.0ある」
「あはは! マサイ族もビックリだな!」
準は小声で笑った。そして時間が11時50分になるのを確認すると机に置いてあった荷物を片付け始める。
「食堂混む前に行こうぜ、席取れなくなっちゃう」
「そうだな」
俺も片付けを始めた。そして片付けながら疑問に思ったことを準に聞く。
「そういや準が図書館いるのも珍しいな、何してたの?」
「俺?俺はこれ読んでた」
準はそう言って一冊の本を掲げる。
タイトルは
[服の上から胸の大きさを判断する10の方法]
「お前......最高かよ......」
「だろ?」
そんなくだらないやり取りをしながら俺達は食堂へ向かった。