幻想入りの話 ~ 上
紅魔館の吸血鬼・レミリア・スカーレットと館の住人たちは、八雲紫の手を借りて館ごと『幻想入り』することとなる。
ここからやっと、幻想郷での話なんですよね~w
いわゆる、本編スタート!
コンコン、とノックの音。
「レミィ、入るわよ。」
「どうぞ。」
「いったい何の用?」
「皆が集まるまで、待っておいて?」
「そう。」
レミリアの親友ともいえる存在、パチュリー・ノーレッジ。彼女もまた、ここ紅魔館の住人だ。
「今度は何するのよ。面倒ごとはもう嫌よ?」
「皆集まってからのお楽しみよ?」
むきゅう、と、パチュリーが変な声を出す。レミリアはそれを笑ってみていた。
(あの変な声、口癖かしら?)
付き合って長い彼女でも、あれが笑わせるつもりなのかそうじゃないのかは分からない。
(ま、面白いからいいけど♪)
コンコン
「失礼します。」
「あ、片付けありがとう。」
「いえ。これも従者の仕事ですから。」
パチュリーの使い魔、小悪魔だ。
「…あ。」
「?」
「もしかして、この前の変な奴?」
恐らく、八雲紫のことを言っているのだろう。レミリアは不満げな顔をした。
「…聡いわね、面白くないわね…。」
「…当たってたのね。」
ふふ、とパチュリーが微笑む。
「…ま、大体そんなところよ。」
「何するかは分からないけどね。」
コンコン、ガチャ
「失礼します。」
「あら、美鈴」
紅魔館の門番・紅美鈴だ。
「こんばんは、お嬢様。」
「おはよう美鈴。」
「?」
「あ~た~まっ」
ペタペタと帽子と顔を触る美鈴。
「?」
「テッペンのとこよ。」
クスクス笑いながら、頬杖をつくレミリア。
「!あぅ…す、すみません。」
美鈴は門番だが、よく居眠りしてサボってしまうことが多い。その都度メイド長が、制裁としてナイフを一本刺す。
彼女は少し眠たそうに、帽子に刺さったナイフを取った。
ガチャ
「お待たせいたしました。」
「ありがとう。」
フランドールと一緒に、咲夜が部屋に戻ってきた。
「全員集まったわね。」
すっ、とレミリアが立ち上がる。いつの間にか、レミリアの斜め後ろに、咲夜が寄り添うように立っている。
「これから、お引越しするわ!」
「…」
「…」
「…」
「…」
沈黙。
「…引越しってあんた、しょっちゅうやってたじゃない。」
「今までとは訳が違うわ。次の目的地は『幻想郷』という場所よ!」
「…何処でしょうか?」
「日本の何処か。」
「あんた知らないの?」
パチュリーは呆れ顔だ。
そこに、
「案内は私がいたしますわ。」
「うわっ!?」
レミリアの後ろから、唐突に八雲紫が現れた。
「あ、あんた何処から…」
「ここから。」
と言って、紫は後ろの空間の裂け目を指差す。
「何…それ。」
「私の能力、知ってる?」
「能力?」
「そう。『境界を操る程度の能力』よ。」
「境界…?」
「そ。細かい話は後でするとして、今回のお引越しは私の力を使ってやるのよ。」
レミリア以外は、突然の見知らぬ訪問者に驚いていて、何も言えないでいる。
「…あぁ、自己紹介がまだでしたわね。私、幻想郷の妖怪、八雲紫よ。これからよく会うと思うから、ぜひ覚えてくださいませ。」
紫は軽く一礼する。紅魔館の住人も、それに遅れて会釈をする。
「自己紹介はこれくらいにして、まぁ今からでもお引越し、できるわよ?」
「え?もう場所は詳細に決まってるの?」
「えぇ、この館が置けるのはここくらいしかなかったけど…」
そう言って紫は、空間の裂け目を開いてみせる。
「…湖?湖畔の大地に置くのかしら?」
「お気に召していただけたかしら?」
「…湖畔に紅い館…いいわね、そこで決定!」
盛り上がる二人。そこに、
「あ、あの、お嬢様?」
咲夜が割って入る。
「盛り上がっていらっしゃるところ大変恐縮なのですが、『幻想郷』とは一体どのようなところなのでしょう?従者とはいえ、これからの生活に大いに関わると思いましたので、できれば越した先について詳しく教えていただけないでしょうか?」
「…ん、そうね。とはいえ私もよくは知らないのよ。」
「引越しの合間に説明しようかしら?」
「それでいいわ。で、これから移動するのね?」
紫が、空間の裂け目に座る。
「えぇ、建物ごとね。」
「た、建物ごと!?」
「私にしかできない芸当よ?引越し先の空き地で、説明を聞きながらゆっくり見ましょう?」
紫の笑みは、何時見ても不気味なものである。