色
「手伝いましょうか?」
「片桐さん?」
凛は良の方へ顔を向ける。
「はい、片桐です」
「今日も来たんですね」
凛は微笑みながら立ち上がった。
「ええ、急遽時間が出来たので来ました」
「よかった」
「え?」
「片桐さんに昨日のお礼ちゃんと言えてなかったから、ちゃんと言いたくて来ました。ここに来れば片桐さんいるかなって思って」
「.....」
律儀な新垣さんが俺に会いに来る理由はそれぐらいしか思いつかないけど、それでも会いに来てくれてうれしいな......
「昨日は濡れてまで私を送ってくれて、ありがとうございます」
「いえいえ、俺こそ嘘ついて新垣さんを傷つけてごめんなさい」
「もう、片桐さんは悪くないのに」
凛はそう言ってほほ笑む。
ああ、この笑顔が見たかったんだ
「次からは正直に濡れてまで送りますって言いますね」
良が笑ってそう言うと、凛は肩にかけていたカバンから折りたたみ傘を取り出して
「いえ、同じ失敗は繰り返しません」
と笑った。
つられて良も笑う。
「ダスティに水あげるんですか?」
「はい、今日はほんと熱いからダスティも喉乾いてるだろうと思って」
ただ、と続ける。
「ここで驚いてこけて捻ったから......ちょっとトラウマです」
「そうですよね、ここ硬いし水の勢いも強いし、俺も前濡れたんで軽くトラウマです」
主に股間が。
「俺水入れるのやりますよ」
「......お願いします」
自分でやろうか迷ったがトラウマには勝てなかったらしい、左手に持っていたボールを前に出した。
良はボウルを受け取る。
「水が跳ねるかもしれないので新垣さん離れててください」
「わかりました、じゃあベンチに座ってます。ダスティ、チェア」
凛はそう言うとダスティとベンチの方へ歩いていった。
良は凛が離れたことを確認すると、左手のボウルを蛇口の下に持っていき、右手で蛇口を掴んだ。
ゆっくり回そうとするが、相変わらず硬くて回らない。
良はしゃがんでいる姿勢から中腰になり、右手に力を込める。
前回は左手で水が出るとこ掴んだせいで大変なことになったから今回は気をつけなきゃ
でも左手はボウル掴んでるから大丈夫なはず!
「ぬんっっっっっ!!!!」
勢いよく回る蛇口!!
飛び出す水!!!
ボウルの底に勢いよくあたり360度綺麗に水が跳ね返る!!!
跳ね返った水が股間に直撃!!!!!
「ノォオオオオウウウ!!!」
お気に入りのベンチの左側に座ってる凛に近づく。凛の足元にはダスティが伏せ、いつものように足に頭を乗せている。
「お待たせしました」
「ありがとうございます、濡れませんでしたか?」
「ちょっとだけ濡れましたけど、全然大丈夫です」
「え、拭くものいりますか?」
「大丈夫です! ほんとにちょっとなんですぐに乾きます。ほらダスティ、お飲み」
良はダスティの顔のそばにボウルを置いた。
ダスティは水を見ると顔を上げ凛の顔を見上げる。凛に「飲んでいいの?」ときいているようだ。
「いいよ、飲みな」
足からダスティの重みがなくなってわかったのだろう、凛は優しくそう言うとダスティの頭を撫でる。そのスムーズに頭を撫でる動作は、目が見えない人とは思えないほどだった。
きっと何度も何度もその姿勢からダスティ頭を撫でてるんだろうな
良はそう思いながら凛の隣に腰掛ける。
ダスティは許可を得ると立ち上がり水を飲み始めた。
良は改めて凛を見る。
白いTシャツと黒のスキニーのズボンだ。モノクロすごい似合うなぁ
気づいたら言っていた。
「新垣さん、モノクロの服装似合いますね」
「..........」
凛は何も言わずじっと前を見ている。
あれ......? 俺まずいこと言った......?
良がそう思っていると、凛が口を開く。
「片桐さん」
「は、はい!」
「モノクロって、白色と黒色のことですよね?」
「は、はい」
「......」
凛はそこで少し間を作ってから、こう言った。
「白色ってどんな色ですか?」