準
「ただな、その人耳が聞こえないんだ」
「.....」
おお驚いてる驚いてる。まぁ予想通りのリアクションだな
良はまた座った。そしてボソッと呟く。
「......巨乳」
まだそこかよ!!
「え、ちなみにどこで出会ったの?」
「俺のバイト先」
「準のバイト先って、近くの小学校の学童だよな? 確か子供の遊び相手とか言ってた気が」
「そうそう、共働きで小学校に仕事終わるまで子供を預けてる人のガキンチョ達の遊び相手、あと宿題教えたりとかな」
「その人準がバイト始めたときからいたの?」
「あぁ、バイト始めたときからずっと気になってた」
「そうなんだ...え、でも耳聞こえなくて子供の相手出来るの??」
「あー正確には全く聞こえない訳じゃなくて、補聴器ありで高い音なら聞こえるんだ」
「高い音???」
良は何故か高い声で言った。
「そう高い音。高い音はなんとか聞き取れるけど、低い音が聞こえにくい、聞こえないって言ってもいいのかな」
「そうなんだ...あ! 子供達は声高いから聞き取れるの?」
「そうそう! でもちゃんと全部聞こえてる訳じゃないから、口の動きを見て何話してるか聞き取れなかったとこ補足していくんだって」
「あ! 聞いたことある! 口の動きだけで相手が何話してるかわかるやつ! なんだっけ?どく......」
「読唇術」
良が迷っていたので答えを言う。
「そうそうそれだ! それ出来るなんてすごいよなぁ」
「ほんと、すごいんだよ」
その人のことを思いだし、思わず笑顔になる。
「手話も出来るから子供に手話教えたりして、で子供達が一生懸命手話覚えようと真似してるのが可愛くてさ......一生懸命真似してる子供を見て笑ってるその人が気になって......」
仲いい良に言おうと決意して話したはいいが、途中で恥ずかしくなってくる。
チラッと良を見ると、微笑みながら俺のことを見ていた。
「いいね、その人何歳なの?」
「一個上だよ」
「歳上か~エロいなぁ~」
「なんでだよ!」
あはは!と二人して大声で笑った。
俺はまだ言いたいことがあるから言葉を続ける。
「まぁそれでその人は高い音しか聞こえないから、俺の声は聞こえないんだ」
「....」
「会話は出来るけど俺と話してる時はじっと俺の口を見るんだ。俺も意識して口を大きく動かすようにしてるんどけど、たまに通じないこととか、距離が離れてると口の動きがわからなくて会話出来ないことがあるから......」
「だから手話を勉強しようと思うんだ」
そこで一呼吸おいてから、言葉を続ける。
「手話と、口使ってちゃんと会話して、ちゃんと想いを伝えたい」
そう言って良を見ると、良は優しく微笑んでいた。
「準......お前イケメンすぎだろ......」
むしょうに恥ずかしくなったから俺はいつものようにふざけることにした。
「だ、だろ? ちゃんと本も買ったんだ」
リュックの中から本を取り出して良に見せる。
タイトルは
[初めてのデートでハプニングを装い相手に抱きついちゃおう!ちゃっかりイタズラもしちゃう10の方法]
「おっと失礼」
俺は急いで本をしまう。そしてさっと別の本をだす。
[ナメクジでもわかる手話、入門 第一章 お前の母ちゃん、ちょうちんアンコウに似てるな]
「準....訂正、お前ゲス過ぎんだろ! あとちょうちんアンコウに似てるなって絶対言うなよ!」
「あはは! 言わねぇよ! 言うのは良の母ちゃんだけだよ」
「お前! 確かに俺の母ちゃんちょうちんアンコウに似てるけど人の母親バカにするなよ!!」
「ほんとに似てるのかよ!」
二人の笑い声が、大学の中庭に響き渡った。