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第3話

 ちょっとちょっとちょっと!マジでありえなくない?この状況!



 私、アストレイアの王女ティセラはフォルツァーノ王国目指して旅立ったのだが、途中立ち寄った町でカデリナの異端審問官に囚われてしまった。私の身柄は偶然出会ったアストレイア王立大学学長ディスタンスによって証明されたのだが、彼とカデリナの聖司祭レクセウスが秘密裏に手に入れた「花」の正体を知ってしまったため、私はレクセウスに魔法を無効化する結界内へ閉じ込められてしまった。

 そして現在の状況、出られん。

「ぶるあぁぁぁ、出せやコラァ!!!」

 私はしっちゃかめっちゃかに暴れまくる。だがしかし。

 この球体状に張られた結界、魔法が使えない上に物理的な障壁になっているため、中で私がどうあがこうが全くムダってワケ。この結界の外に出るためには、術者であるレクセウスが魔法を解くか、術者と同等かそれ以上の能力をもつ術士が外側から結界を破るしかない。

 でもなぁ、この状況でレクセウスが術を解くとは思えないし、レクセウス以上の術者なんてそうそういるとは思えない。いたとしても、このカデリナ教会内の、隠された部屋の中へほいほいやってくるはずがない。

 どうすることもできないまま、私の時間に正確な腹時計が言うには小一時間が過ぎただろうか。あれこれと考えた脱出方法はどれも功を奏さず、私はもうめんどくなってその場にどさりと座り込んだ。

「ティセ、もう諦めちゃったですの?」

 幸か不幸か、小妖精ファムも結界内に閉じ込められている。ファムは私と双子の弟カイトにしか見えないはずなのに、レクセウスはその存在に気付いていたみたいね。

「そーいうわけじゃないけど、飽きた。」

「あ・・・飽きたってティセ、脱出できなかったら一生このままかもしれないですよ?」

「じゃあどうしろっつの・・・」

 私は膝を抱えて顔をうずめた。何だか疲れちゃった。目を閉じると急速に睡魔が襲ってくる。

 ほんの数分、うつらうつらとしていただろうか。こういう時って、夢なのか夢でないのか、記憶の断片が頭の中をいくつもいくつも掠めていくのよね。

 その記憶のかけらに浮かぶ、淡い金の髪・・・いつ頃の記憶なんだろう。多分とても幼い頃出会った人だ。小さな私は彼を仰ぎ見ないといけなかったから。顔もよく覚えていないけど、とても優しい目をした男の子。彼のことはこんなとき、よく思い出す。紫がかった薄桃色の空、月の光を反射する白の花の絨毯。異世界のような光景の中に彼はいる。どこでどうして出会ったのかも記憶の奥底ではっきりしないけど、彼のことを思い出すと何だかとても切ない気持ちになる・・・

 ふっと意識が浮上した。現実の私は相変わらず薄暗い部屋の球体の中にいたけど、さっきまでのちょっとめげそうだった私はもういない。

「そうね、諦めるにはまだ早すぎるわ。」

 私は言って立ち上がる。

「こんなとこで余生を過ごすなんてやってられないわよ。さっさとこんなとこおさらばして、カジノへ行くんだから!」

 そんな私を見てファムがほっとしたように笑顔になる。やれやれ、ファムごときに心配されてるようじゃ私もまだまだね。

「それでこそティセですの。もしかしていい考えが浮かんだですか?」

「全然。」

 胸を張って言うとファムはずっこけた。だってさぁ、そんないい考えすぐに出てくるもんじゃないじゃん?とりあえず、私は落ち着いて改めて室内を見渡した。もしかしたら意外なところに意外な抜け道があるかもしれないもんね?

 家具も調度品も無い殺風景な部屋だ。部屋の隅のほうに、物置のように何かの荷物が無造作にたくさん転がっている。扉以外は窓一つ無くて、息苦いったらない。

 ―――そして。

 レクセウスと学長が言う「花」、人ではなく妖だという少女。かけられた布の隙間から、鳥籠の中に閉じ込められている彼女の姿が見える。本当に人と変わらない姿、エプロンドレスを身に着けた彼女は庶民の女の子にしか見えない。色素の薄い肌に柔らかなウエーブのかかった髪、ぱちりとした瞳はまるでアンティーク人形のように可愛らしい。ただ、よくよく見るとその髪の色は薄明かりの中緑がかった銀色に鈍く輝いて、やはり人とは違うのだということを表していた。

「ねぇ、あんた。」

 私は少女に声をかけてみる。だが反応は無かった。

「聞こえてないの?妖さん。」

 再度声をかけてみるが、やはり反応は無い。あらら、ひょっとして言葉が通じないのかしら?

「ティセ、どうする気ですの?」

「どうするも何も、単なる好奇心よ。興味あるじゃない?この妖が何なのか。だから異文化コミュニケーションでもはかってみようかなぁって。でもダメね。妖には妖語しか通じないのかしら?ファム、あんた何か判らない?似たようなもんでしょ。」

「ひどいです!ファムは妖じゃないですの!」

 ファムはぶんむくれる。なーんだ、つまんないの。私とファムが言い争っていると、妖の少女が突然立ち上がり、私に向かって言った。

「ちょっと、さっきから黙って聞いてたら人のことアヤカシ、アヤカシって何なのよぅっ!あたしはニンゲンよ。アヤカシなんかじゃないのっ!!」

 おお?意外とこの子、強気でないの。レクセウスとのやりとりを聞いてたわけだから、私がアストレイアの王女だって分かってるだろうし、それでタメ口聞いてくる同世代庶民の女の子なんて普通いない。私は妖かどうかはともかく、この子自身に断然興味が湧いた。

「失礼したわ。私はティセラ。ティセラ・リエル・ディア・アストレイア。あなた、お名前は?」

「エレハイム・ナギよ。」

「おっけー、エレハイム、ね。そう言うってことは、今まで人として生きてきたってことよね?生まれはどこなの?」

「ルピナ村よ。イサフィールドの、ずっと東のほう。」

 うん、聞いても分かんなかったわ。つまり、ずっと遠くということね。

「じゃあ、帰りたいわよね。家族もそこにいるんでしょ?」

 私がそう言うと、エレハイムは大きな瞳を潤ませてこくりと頷く・・・かと思いきや。

「やーよ。あんな田舎、なぁんにもないし。パパはカイショウナシだし。エレは都会で王子様のハートを射止めて、タマノコシに乗るのが夢なのよっ!」

「・・・・・・」

 な、なんか見た目とのギャップの激しい子ね。私は思わず絶句した。

「なんだか、この子ティセにちょっと似てますのー。」

「そう・・・?」

 ファムの言葉はどうにも解せなかったけど、まぁいいわ。

「ともかく玉の輿に乗るにも、こんなとこにいたら始まらないでしょ。どう?私と共同戦線を張らない?」

 私がそう言うと、エレハイムは目をきらりと輝かせた。

「その話、乗るわ。ティセラさんはお姫様なんでしょ?だったら素敵な王子様のお知り合いもいっぱいよね?」

「まぁね。」

 素敵かどうかは知らんけど、まぁお知り合いはいるわよねぇ。

「あ、私のことはティセラでかまわないわ。」

「じゃ、あたしもエレでいいわ。友達はみんなそう呼ぶから。」

 私はエレにぱちっとウインクして言った。

「それじゃ、エレ。これからよろしくね。」



 それからしばらくの間、私とエレはそれぞれの生い立ちとか、好きな食べ物とか、コイバナとかについて話し合った。

「ちょっとティセ、さっきから乙女話しかしてないですの。脱出する気はありますの?」

 ファムが訊いてくるが、だってねぇ、仲間が一人増えたところで簡単に脱出する方法があるってんなら苦労せんっつーの。とゆーわけでファムの発言は軽くスルーする。

 エレの話によると、彼女は本当に普通の女の子として今まで生きてきたみたいね。その異質な髪の色も、村の人たちが異端視することもなかったのでエレ自身疑問にも思わなかったみたい。まぁ、ルピナ村って高所にあって外界と隔絶されているみたいだから、村人も鷹揚なのかしらね。ってか、一般的に銀緑・・・というのかそんな色の髪の人間なんていないんだって知らないだけだったりして。

 そんな平和な村で、エレは植物学者のおとーさまと二人暮らしをしていたそうだ。

「学者っていっても甲斐性なしの単なるキノコオタクなのよぅ・・・」

 ってエレは溜め息をついていたけれど。おかーさまはエレが小さい頃になくなったらしい。境遇的には、私と似ているのよね。

 彼女には物心ついたときから不思議な力があって、植物と対話ができるんだそうだ。その力は、特に蒼月アルカーシャの影響を大きく受けるらしい。彼女が妖と呼ばれるのもその力を所以とするものなのかしら。いやでも待てよ?妖って確か紅月ヴィエルジュの影響を受けて活性化するのよね。それに、植物との対話・・・ねぇ。魔法っぽいといえば魔法っぽいんだけど、どうなのかしら。少なくとも、うちの大学ではそういう系で研究してる人がいないから何とも言えない。

「で、んな平和に暮らしてて、何でフェリアージュの闇オークションで売られてたわけ?」

「それはねぇ、レクセウス様があたしを探してるのを知ってて、あたしを売ったサイアクサイテーのヤツがいるからなのよぅっ!!」

 私が訊くと、エレはふるふると肩を震わせた。怒り心頭なのは良く分かったが、事情はさっぱり分からない。

「どーでもいいけど、アンタ幼女拉致監禁するようなヤツに様づけする、フツー?」

「えー。だって素敵じゃない?レクセウス様。地位もお金もあって、イケメンなんてそうそういないわよ?それに、エレのこと探してくれてたなんて、運命の出会いかもっ。」

 ダーメだこりゃ。エレってば乙女モード全開で、わたしゃついていけんわ。

 とりあえず、その最悪最低の人はエレをオークションにかける価値があると知ってたわけだ。んな価値のある妖っていたっけなぁ?・・・いや、待てよ?

「そうだ。禁書・・・」

 唐突に私は思い出した。

 そう、教会が認めた正当なる歴史の影に、闇に葬られた裏の歴史というものが存在する。それらが綴られたものを総じて禁書というのだけど。勿論、禁書自体は公に知られてはいない。教会に悟られないよう歴史学者たちが内密に伝えているという代物だ。・・・って、私がどうして禁書について知ってるんだろ・・・どこかで読んだような気がするけど、うーん・・・まぁいいか。

 蒼月の影響を受けるってんなら、精霊・妖精・天使、まぁどれも異界に棲むとされている種族だけど、それらに属してるってことになる。その中で、創世の時代に人との争いに敗れたため、妖魔と烙印を押された種族がある。姿は人に似て、森の奥に棲まい、草や木や花と共生する世界樹より産まれし大樹の高位精霊。

「せラファタ族・・・?」

「!」

 はっとしたようエレは私を見る。ちょっと警戒したような表情・・・確か、セラファタの血はどんな病をも癒す霊薬となる伝えられている。だからこそ人に狩られ、抵抗した彼等セラファタと人との間で争いが起こったのだ。その話が事実で、もしもエレがセラファタ族だというなら、オークションの高額取引にも、彼女が花と呼ばれるのにも頷ける。けど、セラファタはすでに滅びた種族と言われているのよねー。人の目に触れないよう、ひっそりと生きていたということかしら。

「ティセラ、セラファタを知っているの?」

「知識程度よ。エレ、あなたセラファタなの・・・?」

 エレは沈黙する。痛いほどの静寂の後、エレは口を開いた。

「違うわ。あたしは人だもの。でも、ママが・・・セラファタ族だったって、パパに聞いたわ。」 

「つまりハーフってわけね。」

 そうなるとセラファタの血の効果って受け継がれてるのかしら?レクセウスが探してたってことは、あるってことよね、多分。でも、学長やレクセウスがどんな病を癒されたいってのかしら。

 はっ!学長・・・もしかして・・・頭のツルピカを気に病んで・・・!!

 そしてレクセウスは・・・ヅラね!間違いないわ!!あの若さでヅラなんて、大枚はたいてでも髪を再生させたいわよね。全てのナゾはこれで解けたわ。おまけに、ここを脱出する方法も思いついちゃった。

「ねね、私はともかく、エレのことはこのまま放っとかれる事は無いはずだわ。学長か聖司祭、あるいは二人ともかもだけど、それほど長くなくここに戻ってくるはずよ。そのときがチャンスだわ。」

 エレは私の話にウンウンと頷き、目を輝かせる。

 さ〜ってっと、果報は寝て待て、ってね!



 予想通り、しばらくすると学長が姿を現した。

「さて、行くぞ。」

 学長はエレの閉じ込められている鳥籠を魔力で浮かせると、その場に光の扉を作り出した。

「ちょっと、どこへ連れて行く気よ!?」

 私が問いただすと、学長は慇懃無礼な態度で答えた。

「ティセラ王女が知る必要はありません。」

「あっそう、いいわよ。それより学長、ここにいつまで閉じ込めとく気?私やカイトが帰らなかったらアストレイアがどうなるか、分からないわけじゃないわよね?それに、私には追っ手がかかってるもの。レクセウスは私が見つからない自信があるようだけど、私の魔力を追跡すれば、どこで消息を絶ったのかなんてすぐにわかるわ。アストレイアの人間はそれほど無能ではないはずよ?」

「・・・うむ・・・」

 学長は私の話を聞いて考え込んだ。おし、あと一押しか!?

「分かったら、その子を連れて行く前にレクセウスを呼びなさい。もう少し詳しく話がしたいわ。」

「姫のことは後ほど話し合うとしましょう。レクセウス様は今は忙しい。今はこれを運ぶほうが先ですからな。」

 チッ。使えないヤツ。レクセウスのパシリのくせに。

 その時、突然エレが倒れた。

「!!」

「・・・苦しい・・・」

 エレは胸の辺りを押さえてうずくまる。呼吸は荒く、ガクガクと震えている。

「どうした!?」

 学長も驚いて、エレに声をかける。その瞬間、学長が創りだした光の扉はフッと消える。

「すごく・・・苦しいの・・・」

 息も絶え絶えに訴えるエレに、学長は焦った様子だ。そうっと慎重に鳥籠を地面に降ろしてエレの様子を伺う。

「あらら、大切な商品が、大変ね。こんなとこに閉じ込めて、病気になっちゃったんじゃない?」

 私は焦る学長の背後から、それ見たことかってカンジで言ってやった。

「姫は黙っておいでなさい。こんなところで花を枯らすわけにはいかんのだ・・・!」

 学長は必死な様子で言うと、鳥籠の扉を開き、エレに触れようとした。

「いや――――っ!!触らないで!来ないでぇッ!!」

 エレは苦しみながらも、学長に抵抗して暴れる。学長もどうしようもなくて、途方にくれているようだった。

「当然の反応よね。あなたは彼女にとって見知らぬ男で、しかも自分を閉じ込めた相手だもの。学長では怯えさせてしまうだけだわ。私なら何とかできるかも・・・いいえ、無理ね。こんな結界の中に閉じ込められた状態ですもの。」

「む・・・」

 エレの顔色はみるみるうちに赤くなっていき、呼吸も不規則に乱れる。学長は考えあぐねていたようだが、自分ではもうどうしようもないことを悟ったようで、私に向かって言ってきた。

「・・・ここは、姫にお願いしてよろしいでしょうか。」

「私としても、彼女を見殺しにできないし、何とかしてあげたいわ。でも、この結界を解くことができるのはレクセウスだけなんでしょう?」

「・・・今、連絡をとります。」

 学長は掌サイズの月晶球を取り出した。学長の両掌の間で魔力に反応して、月晶球は静かな光を湛え始めた。

「ディスタンス、どうした?」

 レクセウスの声が、球体から発せられる。

「花のことですが・・・」

 学長がエレのことについてレクセウスに報告する。レクセウスは事のあらましを聞き終えると、少し考えた後こう言った。

「そちらのことはお前に任せる。僕は今手が離せない。姫の結界は解くが、くれぐれも事は慎重に運んでくれ。」

「了解しました。」

 話を終えると月晶石からは光が失われ、それとほぼ同時に私は結界から解放された。

「きゃっ!」

私は突然空中に放り出された格好になったため、そのままお尻から落下した。

「あたー・・・」

 あまりの衝撃に、涙が滲む。そんなことはお構いなしに、学長は私を上から見下ろして言った。

「では、頼みましたぞ。」

「わかってるわよ。」

 ちょっとは私の心配しろよ。ったく。私はお尻をさすりさすり、エレに近づいた。

「ちょっと、見せてね。私は、あなたをどうこうしようってわけじゃないから。」

 私は怯えているエレに優しく笑いかける。

「・・・これは・・・!」

「どうなのだ!」

「大変だわ!!学長、ここ、ちょっと見てくれる?」

 学長はしゃがみこんで私が示した場所をまじまじと見つめた。エレは警戒したような表情は崩さなかったが、今度は暴れたりはしない。・・・私はそろりと一歩下がった。

「?特に何もなさそうだが・・・?」

「もっとよく見て!ほら!」

 私は部屋に置いてあった何かの荷を後ろ手に持った。それは私にはずっしりと重い。

「ね?分かったでしょう?」

 私はその重たい荷を振り上げる。

「うむ・・・どのあたりが・・・」

 学長が振り返ったが、時すでに遅し。私の腕は重力に任せて振り下ろされる。

「!!!」

 びっくりしたような表情の学長の顔面にそれは命中した。がごっ、と鈍い音がして学長は昏倒する。あーらら、鼻血噴いて白目剥いたそのナサケナイ姿・・・大学の皆に見せてあげたいわー。意識の無い学長に、にこっと笑いかけて私は言う。

「分かったでしょう?こーいうことよっ♪」

 その瞬間、奇妙な浮遊感のような感覚が私を襲った。学長が意識を失ったことで、この部屋そのものに張っていた結界が解けたのだ。

「ティセ、やったですの〜!」

 ファムが嬉しそうにくるくると飛び回る。

「まだ、油断はできないわよ。レクセウスはこの事にすぐ気がつくでしょうしね。早いとこオサラバしましょ。」

 私はまだ蹲っていたエレに、親指をビシっと突き出してウインクした。

「なかなか迫真の演技だったわよ、エレ。」

 するとエレもニヤリと笑って親指を突き出した。

「大変だったわよー。笑いを堪えるのに、マジ苦しくてー。あははっ!」

 エレは緊張の糸が切れたのか、笑いが止まらなくなっちゃったみたい。

「ぷっ!あはははは!」

 それで私もおかしくなっちゃって、二人してしばらくそこで笑い転げていた。



 その後、私とファム、そしてエレは教会から脱出するために奔走した。やはりレクセウスにばれてしまったのか、やたらと警備兵が多い。私達は、警備兵に見つからないように隠れながら移動を行った。

「こっちよ!(たぶん)」

 私は二人を先導して走る。警備兵のいない方へ、そして出口へ!だがしかし!


 どんっ!


 曲がり角を曲がった瞬間、不意に誰かにぶつかった。

「きゃっ!」

「っと、悪いな。」

 見上げると、そこには鎧に身を包んだ警備兵が立っていた。・・・しまった、見つかったか!でも、相手は一人だし、何とかできるかも!?でも、この既視感は一体なんだ??私は一瞬考える。

 あああああ!!

 よく見ると、兜から覗いた顔は私がオトシマエをつけそこなった青年ではないか!

「あれ、おまえ・・・」

 向こうも私に気がついたようだ。ここで出会ったが1000年目、きっちりオトシマエはつけてもらうか、と思ったら。

「ちょっとシキ!あんた、こんなとこで何してんのよぅ!?」

 エレが青年に食ってかかった。

「あん?ガキ、いたのか。ちっこすぎて見えなかった。」

「な・・・なによぅ!レディに向かって失礼なヤツね!!」

 どーもこの二人、お知り合いのようねー。

「ティセラ、言ったでしょう!?コイツよ!あたしを売ったサイアクサイテーのヤツよッ!!」

 エレは怒りにふるふると震えながら言う。青年はそれを気にする様子もなく、言った。

「しょーがねぇだろ。路銀尽きたんだからよ。」

 青年は兜を取って床に転がした。すると、あれまぁ。エレと同じ、緑がかったサラサラの銀髪が露になった。この人も、セラファタだったんだ!私は呆れて言った。

「フツー売るか?仲間を・・・」

「仲間なんかじゃない!」

 これには二人、仲良くハモって答えてくれた。そして、ファムがぼそりと私の耳元で言った。

「ファムを売ろうとしていたのは誰ですの・・・」

 や、やぁね。そんなことまだ覚えていたのね。私は話題を変えるため、シキに話題を振った。

「でも、危険を冒してここまで乗り込んでくるなんて、エレを助けに来たのよね?」

「いや。バイト。」

 シキは心からそう言っているように・・・見えた。

「あんたと別れた後、張り紙で見て面接行ったら通ってさ。ここ、時給いいのな。」

「って、あなた異端審問官に追われてなかった・・・?」

 ま、まぁシキはこう言ってるけど、本当はエレを助けに来たはずよ!!・・・たぶん。

 シキの話によれば、レクセウスはカデリナの聖都ファレナに帰国したそうだ。警備兵が多いのは、レクセウスの不在を補うため増員されたのだろう。だけど、一般の警備兵が多少増えたところで、怖いのはレクセウス一人だもの。そのため、後はシキの案内で簡単に教会を脱出することができたのだった―――――



「やっぱシャバの空気はおいしいわねー。」

 私は大きく伸びをする。もうすぐ夜明けだ。いやいや、長い一日だったわ。

 私は、ちゃぷんと湯船に肩までつかる。そう、私は宿をとり、今温泉に浸かっているのだ。う〜ん、いいお湯♪こんな時間に温泉に浸かっている人は全然いないから、とってものびのびできる。私のほかは、地元のおばーちゃんが二人いるだけ。

 え?宿の代金はどうしたのかって?シキがエレを売ったときかなりの額になったらしく、ちゃーんとオトシマエ、つけてくれたのよね。

 彼等とは、教会を出たところで別れた。二人は旅の途中で、陽が昇る前にこの町を後にすると言っていた。まぁ、ここに留まってまた捕まったら笑い話にもならないし、お別れするのは残念だったけど私は引き止めはしなかった。

「えー、もう行っちゃうの!?カイト様や、ティセラのお知り合いの王子様がたにご挨拶したかったのに――。」

 エレも、とっても残念そうだったわね。でも、何だかあの二人とはまた会えるような気がするなぁ。

 温泉に浸かって私は、疲れもあって何だか眠くなってきた。気がつくと、顔までお湯に浸かって・・・ぷくぷくぷく・・・


 はっ!!


「ゴホゴホゴホッ!!」

 お湯を思いっきり吸い込んで、僕は思いっきりむせかえった。

「ん?・・・ここは・・・温泉??」

 僕は立ち上がって周りを見渡す。すると、むせかえっていた僕を心配したのか人影が近づいてきた。

「あんた、大丈夫かね?」

「あら、女の子だとばかり思っていたら、おやおや可愛い坊やだねぇ。」

 二人の年配の女性達の視線が、一点集中する。

「カイト様・・・きゃっ。」

 そして目を手で覆ったファムの、指の隙間からの視線も。

「わ―――――ッ!!!!!」

 僕は頭の先までお湯の中にリターンする。すると、外のほうから若い女性達の声が聞こえてきた。

「朝から温泉に入るっていうのも、旅の醍醐味よねぇ。」

「ここ、露店になっているらしいのよ。楽しみだわ。」

 もしかしなくても・・・ここわ女湯ですね・・・?

 

 ちょ・・・姉上、この状況、どーしてくれるんですかぁっ!!

 

  

 

 

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