吸血鬼の話 ~ 中
(確かに咲夜をそのままには出来なかった。)
いすの肘掛に肘を置き、頬杖をつく。
(……人間の血を吸うのを控えるようになったのも、咲夜と出会ってからだっけ…。)
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西洋。
咲夜はヴァンパイア・ハンターとして有名な少女だった。
名前は不明、容姿も不明。時に人を超えた奇術を使うことから、存在しないとも言われるほど。
『時間を止めることができる』
その絶大な力に自信があった彼女は、『スカーレット・デビル』-出来損ないで有名な、レミリア・スカーレットを狩りに行った。
スカンッ!
「!」
眠りから覚めたレミリアの足下に、ナイフが一本。
「…銀!」
まさか、と、急いで廊下に出たとたん、
(…血生臭い…)
様々な血を吸ったレミリアは、その血の臭いで二つの存在が思い浮かぶ。
(人の血と……吸血鬼!?)
目の前で父と母が殺されるという経験をしている彼女だからこそ分かる、人の血を糧とした独特の、吸血鬼の血の臭い。
(うっ…)
ごくり、と生唾を飲む。
(臭いが…強い)
つまりそれは、数多もの吸血鬼を狩った証。ヴァンパイア・ハンターの勲章だ。
(まさか…フラン…)
気持ちの悪いのを我慢して、彼女は妹の部屋に向かった。
「あなただぁれ?」
フランドール・スカーレット。レミリアの妹で、その力ゆえに地下に幽閉された、『悪魔の妹』。
フランドールは虚空を見つめながら、足下に刺さった銀のナイフの『目』を握る。
バキバキバキ…
「だれの?だれ?そこにいるんでしょう?」
不自然に折れたナイフの柄を持ち、不思議そうに眺めるフランドール。
「…!うえぇ、この臭い、嫌い。」
ぽいっ、とナイフを捨てて、再度『目』を握る。
メギャンッ!!
終ぞナイフは粉々になった。
彼女は、物に宿る『目』という、最も緊張したところを掌に移し、それを握りつぶすことで『あらゆるものを破壊することができる』。
「だぁれ?」
掌を広げ、前に出す。離れた場所にある『目』を探る仕草だ。
「!あは!みぃつけた!!」
彼女の目は、紅黒く光っていた。
掌を
「あはっ」
強く
「はははっ」
握る
「?」
が、握り締めた掌に、『目』を潰した感覚が無い。
「?あれぇ?」
きょろきょろと辺りを見渡すフランドール。
「!」
直後、右に身を翻す。
ズガガガガガガガガッ!!
すると、フランドールが元いた場所には、びっしりとナイフが刺さっていた。
「フラン!」
「…!お姉様?」
階段から地下に降りてきたレミリア。
フランドールの部屋は、地上からの階段と直結している。そこからしか入れないはずなのだが、
「大丈夫?」
「へいきだよ。急にどうしたの?」
何時の間に、フランドールに気付かれることなく、何者かが侵入している。
(なんてハンター…。)
少なくとも彼女が出会ったハンターは、こんなことは到底できない。
「誰かいるなら姿を現しなさい!私たちを殺すつもりなら、表で堂々と殺り合おうじゃない。」
数秒の沈黙の後、
「…チッ」
布の擦れる音と共に現れたのは、
「……」
銀の長髪、鋭い目、そして漆黒の布を身に纏っただけの少女だった。
「……吸血鬼狩りの子ね。…フラン?あの子と遊びたいかしら?」
嘲る様に微笑みながら、レミリアはフランドールに問うた。
「…たのしい?」
「えぇ、それはもう」
瞬間、レミリアの手の内が紅く光る。
「最高に楽しいに」
手を上げ、掌を開く。
「決まってるじゃないの!」
目が紅く光り、手には紅く光る槍が現れる。
ヴンッ!!!
驚異的な身体能力で放たれた槍は、容易く音速を超える。とても人間にはかわせない、高速のやり。
地下の壁をえぐり、大地が現れる。
しかし、
「!!」
シュッ!!
レミリアの真横を、ナイフが一閃。辛うじて、レミリアは避ける。
(かわした…というより、見えてたから避けた…?)
攻撃の直後の彼女の行動に、レミリアは違和感を覚えていた。
(当たってない…いや、当たるわけがない…)
槍を投げた直後の、ほんの少しの違和感。
(私の直線上にいたはずのあいつが…何故か横にずれた…)
ほんの―いや、本当に一瞬の出来事だった。
(…どういうこと?)