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大切なこと  作者: タスマニアン
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お礼

 タオルを濡らすとき、蛇口の下に左手でタオルを持って、右手で蛇口を掴んだ。そして回そうと右手に力を入れる。



 かたっ! けっこう力入れてるのに回らない!



 俺はしゃがんでる姿勢だったが中腰になり、左手でタオル越しに蛇口の水の出る部分を掴んだ。



 これで思いっきり力が入る!



「ぬんっっっっっ!!!!!!!」



 蛇口が勢いよく回る!!!



 勢いよく飛び出す水!!!!



 左手でタオル越しに水の出る部分を掴んでいたせいで水が手にあたり水の起動が変わる!!!



 そして股間に勢いのついた大量の水が直撃!!!!



「ふぉおおおお!!」



 予想外の衝撃が股間に伝わり驚きの声が出た。慌てて蛇口を閉めて水を止めるが俺の股間はまるでお〇らしをしたような状態に。


「......」


 水飲み場は足元がレンガで出来ていて、周りの芝生より一段高くなっている。きっと女性は水の勢いに驚いて一本下がり段差から落ちて転けたのだろう、そして捻ってしまった。



 水が股間直撃と捻挫......直撃のがましか......。



 無理やり納得してタオルを女性に持っていく。






「はい、濡らしてきましたよ!」



 俺は濡らし、適度に絞ったタオルを持ってベンチに戻ってきた。



「ありがとうございます、でも、ハンカチはここにありますよ?」


「あ、自分で持ってきたタオルを濡らしてきました!」


「ええ! そんな申し訳ないです」


「気にしないでください! ちなみにあの蛇口硬いですね、出たら出たで勢い強くて俺も少し濡れちゃいました」



 主に股間が。



「ほんとにありがとうございます。私もダスティに水を飲ませてあげたくて使ったのですが......今日はついてない日みたいです」



 女性はそう言い自虐的に微笑んだ。そして右手を前にだし、手のひらを上に向けたので俺はタオルをその手にゆっくりのせる。


 女性は前屈みになり足首にタオルをあて始めた。俺は隣に座っている女性とダスティを見てあることを思う。



 いつもなら初対面の女性と隣同士で座って会話がないなんて気まずくて仕方ないはずなのに......。この人とは不思議と沈黙が気まずないな。そしてダスティ可愛い......あ、前屈みになってるからTシャツの首元が垂れてる!! ということは!! 今前に立てば お っ ぱ



バシィィイン!!!!



 自分のあまりにゲスい考えに自分自信に全力でビンタを喰らわした。


 いきなりなったtake myselfビンタの音に女性がビクッ!と反応する。ダスティも同じくビクッ!とし俺を見つめてきた。

そして姿勢を直しながら女性は良に尋ねる。



「今のは何の音ですか?」


「クズに制裁をくわえたまでです」


「......?」


「おふぃにならさぶ」



 頬が腫れてきた。


 それからまた女性はしばらくタオルで足首をおさえて、俺は暑いくらいの日差しとたまに吹く風の心地さと、不思議と気まずくない感覚に心地よさを覚えていた。





「あの......」



 女性は姿勢を直しながら気持ち少し顔を俺の方に向け、話しかけてくる。



「はい」


「ほんとにいろいろ申し訳ありません、お陰さまでだいぶましになりました。今ならゆっくりですが歩けると思います」


「いえいえ! よかった! 無理しないでくださいね」



 俺は微笑みながらそう言う。だが対照的に女性は申し訳なさいっぱいという表情だ。



「はい、ありがとうございます......。タオルは必ず洗って返しますので」


「いえいえそんな! タオルも自分で洗いますので大丈夫ですよ」


「いえ、必ず洗います。あと他にもお礼させてください」



 女性の表情は暗いままで、その言葉には強い意志が感じられる。



「いやいやいや! お礼なんて大丈夫ですよ! 気持ちだけで十分です」


「いえ、お願いです。お礼させてください」


「いやいや! ほんとにお気持ちだけで「私は!!!!」



 俺の言葉は目の前の女性から出るとは思えない大きい声に遮られた。

 驚きで言葉を失っていると女性は今度は怒鳴ることなく普通の声量で言葉を続ける。



「私は.......産まれたときからずっといろんな人に迷惑をかけていたんです。目が見えないせいで一人では何も出来なくて、いつもたくさんの人に迷惑をかけた......」


「だから迷惑かけっぱなしではもう嫌なんです......」


「......」



 俺はこの女性がこんなことを思っていたなど想像することも出来なかった、出来るはずもなかった。

 きっとこの人は目が見えている人からしたら、想像も出来ないほど苦労してきたのだろう。それを考えると女性がお礼にこだわることへの理解は簡単で、これ以上断ることなど出来なかった。



「すみません.....怒鳴ってしまって.....」


「いえ、こちらこそすみません.....。ではお願いできますか?」


「はい......。今さらですが、お名前は?」


「あ、はい、片桐良です」


「片桐良......さんですね、片桐さんはまたこの公園には来ますか?」


「はい、いつも火曜と木曜の3時頃からあのベンチにいます」


「わかりました。では明後日の木曜日の三時に、またここで会えますか?」


「......はい」


「ではまた......。ほんとに今日はありがとうございました」



 女性は俺に向かい深々と頭を下げると振り返り



「ダスティ、go」



 そう言って少し足を引きずりながら歩いて言った。複雑な気持ちでその後ろ姿を見ているとあることに気づく。



 あ、名前聞いてない!



「あの!」



 俺は少し大きな声で女性に話しかけた。

 女性は立ち止まると、ゆっくり振り返る。



「名前.....なんですか?」


「......新垣凛(あらがきりん)です」



 それだけ言うと新垣凛はまた歩きだした。



新垣......凛......



 その後ろ姿が見えなくなるまで見守ったあと、俺は自分のリュックを背負い、自分家への帰路を歩き始めた。




 目が見えないで生きていく


 俺には考えられないことだ。見えているのが当たり前で、見えないことを考えたこともなかった。


 目が見えないで歩くってどういう気持ちなんだろう......?


 ふと思いつき、比較的まっすぐな道で試してみることにした。成人男性が4人くらい横に並んで歩けるくらいの道幅で、右側には森林公園の木が並び、左側は大通りで車が絶えず通り過ぎてる。


 俺は前を見ると少し先にこちらに歩いてくる母親と小学生くらいの男の子のが手を繋いで歩いてくるのが見え、後ろを振り返ると遠くの方から自転車が一台こちらに向かってきている。


 その親子は歩道の左側を歩いてるので俺は右側により、目をつぶって歩き始めた。



 1歩目.....2歩目......



 ゴー!っと車が通るおとが絶えず左側から聞こえる。



 3歩目......4歩目......



 俺は今まっすぐに歩けているだろうか? 足元に石ころや障害はないだうか? 後ろから来る自転車にぶつけられないだろうか?


 恐怖のあまりいつもの歩くペースの倍以上遅くなり、歩幅も狭くなる。



5歩目.....6歩目......



 怖い......! 今すぐにでも目を開けて安全を確認したい......!ちゃんとした地面を歩いてるつもりなのに足がふらつく!


 歩き出す前に障害物がないとわかっていても思わず手を前に出してしまう。



7歩目......8歩目......



 10歩だ! あと二歩歩いたら目を開けよう!


 そう決意した。そして9歩目を歩こうとしたとき、何か忘れているような気がした。



 あれ? 俺何か忘れているような......



「ママー!あの人目つぶってゾンビみたいに歩いてるー!!あー!!お〇しょもしてるよー!!!」


「こら!たーくんシーッ!!」


「......」



 俺はそのあとボ〇トもビックリな速さで全力疾走して家まで帰った。



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